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異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~  作者: ゼニ平
第2部 『港町の黒焔鬼編』

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【第6話】「セファの覚悟」

 夕方、港町に長い影が落ちるころ。

 汗と埃にまみれた知久は、重い足取りでギルドへ戻ってきた。


「おかえりなさい! どうでした……か?」


 セファが駆け寄ってくるが、そこでぴたりと足を止める。

 知久の服には、砂と汗と埃の跡がくっきりと残り、袖口にはまだ港の土がこびりついていた。


「ど、どうしましたか? 私の顔、な、何かついてる、です?」


 じっと見つめていた知久が、ふっと口元をゆるめる。


「……小さい鼻と口がついてる」


「こ、子供扱いはやめて欲しい、です!」


 セファはぷいと横を向き、頬を少しふくらませる。

 その仕草が、張り詰めた空気をほんの少し和らげた。


「……子供なのに、覚悟、キマリすぎなんだよな」


「え、何か言いました、です?」


「いや、なんでもない」


 知久は軽く首を振り、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

 指先にはまだ、荷物の重みが残っている気がする。


「現場は大変だった。でも、得るものも多かったよ」


「えっと……何か、見えてきたこと……とか……?」


 知久は少し考えてから、肩をすくめて笑った。


「まあ、急がば回れってやつだな」


「え? 急ぐのに、回るんですか? それ、余計に遠回りじゃないですか?」


 セファは本気で首をかしげる。知久は思わず苦笑した。


「……いや、回り道した方が近道になることもあるって意味なんだよ」


「へ、へんな言い回し、です……」


「まぁ、ともかくちょっとした事故があっててな。報告書は後で上げるけど……セファも一度現場に顔を出した方がいいな」


「た、確かに、事故が起きちゃったのなら、ちゃんと見ておかないと!」


「それもあるけど、一番は、もっとみんなにセファのことを知ってもらわないと、だ」


 セファは首をかしげる。


「ベテランの冒険者たちはともかく、若い人たちはセファのことをよく知らない。

だから不安になる。セファがみんなのことを知って、みんなにセファのことを知ってもらう。まずはそこからだな」


 その言葉に、セファは小さく息を整えた。

 やがて、決意を込めた声で言う。


「……はい。わかりました。わたし……ちゃんと、現場も見ないと、です!」


 知久はふっと目を細める。

 セファの顔にはまだ幼さが残るが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。


(そして俺は……セファを守ってやらないと、だな)


 胸の奥で、静かにそう呟いた。


☆ ☆ ☆


 セファは、知久の助言を胸に刻みながら、支部の扉を一歩出た。

 向かう先は、依頼から戻ってきたばかりのギルド員たちが荷物を下ろしている裏手だった。


「み、みなさん、お、お疲れ様です!! こ、これ! どうぞ!! です!!」


 両手に抱えていた包みを差し出す。

 中には、街で評判の菓子屋で買ってきた差し入れがぎっしり詰まっている。


「あ!? 嬢ちゃん……じゃなくて、支部長!?」


「は、はいっ! 差し入れです! よかったら……!」


 冒険者たちは目を丸くする。

 普段、支部長からこんな気遣いを受けることなどなかったからだ。

 だが恐る恐る受け取った若い冒険者が一口食べ、ぽつりとつぶやく。


「……甘ぇ。うまいな」


 その一言が場の空気をほぐした。


「お、おう……ありがとよ、支部長」


「い、いえ!! これぐらい当然です!!」


 続けてセファは、勇気を振り絞って口を開いた。


「そ、その……もし何か困っていることがあったら、何でも言ってくださいです!! 支部に伝えるべきことでも……その……!」


 最初は気まずい沈黙が落ちた。

 だが、やがて年配のギルド員が低い声で口を開いた。


「……困ってること、ねぇ……。あえて言うなら、“あれ”だな」


「“あれ”……?」


 セファが固まる。


「黒焔鬼だよ」


 セファの肩がびくりと跳ねたのに気づいたのは、知久だけだった。

 別の男が声を潜めて続ける。


「例の化け物だ。最近また“黒い炎の影”を見たって話があちこちで出てる」


「ギルドの裏の倉庫でも見たって奴がいた。影みてぇな黒い火をまとう人影……

あれを見たらやばいって、有名な話だろ?」


 若手の冒険者が唾を飲む。


「お、おい……次に狙われるのって……」


 その言葉に、セファの顔色が一気に青ざめる。

 だが必死に笑顔を作り、震える声で返した。


「……そ、そうなんですか。く、詳しく……聞かせてもらえますか……?」


 冒険者たちは互いに顔を見合わせながらも、黒焔鬼の噂を小声で語り始める。

 その横で、知久は首をかしげた。


(黒焔鬼……? 黒い炎? なんだそれ……都市伝説の類か? いや、でもあのセファの表情……)


 セファの唇はわずかに震えていた。

 黒焔という言葉だけで、彼女の内側に刺さる何かがあるのがわかる。


 知久は心の中で決意した。


(……一度ちゃんと調べてみるか)


 黒焔鬼が何者なのか。

 そしてなぜ、ギルド員たちがここまで怯えるのか。


 知久の胸には、静かだが固い覚悟が宿り始めていた。

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