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魔王子  作者: デブ猫
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     第三話  銃撃戦

「な、なんだ、あいつらは!?」


 目の前の状況に、一瞬唖然とするトゥーン。

 崩落するはずのトンネルは、崩れ落ちなかった。

 追撃隊も着々と接近してくる。

 しかもその追撃隊の装備、というか外見はド派手にも程がある。

 白黒赤青の輝く甲冑で、武器にも大量に装着された宝玉が光り輝く。

 そして、その姿がハッタリではないことは、先頭に立つ白騎士が持つ武器の威力からも明らかだ。

 知恵袋であるクレメンタインは、知らず知らずのうちに高速回転する思考の一部を口に出していた。


「な……信じ、られませぬ……。

 冷気による砲撃で、トンネルの破損箇所を一瞬で凍結させ、崩落を防いだのですぞ。

 凄まじい魔力、ですな……。

 加えてあの姿、明らかに敵勢力への視界誘導を」

「か、解説してる場合じゃぁ、ないでしょお!?」


 操縦席の上、屋根にいるリアの叫びが飛ぶ。

 魔道車の左右から聖歌隊も声を上げる。


「ネコの姐さん!

 速度を上げてくれ!」

「これ以上は無理ニャ!」


 イラーリアの希望は速やかに拒まれた。

 ネフェルティの握るレバーとペダルは、既に上限一杯まで来ている。

 ライトを点灯させて疾走する魔道車の巨体は、馬が走る程度の速度が限界らしい。


「これは登坂専用な車両!

 力が出る分、速さは出にゃいよー!」

「ちぃっ!

 だったら、手加減無しだ!」


 トゥーンは外へ出る。

 ネフェルティも隣のクレメンタインへ怒鳴るように指示を出す。


「あたしもやるよっ!

 クレメンちゃん、もう操縦は分かるよね!?」

「大丈夫ですぞ!

 追撃隊をお願いします!!」


 操縦をクレメンタインと交代し、ネフェルティはトゥーンと共に左右から飛び出る。

 二人で車両後方の狭い通路に立ち、キッと後ろを睨み付ける。

 トゥーンは腰の剣を、ネフェルティは背中の銃を構える。

 車両の左右、聖歌隊メンバーも各自の楽器を構えた。

 ヴィヴィアナが肩から提げるオルガン、その書き込まれた術式も埋め込まれた宝玉も輝きを増す。


「お二方も、他の方々も!

 耳を塞いで下さい!」


 いきなり後ろから飛んだヴィヴィアナの指示に、ネフェルティの耳がピコッと彼女の方へ向く。

 リュートを構えるイラーリアが、思いっきり悪人風な笑顔を浮かべる。


「こいつを喰らえば、どんなヤツでもひっくり返るぜ!」


 瞬間、ネフェルティが慌てて耳を塞いで身を屈めた。

 他の魔族もパオラも両手で耳を押さえる。

 そして聖歌隊全員の指が寒さに負けず滑らかに動き、各自の楽器がかき鳴らされた。


 それは、人間の耳には聞こえるか否かギリギリの高周波音。

 耳を塞いですら神経を掻きむしるような、吐き気を催す雑音。

 狭いトンネル内、しかも四つの聖具を出力全開で発生させた悲鳴のごとき音波は、反響を繰り返しながら追撃隊へ襲いかかる。


 犬と馬の叫ぶ声が響く。

 続いて何かが転倒する音。

 騎乗していた馬と犬が、音による攻撃に目を回したようだ。

 そして、キャインキャイン……という犬の悲鳴が遠ざかっていった。

 どうやら逃げ出したらしい。


「どんなもんだい!」


 会心の成果に胸を張るイラーリア。

 他の聖歌隊三人も、満足げに後方の闇を見据える。

 だがトゥーン達魔族は、至近距離で音波攻撃を喰らってしまった。それは耳を塞いでも凌ぎきれるものではなかった。

 特にネフェルティは優れた聴力ゆえに、気絶しかけてる。


「ひゅ、す、すげえ……なぁ……ぐへぇ~」


 酷い耳鳴りで目を回しそうなトゥーンも、必死で立ち上がって後方を見る。

 確かに馬の走る音は消えていた。

 だが、光は変わらず存在している。

 追撃隊の鎧に装着された宝玉の光と、それぞれの鎧が光を反射する煌めきが。

 宙を舞う光は距離を詰め、一瞬ごとに大きく強くなっていく。


「クソ! しつこいぜ!!」

「あの重装備で『浮遊』ですと!? しかも、速いですぞ!」

「うっそぉー! 人間の宝玉加工技術ってぇ、どうなってるのよぉー!?」


 クレメンタインの言うとおり、追撃隊四人はトンネル内を飛んでいた。

 上級者向けの魔法である『浮遊』を用い、重装備の鎧と武器を手にしながら、着実に魔道車との距離を縮めている。

 羽を持つリアには、それがどれほど魔力を消費するかが良くわかる。たとえ『浮遊』を付与した宝玉があっても、だ。

 おまけに聖歌隊の音波攻撃が効いた様子もない。


「いっくよぉっ!」


 ネフェルティが銃を構え直すのと、赤騎士がナイフを抜いたのは同時だった。

 柄と刀身の間部分には白い宝玉が埋め込まれたナイフが、それも両手一杯に握られている。

 銃口から光が走った。

 ネフェルティの魔力によって生まれた光は、トンネル内を照らしつつ騎士達へ直進する。

 そして、黒騎士の直前で、曲がった。


「うにゃっ!?」


 さらに幾筋もの光が放たれる。

 魔王一族の魔力は、威力は高いが魔力消費も激しい銃を使用しても、尽きる様子はない。

 だが、その魔力から生じた連射をもってしても、騎士達に一撃を与えるに至らなかった。

 騎士達以上の速度で飛行するナイフ群の刀身が、光から騎士達を守っていた。

 そのナイフにトゥーンは記憶を呼び起こされる。


「あれは、司教が持ってた武器だ!」

「にゃんの、数撃ちゃあたるにょー!」


 ネフェルティは続けざまに引き金を引く。

 だが、光線は見事に紙一重でかわされる。

 当たりそうな軌道の光は、鏡のように磨かれたナイフの刀身と赤騎士の左腕にはめられた盾で次々と弾かれる。

 逸らされた光はトンネルの壁に当たり、壁面に焦げた直線と曲線を描くばかり。

 まるでツバメのように跳び回る騎士達には全く当たらない。

 それどころか、ナイフのうち何本かが急加速!


「ちぃっ!」


 トゥーンが魔力を天井へ向けて放出、天井のブロックを岩盤ごと破壊する。

 さっきと違いトンネル全体をジワジワと崩落させるようなものではなく、一部分だけを一気に数カ所破壊。

  飛散した破片がナイフを、そして後に続く騎士達へと降りかかる。


 ナイフの編隊は、落下する破片の雨をすり抜けた。急カーブを繰り返し、見事に瓦礫を回避する。

 騎士達のうち、剣と盾を持つ赤騎士が前に出る。そして盾を前に構え、大きな破片を弾き飛ばしていく。

 そのすぐ後ろを他の騎士達が飛び、破片が弾かれた空間を一瞬で飛び去る。

 細かな破片は鎧に弾かれる。

 騎士達もナイフも全くダメージを受けることなく飛び続けている。


「くそっ、だったら!」


 天井に向けていた手を騎士達へと向け直す。

 魔力が力の波となって放たれる。

 だが、これも見事に避けられた。クルクルと見事な旋回を見せて回避する騎士達とナイフの群れ。

 いや、むしろ遠い間合いへ向けて大魔力を放ったため、魔法発動の隙が大きくなる。

 その隙を突いてナイフが魔道車へ一気に飛来する。


 トゥーンの攻撃の隙を埋めるべく、姉が更に銃撃を繰り返す。

 恐るべき精度でナイフと騎士達を狙うが、それでも当たらない。ナイフに光線を弾かれ、騎士達には避けられる。

 せいぜいナイフの接近を押しとどめるのが限界だ。


「な、なんてぇ、奴らなのぉ!? ……て、あれぇ? あいつらぁ、どっかでぇ?」

「どっかでって、あんな、派手な奴らと会ったことは……派手?」


 操縦席の屋根の上で驚愕していたリアが、記憶の片隅を刺激されて首を捻る。

 そしてそれは、全攻撃を見事に回避されたトゥーンも同じだった。


 不自然に派手な鎧。

 有り得ない回避能力。

 まるで苦痛を感じないかのように、音波攻撃を無視する。

 なにより、魔王一族の追撃を任される手練れ。


 刺激された記憶の欠片は、次々と他の記憶と現状の観察へとつながり、やがて一つの推理へと至る。

 絶望的な、彼らにとって最悪の推理へと。


「あいつら、そんな、まさか……まさか!?」


 あまりに有り得ない推理と、それを否定できない現状に、トゥーンの脳が警報を上げる。

 敵から追撃を受ける最中でありながら、攻撃の手を止めてしまうほどに動揺し、後ずさってしまう。

 銃を乱射しながら飛来するナイフを撃墜しようとする姉が、怒鳴りながら尋ねる。


「まさかって、一体にゃに!?」


 恐怖を押し殺そうと剣を握りしめる弟は、どうにか踏みとどまった。

 後ろに下がりつつあった足を、勇気を振り絞って前に進める。

 だが吹き出る汗は止められなかった。


「あいつら、全員……勇者だ!」


 トゥーンが追撃隊の正体に気付いたのと、黒騎士が動いたのは同時だった。

 矢を弓につがえたまま飛んでいた黒騎士が、その鏃を操縦席へと向ける。

 そこには、後方の戦闘に気が向きつつも、前を見据えて運転を続けるクレメンタインの後ろ姿があった。


  バシュッ!!


 矢が放たれた。

 それは、銃が放つ光線にも匹敵するかと思えるほどの速さで飛来する。

 射線上に舞う、細かな瓦礫を粉砕しながら直進する、凶悪な質量と鋭さを持つ矢。

 それどころか周囲に衝撃波を広げ、粉塵の雲を貫通する。


 それは運転席後方のガラス越しに見える、クレメンタインの後ろ姿へ向けて、真っ直ぐ――

次回、第十八部第四話


『嵐』


2010年9月16日01:00投稿予定

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