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【第6話】「最初の任務と、支部の空気」

──ガラガラッ!


「おい、知久ー! 起きろ、朝だ朝だ! 任務だぞ!」


 ゴルディの異様に元気な声とともに、知久の部屋のドアが叩き割れんばかりに開かれた。


「うわっ!? まだ……え、5時!? なんで!?」


「何言ってんだ! うちは早いもん勝ちだぞ!? 出遅れて起きてきたら、きっつい仕事しか残ってないぜ!」


──なんだよその謎システム!?


 布団を引っぺがされる勢いで起こされ、寝ぼけ眼のまま共用スペースへ向かうと──すでにアゼリアとミロリーの姿があった。

 アゼリアは目をこすりながらも意外と元気そうで、ミロリーは毛布に包まりながら、椅子にちょこんと座っている。


「おはよう、知久」


「お、おはようございます……」


「おはよう。しかし寒いな……朝の空気って、肌に刺さるんだな……」


「初仕事だって。ゴルディから話があるらしいわよ」


「おっす、お待たせ!」


 ゴルディが紙束を抱えて登場した。


「今日はお前らにぴったりの任務がある! ホワイティア村外れの倉庫整理だ!」


「……え?」


「村の備品が詰まった倉庫があってな。ずっと放置されてたから、誰も触りたがらねぇ。中にはネズミやスライムも出るらしいが──!」


「いや、それって普通に“嫌”なんだけど!?」


「しかもスライムって、☆1とはいえ魔獣ですよね……?」


「いいか? 冒険者は雑用から始めるもんだ! オレなんて最初の任務は便所掃除だったぞ! しかも伝説級の“詰まり”で──」


「その話、聞きたくないです!」


 苦笑しながら紙を受け取ると、そこにはしっかりこう書かれていた。


---------------------------------------------------------------


≪任務内容≫


ホワイティア村 備品倉庫の整理・清掃・危険生物の駆除


≪推奨人数≫


最大3人


≪報酬≫


日当 300Z


----------------------------------------------------------------


「……これ、本当に“冒険者ギルド”の仕事なのか?」


 ちなみに300Zとはどれくらいの価値かと尋ねたところ、『酒が3本飲めるくらい』らしい。

 よくわからないが、たぶん3000円ぐらいだろうか。

 バイトの日給だとしてもかなり低い。


「まあまあ、最初は足場固めってやつだ。それに、お前らはまだ☆1なんだからな」


「ちなみにゴルディさん。あんたのランクは?」


「ん? オレも☆1だぞ!」


……ダメだこりゃ。


 アゼリアが腕を組みながら言う。


「ま、こういうのは慣れてるし。前の支部でも、雑用ばっかやらされてたから!」


「そりゃ剣もすっぽ抜けるわけだわ……」


 妙に納得してしまった。

 すると、ミロリーが控えめに手を挙げる。


「あの、知久さん……今日は、その、一緒に……行ってもいいですか?」


「ああ。もちろん。アゼリアも、いいか?」


「べ、別にあんたに付き合ってあげるわけじゃないけど……せいぜい、あたしの足を引っ張らないことね!」


 ぎこちないながらも、3人の間に少しだけ“チーム感”が生まれた気がした。


──だが。


 支部全体の空気は、それとは対照的に重苦しい。

 共用スペースのテーブルでは、他のギルド員たちが無言で作業を進めるか、疲れ果てたように壁にもたれて目を閉じている。

 笑い声はひとつもない。会話すら、ほとんど聞こえてこない。

 

 まるで、笑うことを忘れた職場だ。


(……この空気。やっぱり、あの頃と同じだ)


 思い出すのは、前の職場の光景。無言で残業を続ける同僚たち。声をかける余裕も、笑う余地もない日々。


 でも、だからこそ。


「……まずは目の前の任務からだな」


 そう呟いて、倉庫行きの準備に取りかかった。

 何かを変えるには、まず最初の一歩を踏み出すしかない。


 ここからだ。このギルドも、自分自身も──変えてみせる。

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