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異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~  作者: ゼニ平
第2部 『港町の黒焔鬼編』

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【第9話】「繋いでいく意志」

 四谷知久は、元の世界ではブラック企業に勤めていた、どこにでもいる社会人だった。


 一人でなんでも抱えてしまう性格だったゆえに、仕事を抱えすぎて死んでしまったわけだが、その役職は最後まで平社員だった。


 だからこそ。


「そ、育てる、ですか……?」


 あのとき、グレンの前で言葉に詰まった自分を思い出す。

 グレンは首をかしげた。柔らかい笑みを浮かべながらも、その目は真剣だ。


「む? 何か問題があるのか?」


「いえ……その……」


 知久は躊躇しつつも、正直に口を開いた。


「お恥ずかしながら……実は、仕事で誰かを育てたことがなくて」


「ほう?」


 グレンの表情に、面白そうだという色が浮かんだ。

 まるで『そこからか』とでも言いたげな、師匠のような目。


「後輩はいましたが、部下という存在を持ったことがなくて……。だから、自分にできるかどうか……」


「貴殿の目標は、世界中で“働き方”を変えること。そうだったな?」


「ええ……そうです」


 あの女神に言われた言葉が、頭の奥でよみがえる。


――君の改革は、やがてこの世界を救うことになる。


 だからこそ、自分はホワイティアを飛び出し、旅に出た。

 次の場所で、新しい改革を成し遂げるために。


「だが、その改革も一時的なもので終わってしまっては意味がない」


「え?」


「貴殿が改革を果たしたホワイティアも、今は貴殿の意志を引き継いだ者がいるから安泰だろう。だが、もし彼らが全員ホワイティアを去り、再びマルベックのような男が上に立ったらどうする?」


 胸の奥がひやりとした。そこまで考えてもいなかった。


「だからこそ必要なのだ。後進の育成が」


 グレンの声音が重くなる。


「改革の意志を繋いでいくこと。それが肝要なのだ」


☆ ☆ ☆


 火事の翌朝。

 

 知久はベッドの上で、ふと天井を見つめながらこの会話を思い出していた。

 

 カラーポルト支部がもし普通の状況だったなら、立て直すだけならそう難しくはなかっただろう。

 ホワイティアのように癖の強い支部長がいるわけでもない。

 自分が先頭に立ち、細かい問題点を一つずつ潰していけば、支部はきっと立て直せる。


 だが、それではダメだ。


 自分はこの港町に永遠に居続けるわけではない。

 去ったあとにまた元の腐敗に戻るなら、すべてが無意味になる。


(……セファを育てなきゃならない)


 立派な支部長として、自分がいなくてもやっていけるように。


 しかし。


「……そんな簡単な話じゃないんだよなぁ」


 ため息を吐き、頭をかく。

 セファはまだ十三歳。

 一回り近く年の離れた少女など、知久からすれば未確認生物と大して違わないほどの難解さだ。

 ましてや「育てる」なんて、正直見当もつかない。


 そして、黒焔鬼という街を脅かす謎の存在。

 ただ育てるだけでなく、セファの身を守る必要もある。

 どちらも簡単に済ませられるようなことではない。


「あの人、やっぱ俺を過大評価してるよ……」


 それでも、自分からやると引き受けたのだ。

 グレンの信頼を裏切るわけにはいかない。


 知久は枕元に置いた缶をひとつ手に取り、無言で握りしめた。

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