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異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~  作者: ゼニ平
第2部 『港町の黒焔鬼編』

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【第19話】「団結の火」

 カラーポルトの朝は、以前よりもずっと慌ただしかった。

 

 黒焔鬼の影が街に迫っている――

 その危機感が、ギルドの空気を引き締めていた。

 だが、それは同時に、どこか温かい熱を含んでいた。

 

 一人ではなく、皆で戦う。

 その意志が確かに芽生えていた。


☆ ☆ ☆


ギルド支部の掲示板には、新しい紙が何枚も貼られている。


《黒焔鬼対策・緊急行動指針》


・夜間の巡回強化

・倉庫設備の再点検

・港湾部の見回り強化

・住民への火災予防の呼びかけ

・怪しい人物の情報共有


 朝からギルド員たちが地図を囲み、真剣な表情で相談している。


「こっちは俺たち若手で回る!」


「俺らも手伝うぞ。何かあったらすぐ戻るからよ」


「住人への説明はあたしがやるよ!」


 年齢も階級もバラバラな仲間たちが、自然と同じ方向を向いていた。

 その中心に、青い髪の少女が立つ。


「みなさん! 本当にありがとうございます、です!」


 セファの声はまだ少し震えている。

 けれど、その瞳は揺らがない。


「黒焔鬼は……絶対に捕まえます! 街の人たちを、ギルドのみんなを守りたいんです! 一緒に、お願いします、です!」


「おうともさ! 我らが支部長の頼みだ!」


「任せろ! 今度は逃げねぇ!」


「支部長、ついていきますよ!」


 その声に、セファの肩が少し揺れた。

 驚きと、嬉しさと、責任の重さが全部いっぺんに押し寄せてきたのだろう。


 そんな姿を、知久は少し離れたところから見つめていた。


(……本当に成長したな)


 つい数日前まで、彼女は黒い炎を見ただけで足が竦んでいた。

 泣きながら、何を信じればいいのかわからないと言っていた。

 

 それが今では――


 皆の前で先頭に立ち、胸を張っている。


(セファは、ちゃんと繋ぐことができたんだな)


 母リヴェラから受け継いだ意志。

 ギルドの仲間たちに向ける責任。

 そして、支部長としての覚悟。

 

 それらが、彼女を静かに、しかし確かに前へ押し出していた。


☆ ☆ ☆


「おい、ベルノー!」


「あっし、今はほんと忙しいんで……!」


 奥の事務スペースから情けない声が聞こえた。

 ルネが松葉杖をつきながら、険しい顔でベルノーの背中を叩く。


「文句を言わずに働く! ギルド員の基本だよ!」


「ひ、ひぃ……!」


 ベルノーは額に汗を浮かべながら、山のような書類に向き合っていた。


「……ベルノーさん、いつもより頑張ってますね」


「まったく……しょうがない連中ですよ。ギルドってやつは」


 弱音を吐きつつも、手は止めない。


(みんな……変わったな)


 知久は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 誰かに押しつけられた士気ではない。

 恐怖に突き動かされた動きでもない。

 

 全員が、自分の意思で“守る”と決めた。

 だからこそ、動きが力強い。


☆ ☆ ☆


 その忙しさに追い討ちをかけるように、総督府からの使者がやってきた。


「ギルド支部長セファ殿! そろそろ港祭りの準備をお手伝い願いたい!」


「えっ!? こんな時に祭りの準備!? せ、先生、どうしましょう……!」


 知久は肩をすくめた。


「……やるしかないさ。みんなの不安を消すためって名目だしな」


「うう……わかりました、です……!」


 ギルドは黒焔鬼対策で手いっぱいだというのに、今度は祭りの準備まで請け負うことになった。


「セファ! こっちの倉庫の点検は終わったぞ!」


「支部長! 夜警の割り振り、これ確認してくださーい!」


「セファちゃん、この資料まとめてくれ!」


「わ、わわっ!? す、すぐやります、です!!」


 セファは忙しさの波に飲まれつつも、ひとつひとつ懸命に片づけていく。

 その姿は、もう“子供の支部長”ではなかった。


「……よし、これで一件落着、と」


 知久はそっと彼女の隣に歩み寄り、書類の束を肩代わりする。


「せ、先生……助かります、です……!」


「支部長の仕事は多いからな。俺の仕事はセファを支えることだし」


「……はいっ!」


 彼女は力強く笑った。


――その笑顔が、ギルドを動かす原動力になっていた。


☆ ☆ ☆


 こうしてギルドはひとつになり、黒焔鬼という“見えない脅威”に立ち向かう準備を進めていった。


 だが、その熱が高まれば高まるほど――


 闇もまた、静かに、深く、近づいていた。

 潮風の吹く港町の片隅で。

 黒い炎の気配が、消えずに燻っていることを。

 知久たちは、まだ知らなかった。

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