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【第7話】「倉庫のスライムと、少しの距離」

「うわああああああ!? で、出たああああっ!!」


──朝から叫び声が倉庫中に響き渡った。


 その発信源はもちろん知久で、原因は──


「スライム!? いや速すぎだろお前!?」


 薄暗い倉庫の隅から、ぬるりと現れたその魔物は、よく知られる“スライム”像とはかけ離れていた。ぼんやりしているどころか、跳ねる、転がる、加速する!


「アゼリア、前だ!」


「任せなさいっ! ──やぁっ!」


 気合いの入った掛け声とともにアゼリアが斬りかかる──が、


「って、うそ!? すっぽ抜けたあああああああ!!」


 彼女の剣は乾いた音を立てて手元から抜け、華麗に弧を描いて壁に突き刺さった。


「なんでよ≪フランベルク≫!! あんた、反抗期なの!?」


「いや、問題あるとしたらアゼリアの方だろ!!」


 自分の剣に向かって文句を言うアゼリアに思わずツッコむ。

 しかし、どうやらこのスライムはただの個体ではないらしい。


「こいつ……変種よ! “ロンリースライム”っていうの! 素早くて、単独行動が多いの!」


「つまり、厄介なスライムってことか……! ミロリー、魔法でサポートを頼む! 土で動き止められるか!?」


「は、はいっ……土魔法、土魔法……《アース・フォール》!」


 ミロリーが懸命に杖を掲げて詠唱する。だが──


「あっ、位置……間違えた……っ!」


──ズズンッ!


 突然、アゼリアの足元がずぼっと沈み込み、大穴が出現した。


「きゃああああっ!? ちょっと!? あたしのこと狙ってるの!?」


「ひぃぃ……! ご、ごべんなせぇ……!」


 顔を真っ赤にしたミロリーは、その場にしゃがみこむと──ぽすっ、と自分で地面に穴を掘って、その中に顔をうずめた。


「……また自分で穴掘って入ってる!?」


 だが今はツッコんでる暇はない。知久は腰のポーチから一本の瓶を取り出した。

 《ブルーライトニング》──今朝、加護で購入しておいたドリンクだ。


 《ライフイズエナジー》から出した飲料は、ストックとして持ち歩けるらしい。これは初の運用チャンスだ。


「ええい、使ってやるよ!」


──プシュツ!


 缶をプルタブで開け、一気に喉へ流し込む。次の瞬間、全身がじわっと熱くなり、視界が研ぎ澄まされていく。


「見える……!」


 ロンリースライムが高速で駆け回る──が、知久の反応もそれに追いつく。


「おらああああっ!!」


 ナイフを構えて飛び出す。その意図を読んだのか、スライムもぴょんと跳ねて距離を取る。


──でも、今なら追いつける。


《ブルーライトニング》は、スピードと反応力を強化するドリンク。軽やかな足取りで追い詰める。


「アゼリア!」


「了解っ!」


 穴から這い出たアゼリアが、今度はしっかり構えてスライムの前に立ちはだかる。


「ミロリー、今よ!」


「はいっ! 今度こそ……! 《アース・フォール》!」


──ボコッ!


 地面が陥没し、スライムが飛び跳ねようとした先に大きな穴が開いた。


「こ、今度こそ成功しましたっ!」


「おりゃああああああ!!」


 勢いそのまま、知久は粘液に足を取られながらも突撃し──ナイフで一閃!


──ぐちゅん。


 ぴち、ぴち……としばらく跳ねた後、ロンリースライムは光の粒になって弾け、消えていった。


「ふう……撃破、完了っと」


 壁から剣を引き抜き直したアゼリアが、肩で息をしながら笑う。


「まったく……スライム相手にここまで苦戦するなんて、思ってなかったわ」


「ごめんなさい……また穴、間違えちゃって……」


「でも、最後は完璧だったじゃん」


 知久が言うと、ミロリーはうつむきながらも、ぽつりと呟いた。


「……一緒に戦えて、ちょっとだけ……嬉しかったです」


「……へへっ。あたしも。前の支部よりずっといいわ、ここ」


 アゼリアの笑顔には、少しだけ、寂しさの影が混ざっていた。


「前の支部、そんなにひどかったのか?」


「うん。あたし、戦闘になるとミスが多くてさ。掃除係に回されたの。ずっと」


「わたしも、人と組むの苦手で……こうして一緒に動けたの、はじめてで……」


「……じゃあ、次もまた一緒にやろうな」


 自然と、そんな言葉が出ていた。

 さっきまでの距離が、少しだけ縮まった気がした。


「……まあ、倉庫は穴だらけになっちゃったけどね」


「はうぅ……」


 顔を真っ赤にしたミロリーの姿に、知久とアゼリアは思わず大笑いした。

 その笑い声が、久々にこの職場に響いた気がした。


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【RESULT: ロンリースライムを撃破! スキルポイント +1!】


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《ブルーライトニング》


ブルーハワイの風味がするドリンク。

青い稲妻に打たれたような気分になる。


効能:俊敏性が増し、圧倒的なスピードを得ることができます。

効果時間は30分。成長次第で最大2時間まで延長可能。


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