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【第9話】「支部のひずみと、次なる雑務」

 翌朝。ギルドの掲示板前に並んだ知久たちは、沈黙していた。


「……これはもう、“冒険者”じゃなくてただの清掃員だよな……」


 そこに貼られていたのは、《ゴミ捨て場清掃》の依頼だった。


---------------------------------------


≪任務内容≫


ホワイティア村 ゴミ捨て場清掃


≪推奨人数≫


最大3人


≪報酬≫


日当 250Z


---------------------------------------


「ま、スライムと戦うよりはマシじゃない?」


「そういう問題ですかね……」


 報酬は250Zと書かれていたが、昨日、報酬がいかにあてにならないかを身をもって学んだ。


「なあゴルディ。この依頼って、本当にちゃんと報酬出るの?」


 アゼリアがゴルディに詰め寄るように尋ねると、彼は困った顔で肩をすくめた。


「さぁな。マルベックのやつ、ギルドに来た金をすべて“管理”してやがるからな。配分は全部、あの野郎の気分次第ってワケだ」


「つまり、支部長が全部握ってるってことね……」


「おまけに最近、備品の支給も渋いんだよ。ポーションや保存食もろくに補充されてねぇし、ベテランもボヤいてる」


──これ、単なるブラック体質どころじゃない。もしかして着服されてる……?


 無言で顔を見合わせると、指示通り村外れのゴミ捨て場へと向かった。


 そこは村の広場の端。村人の出した生活ごみの他に、獣の骨、腐った果実、壊れた武器の残骸に、誰かが破った魔導書のページまで混ざっている。

 問題は、その量がとんでもないことだ。


「いったい何ヶ月分のゴミが溜まってるんだ?」


「これ、まともに処理されてないじゃない……誰もまともにやりたがらない仕事だったから、ここまで放置されてたわけね」


 この支部の問題は、きっと“見えないところ”に溜まっていた。

 そしてそれを押しつけられるのは──知久たちのような新人だ。


「……やるか。どうせやるなら、徹底的に片付けよう」


「ま、片付けなら任せなさいっての!」


「……が、頑張ります……!」


 手分けして、地面に散乱した残骸を回収し、使えそうなものを仕分けし、残ったものはミロリーの《アース・フォール》で地面に大きな穴を掘って埋めた。


(なお、アゼリアがまた穴に落ちたが、それはいつものことなので割愛する)


 体中が泥とゴミでドロドロになった頃には、辺りはすっかり夕焼けに染まっていた。


「ふぃ〜……やっと終わった……」


 そのとき──農具を担いだ村人が数人、ゴミ捨て場の様子を見にやってきた。


「おお、あんたら、掃除してくれたのかい?」


「あ、はい。任務で……」


「お~助かんべ。昔はオイラたちで片付けてたんだどな。今の村長がさん“ギルドに頼め”って決めてから、こんな有様で……」


「ふーん……」


 思わず眉をひそめた。支部だけじゃない。この村の運営自体に何かあるのかもしれない。

 おずおずと、ミロリーが前に出る。


「あ、あの……ゴミがたまってると、そこに魔獣が住み着く可能性があるので……気をつけた方が……」


「ええっ!? そ、そりゃ大変だ! 小さい魔獣ならまだしも、でっけえのが出たら困るもんな……!」


「ふふん。そこは私たち冒険者の出番よ!」


 アゼリアが胸を張ってふんぞり返る。


「どこから出るんだ、その自信は……」


「は? 何よ。あんたこそ”ワタリ”なのに、変な加護しか持ってないくせに!」


「なんだと!? 俺だって好きでこの加護になったわけじゃねぇんだぞ!」


「け、喧嘩はやめてけれぇ……!」


──いつも通りの騒がしいやり取り。


 ミロリーが慌てて間に入ろうとし、村人たちはそれを見て笑い出す。


「ははっ。なんだか、あんたら見てると元気出てくるな」


「そうそう。最近のギルドはピリピリしてて、怖くて声もかけられなかったんだよ」


──意外だった。


 でも、確かに。

 “誰かに頼れる”って、たったそれだけで、何かが少しずつ変わっていくのかもしれない。

 小さな歯車でも、動かせる場所があるはずだ。


「……さ、帰って風呂入ろうぜ」


「風呂、風呂!」


「せめて、お湯が出ますように……!」


 どろんこになった体を引きずって、3人はギルドへと戻っていった。


──今日は、少しだけ“誰かのために動けた”気がする。

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