表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~  作者: ゼニ平
第2部 『港町の黒焔鬼編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/66

【第21話】「前夜」

 カラーポルトの夕暮れは、祭りの熱気を先取りしたように賑わっていた。


 屋台の組み立てがひと区切りつき、冒険者たちも作業を終えて帰り始めている。

 広場には色とりどりの旗が並び、港へと向かう風が、どこか甘い匂いを運んでくる。


「はぁ……ようやく終わったな」


 知久は額の汗をぬぐいながら、組み上がった花火台を見上げた。

 木枠に魔石を収納する筒が取り付けられ、明日の夜には立派な花が夜空に咲くはずだ。

 

 街では、前夜祭と称して早くも飲み歩く者たちがいる。

 笑い声や歌声が夜風に乗って響き、カラーポルトは久しぶりに活気を取り戻していた。


 そんな中――街では、ある噂が静かに広がっていた。


「おい、明日の祭りに“偉いお方”が来るらしいぞ」

「中央の大貴族だとか。総督様のお父上だったか?」

「ああ、ヴォイド様だな」


 住民たちの反応は、好奇と畏怖が入り混じった“遠巻きな関心”程度だった。


「初めて見るって人、多いんじゃないか?」

「まぁ祭りの視察なんだろ。珍しいけど、縁起がいいのかねぇ」


 だが――ひとりだけ、別の反応を見せた者がいた。


 知久だ。


(……ヴォイド・アッシュヤードが来る? 本当に?)


 胸の奥でひやりとした感覚が走る。


 エナが言っていた。


『ヴィーノ総督の父上――ヴォイド・アッシュヤード様も、いま厳しい追及を受けています』と。


(なのに、このタイミングで“祭りを視察”? ……逃げてきただけ、じゃないのか?)


 だが、街の誰もそんな事情を知らない。

 ヴィーノの父が来ると知っても、


「すげぇ! 総督様のお父上か!」

「めったに見られないぞ! アッシュヤード家のご当主様なんだよな!」


 と、どこか浮かれている。


 知久だけが、胸のざわつきを押し殺していた。


(……嫌な予感しかしないな。黒焔鬼が動くとしたら、絶対この祭りのタイミングだ)


 その不安を振り払うように、知久は夜遅くまで見回りを続けた。


 花火の設置場所。

 倉庫。

 屋台の裏。

 裏路地の死角――。


 可能性がある限り、全部チェックした。


「……何も、ないな」


 不気味なほど、何もなかった。

 黒焔の痕跡も、明らかにおかしな配置も、どこを見ても引っ掛かりがない。

 気が抜けたように息を吐く。


「何もないならそれでいいんだけど……なんか、逆に不安だな」


 夜空には星が瞬き、潮騒がどこか遠くで揺れている。

 その奥で、見えない何かが息を潜めている気がした。


☆ ☆ ☆


 一方その頃――ギルド支部の支部長室。

 静まり返った部屋の中で、セファはひとり、壁に掛けられた青い槍を手に取った。


《グラン・マリヌス》


 母リヴェラが生涯握り続けた、支部長の象徴のような武具。

 この槍を手にする資格など無いとずっと思っていたし、今もまだ不安だ。

 水精の加護が宿る青い刃は、灯りのもとで淡く輝いた。


「……明日、絶対に守ってみせる」


 呟きは小さいが、震えていなかった。


「ギルドも、街の人たちも……私が守る。だって、私は支部長なんだもの」


 その目はこれまでで一番強く、真っ直ぐだった。

 拳を握りしめた少女の横顔に、青い光がそっと寄り添うように煌めく。


――嵐の前の、静かな夜。


 祭りを迎えるカラーポルトは、まだ誰も知らない。

 明日、この街の運命が大きく揺らぐことになるということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ