表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

【第8話】「倉庫の後始末と、見えたほころび」

「よーし、最後の棚まで片付いたな……」


 昼下がりの陽が差し込む倉庫で、3人は肩で息をしながら立ち尽くしていた。


 戦いの余波で穴だらけになった床を埋め、雑然と積み上げられていた木箱を分解し、使える備品を選り分けて、一覧表にまとめる。ホコリまみれの布や錆びた武器の残骸も山ほどあった。


「まさか、冒険者になって最初の大仕事が“ゴミの山との戦い”になるとはね……」


 アゼリアが腰に手を当てて、わざとらしくため息をつく。


「筋肉痛、明日が怖いです……」


「明日だけで済むといいけどな……」


──それでも、終わった。


 ゴルディが支部の入口で待っていて、3人の顔を見るなり、ぱっと笑った。


「おお、戻ったか! お疲れお疲れ! 倉庫、すごかったろ?」


「ホコリと粘液と、あと……なんかよくわからないキノコが生えてました」


「キノコ!? ま、まぁ、それは後で処理しとく……たぶん」


「それで……その、報酬はどこで?」


 恐る恐る切り出すと、ゴルディは一瞬、表情を曇らせた。


「……支部長から直接受け取ってくれ。ただ……まぁ、言わなくても分かると思うけど……」


 その言葉が不穏すぎたが、顔を見合わせて、意を決して支部長室のある階段を上がった。


──ドアの向こうから、聞こえてくる。


「ええ、ええ。その件はよろしくお願いしますとも」


「もちろんです。では後ほど……」


 聞こえたのは、マルベックの馴れ馴れしい声と、誰かと取り引きしている気配だった。


──悪い予感しかしない。


「チッ。貴様らか。何用だ」


「何って、任務終わったんで、報酬を……」


 依頼書を掲げて見せると、マルベックはふんと鼻を鳴らし、机の引き出しから硬貨を数枚、乱暴に放り投げた。


──チャリン、チャリン。


「10Z……だけ?」


「え、待って!? ちょっと! これだけ!? パン一個も買えないって!?」


 アゼリアが叫ぶ。ミロリーは、手の中の小さな硬貨を見つめながら声を漏らした。


「少ない……です……」


「元々の報酬、500Zって聞いてたんだけど……」


「当然だ。貴様らは研修中だ。それに、登録費、保険費、宿代──それらを差し引いた。何も問題はない」


「問題しかないだろうが!!」


 思わず声を荒げた。アゼリアの表情も、怒りで真っ赤だ。


「ふざけないでよ! 一日中、埃まみれで働いたのよ!? あれでこれ!? どこがまともな報酬よ!!」


「わ、私たち、頑張ったのに……」


「文句があるなら辞めればいい。……だが」


 マルベックの目が鋭く細まる。


「ここを出ていった者は、“裏切り者”としてブラックリスト入りだ。他のギルドも、冒険者登録を認めない。──お前たちは、二度と冒険者にはなれん」


──脅しかよ。


 この支部は、最初からそういう仕組みで回ってる。

 最初から労働者を搾取する前提で作られてる。文句を言えば潰す、逃げようとすれば業界から締め出す。


 まるで──前の世界のブラック企業と同じじゃないか。


「……次は、ちゃんと交渉します」


 知久はそう言って、硬貨を一枚だけ受け取り、部屋を出た。

 アゼリアとミロリーも、後ろに続く。

 廊下に出た瞬間、誰もが言葉を失っていた。


……だけど、もう黙っているつもりはなかった。


「働いたら、働いた分だけ報酬がもらえる──そんな“当たり前”を、俺たちで作るしかない」


 そう言うと、2人が目を見開いた。


「ふ、ふーん? べ、別にあんたが言う前から思ってたし? タダ働きなんてまっぴらだから!」


「わ、私も……お金、ちゃんと稼いで仕送りしたいんです。田舎の家族のために……」


──小さいけれど、確かな決意だった。


 前世で失ったものを、今度こそ守るために。

 この場所を、変えてやる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ