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【第4話】「ようこそ、ホワイティア支部へ」

──戦いは終わった。


「ふぅ……」


 加護の効果が切れたのか、全身の筋肉がずしんと重くなる。

 砂利道にへたり込みたい衝動をなんとか堪えながら、魔獣の死体をひと睨みした。


「な、なんとか……なった、のよね?」


 アゼリアが剣を引き抜きながら声を上げた。今回はすっぽ抜けずに済んだらしい。


「はい……でも、怖かった……」


 ミロリーは、土の中から這い出してきたまま、泥だらけでぐったりしている。


「とりあえず命は助かったな……馬車の人たちも無事みたいだ」


 御者が震える手でこちらに親指を立てていた。無事なのはありがたい。


「アンタ、なかなかやるじゃない。……ま、褒めてあげるわよ」


「ポンコツ剣士のくせになんか偉そうだな!?」


「誰がポンコツよ! ちょっと手が滑っただけじゃない!」


「しかも穴に落ちてたし!」


「それはあたしのせいじゃなくて、この子のミスでしょ!」


「ひぃっ、ご、ごべんなざい……」


 とにもかくにも──命拾いした3人は再び馬車に戻り、そのまま泥のように眠りこけた。


☆ ☆ ☆


「……あれが、ホワイティア村?」


 午前の光が差し込む中、3人を乗せた馬車が、目的地の村に差し掛かる。

 石造りの古びた門に、木造の家屋が点在するだけの、こぢんまりとした村。


「思った以上に、田舎ね……」


 アゼリアがぽつりと呟く。


「そ、そうですか……? 私の地元よりは、ずっと栄えてますけど……」


「ミロリー、アンタどんなド田舎から来たのよ……」


 村の入口で馬車を降りると、まばらな村人たちがこちらをじろじろと見ていた。


「ああ、またか……」

「どうせ使えない冒険者ばっかりだろう……」

「頼りなさそうな連中だな! まったく、わしの若い頃は……」


──歓迎ムードは、皆無だった。


「……とりあえず、ギルド支部に向かいましょ。たぶん、あれだと思う」


 アゼリアが指さしたのは、村の中でも比較的大きな木造建築。

 とはいえ王都の施設とは比べ物にならず、外観は年季が入っており、看板もかすれて読みづらい。


《冒険者ギルド ホワイティア支部》


「……ボロいな……」


「で、でも、ちゃんと“OPEN”って書いてありますよ……」


 ミロリーが指さした札を見た次の瞬間──


「おおっ、新人か!? ようこそ、我らがホワイティアへ!」


 豪快な声とともに扉が開いた。


 現れたのは、がっしりした体格に金髪と顎髭をたくわえた中年男。

 年の頃は三十代後半。明るくよく通る声と人懐っこい笑顔──だが、ちょっと距離が近い。


「オレはゴルディ! ホワイティア支部の先輩冒険者だ! 見ての通り人手不足だからな、新人は大歓迎だぞ!」


「ど、どうも……四谷知久よつやともひさです」


「アゼリアよ」


「み、ミロリーです……」


「よしよし、よく来たな! 今日からお前らも、ホワイティア支部の立派な一員だ!」


 勢いに呑まれるまま、建物の中へと案内される。


……だがその中は──想像以上だった。


「……おお……」


「思ってたより、すごいわね……」


 机は傾き、書類は山積みのまま雪崩寸前。

 床の隅にはクモの巣、受付には誰もいない。


「えっと……ここ、本当にギルド、ですよね……?」


「そりゃそうだ。支部長は奥にいるぞ。こっちだ! 案内する!」


 ゴルディが奥の部屋へと進み、3人は顔を見合わせながらもその後ろについていく。


──これが、俺たちの新しい職場。


 とんでもない場所に来てしまった予感だけが、妙に胸に残っていた。


 だが。まだ何も始まっていない。


──ここでなら、自分を変えられるかもしれない。


 そう、自分に言い聞かせるしかなかった。

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