【第22話】「開会式」
カラーポルトの中央広場には、朝から色とりどりの旗がはためき、屋台の準備に追われる人々の声があちこちで交差している。
待ちに待った港祭り――その開会式の時刻が、ついに迫っていた。
壇上の裏で、セファは緊張した面持ちで深呼吸を繰り返す。
「……だ、大丈夫……大丈夫……」
「肩に力入りすぎだよ、セファ。深呼吸、もう一回」
横で見守るルネが、優しい声で肩を軽く叩いてやる。
「お、おば様……緊張で死にそうです……」
「死んじゃいけないよ、支部長。さ、行っておいで」
ルネの言葉に背中を押され、セファは小さく頷いた。
知久は少し離れた場所からその様子を見守っていた。
彼自身もスピーチの内容は一緒に練り直したし、当日の段取りも何度も確認した。
心配はしていない――が、それとは別にもうひとつ、注意を向けているものがある。
(……ヴィーノ総督。黒焔鬼が動くとしたら今日だ。何事も無いならそれでいいんだが……)
開会式の鐘が鳴り、人々の視線が一斉に壇上へ向けられた。
司会役の町役人が声を張り上げる。
「それでは、今年の港祭り――開会のご挨拶をいただきます! カラーポルト冒険者ギルド支部長、セファ・ウンディーネ様!」
震える足を前に出し、セファは壇上へ。
見渡す限り広がる人の海に、一瞬足が止まりかける。
だが――後ろにいるルネの視線、そして中央付近で自分を見守っている知久の姿が目に入ると、胸の中にひと筋の勇気が走った。
セファは民衆の前に立ち、ふぅ、と息を吸った。
「み、みなさん……! 本日は、港祭りにお集まりいただき、ありがとうございます!」
声は震えていたが、よく通る声だった。
「今年は……その……色々、大変なことがありました。火事もありましたし、怪我をした仲間もいました。でも……!」
セファは拳を握る。
「でも、私は気づきました! カラーポルトの人たちは、どんな困難にも負けません! みんなで助け合って、支え合って……だからこそ、今日、このお祭りを迎えられたんだって!」
ちらほらと歓声が上がり始める。
「私は、まだまだ未熟な支部長ですが……これからも、この街のみんなを守るために、全力でがんばります! どうか、よろしくお願いします!!」
広場が大きな拍手に包まれた。
知久は思わず口元が緩む。
(……やるな、セファ。立派だったよ)
ルネも目元をぬぐいながら、誰より大きく拍手していた。
セファが壇上から下りようとしたその時――
「いいスピーチだった」
ヴィーノの姿があった。
穏やかな笑みはいつもと変わらない。しかし、どこかその奥に影が揺れているように見える。
知久はその様子をじっと観察していた。
(やっぱり……表情は読めないか)
司会役が次の来賓を紹介する。
「続きまして――本日、中央よりお越しいただいた特別なゲストを紹介いたします! アッシュヤード家当主、ヴォイド・アッシュヤード様です!」
会場がざわつく。
「ヴォイド様……?」「珍しいな、こんな小さな町に……」
観客たちは好奇心の混じった視線を向けていた。
壇上に立ったヴォイドは、威圧そのものだった。
寒気を覚えるほど鋭い眼光。背筋の伸びた立ち姿。
まさに王族の権威を象徴するような男だった。
「カラーポルトの民よ」
低く、よく通る声が広場に響いた。
「本日、この地の繁栄を祝えることを誇りに思う。国が安定し、人々が正しく生きるためには――秩序と支配、そして強き指導者が必要だ」
観客たちは意味を理解できず、ただ「偉い人の話」として聞いていた。
しかし、知久はその言葉の裏に潜む冷たさを感じていた。
(“支配”……か)
ヴォイドは厳しく言葉を続ける。
「民が自ら動く時代など幻想にすぎん。弱者が弱者のままでは国は滅びる。だから我々が導くのだ――王族が、強者が!」
そして最後の一言が、開会の挨拶を締めくくった。
「今年も、この祭りが無事繁栄することを祈る! ――港祭りの開会を宣言する!」
盛大な拍手が広場いっぱいに響き渡った。
だが、知久は冷たい汗が背中を伝うのを感じていた。
(……この親子、何を企んでる?祭りの裏で、いったい何が動いてるんだ)
セファの晴れ舞台は成功した。
しかし――その裏では、確実に何かが動き出していた。




