表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~  作者: ゼニ平
第2部 『港町の黒焔鬼編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/66

【第32話】「真実と贖罪」

 夜の海風が、港町をゆっくり撫でていた。

 復興作業で明かりが灯る街を背に、知久はひとりギルド支部の前に立っていた。


 すると――


「四谷知久殿。少しいいか?」


 振り返ると、そこにはどこか疲れた表情のグレンが立っていた。


「グレンさん?」


「話がある。……ついて来てほしい」


 ただならぬ声音だった。

 知久は無言で頷き、後に続く。


☆ ☆ ☆


 二人が向かったのは、総督府の奥にある隔離室だった。


 扉を開けると、簡素な寝台の上にヴィーノが横たわっていた。

 身体中に包帯が巻かれ、息はかすかに揺れている。


「……ヴィーノ総督」


 知久が声を漏らすと、グレンがそっと手で制した。


「四谷知久殿。君に話しておかなければならないことがある」


 グレンは、ゆっくりと息を吐き――

 まるで胸の奥に沈めていた重りを取り出すように語り始めた。


「王家の中にもいわゆる派閥争いというものがあり、中には敵対する家同士もある。特に我がフレーヴェント家と、彼のアッシュヤード家はな。だがセファが支部長に就任してから……ヴィーノは私のもとを訪れた。自分のしてきた事すべてを話し……こう言ったのだ」


 グレンは一度、言葉を切る。


「“私は、彼女を守りたい” と」


 知久は息を呑む。


「守る……」


「そうだ。ヴィーノは自分が犯してきた罪も、これから受ける処分も、すべて覚悟していた。ただ――セファだけは救いたい、と」


 グレンはヴィーノに視線を向ける。

 まるで、倒れた仲間を悼むような目だった。


「私は反対した。だが、王家の政治も、ギルドの正義も……この件に限っては、どちらにも正解がなかった。だから……貴殿を呼んだ」


「俺を……?」


「君なら、セファを導ける。守れる。そしてヴィーノの“計画”を、別の形で終わらせられると……私は信じたのだ」


 知久の胸が、きゅっと締め付けられる。


「計画って……」


 グレンは静かに告げた。


「――ヴィーノは、セファの手で討たれるつもりだった」


 知久の身体が固まる。


「彼自身の罪をすべて背負い、“黒焔鬼”として倒されることで、アッシュヤード家からセファを守り、ギルドの未来を守ろうとした」


 グレンは苦い表情を浮かべる。


「私は止めた。そんなやり方は間違っている、と。だが……ヴィーノには迷いがあったのだろう。君の力を、信じていいのかどうか。……セファの命がかかっていたからだ」


 知久は拳を握った。


「……っ!!」


「……疑って、申し訳なかったと思っている……」


「ヴィーノ総督?」


「……君は、立派にセファを守り、育てた。……どうしても、私にはできないことだった……」


 その時、扉の影から小さな姿が現れた。


「……セファ?」


「……全部、聞いてました」


 後ろには、エナがいた。どうやら彼女がセファを連れてきたらしい。


 震える声。

 だが瞳はまっすぐヴィーノを見ていた。


 ヴィーノはゆっくりと目を開く。

 弱々しい息の中、かすかに笑みを浮かべた。


「……こんな姿を、見せたくは……なかったが……」


 セファはベッドのそばに膝をつき、深く頭を下げた。


「ごめんなさい……私……おじ様のこと、疑って……傷つけて……!」


 ヴィーノは首を振る。


「いいや……謝るのは……私の方だ……セファ……」


 黒焔に染まったその瞳に、かすかな光が戻っていた。


「十年前……私はもっと早く、真実を話すべきだった……そうすれば、リヴェラも……ダリオンも……助けられた……」


 セファの肩が震える。


「……私は……弱かった……王家の闇から逃れられず……お前を……あの家の手から守るために……黒焔鬼として生きるしか……なかった……」


 ヴィーノの手が、震えながらセファの頬へ伸びた。


「……すまなかった……セファ……こんな形でしか……守れなかった……」


 セファはその手をぎゅっと握る。


「おじ様は……守ってくれました。ずっと……ずっと……私を、守ってくれていたんですよね……?」


 涙がぽろぽろと落ちる。


 ヴィーノの唇がかすかに動く。


「……ああ……それだけは……本当だ……」


 その様子を見守りながら、知久は静かに前へ出た。

 ヴィーノは視線だけで、彼に問いかける。


「……四谷くん……君は……セファを……どう育てた……?」


 それは、これまで幾度も投げられた問い。

 知久は、迷わず答えた。


「俺はセファを……信じました。信頼して、育てました」


 セファがこちらを見上げる。

 グレンも、ふっと目を細めた。


「最初は、不安でした。でも、俺はこの子なら立派な支部長になれると信じてました。両親の思いを受け継ぎ、俺の教えたことを守って……きっと正しい道を進むことができる。間違えたとしても、周りと一緒にまた歩いて行ける。そんな強さを持っている。だから俺は、この子に信じて、寄り添って歩いていただけです」


 ここまで来るのに、グレン、エナ、ホワイティアの仲間たち。

 みんなが知久を信じてくれた。

 だから、今度は自分がセファを信じる番だと、そう思ったのだった。

 

「ヴィーノ総督も……同じ考えだったんじゃないですか?」


 ヴィーノの瞳に、わずかに笑みが宿る。


「……ああ……君がセファの先生で……よかった……」


 その言葉は、安堵と、長い苦しみから解放されたような響きを帯びていた。

 静かな夜が、ゆっくりと過ぎていく。


 黒焔鬼の真実は――


 ようやくここで、終わりを迎えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ