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魔王子  作者: デブ猫
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第二部  第一話  インターラーケンって……

第二部再開です

「改めて見てみっと、ひでぇ土地だなぁ、ベルンよ」

「はぁ、お恥ずかしい限りですじゃ。

 ですが、そのおかげで敵も来ず、強力なモンスターもおらず、この地は平和に暮らせていたわけです」


 朝の執務室。

 デスクの上には報告書の束。

 目の前で恐縮してるのは妖精族族長のベルンじいさん。その後ろにリアが控えてる。

 白ヒゲに下半分を覆われた顔に流れる冷や汗をハンカチで拭いている。

 俺の領主としての初仕事は、この地の情報を得ること。

 それは、自由を求めてオヤジの城を飛び出すために覚悟した事実を、改めて思い知らされること。

 すなわち、ここが超弩級の田舎だって事実。



 まず周囲を山に囲まれてる。それも万年雪が積もる険しい山ばかり。

 そして狭い。山からの地下水が湧く湿地帯と、うっそうとした森が広がっている。多くの魔族が利用できる平地は少ない。

 産業はない。それ以前に道がない。山が険しすぎ。

 だから住んでいる魔族は妖精族のみ。こいつらは木の上に巣を作るから平地はいらない。空を飛ぶから道も要らない。

 狭い土地だからベウルが送りつけた巨大な犬みたいな、大型の生物も暮らせない。

 湿地帯には泉が湧くけど、居るのはスライム程度。


「こんな土地で、お前らどうやって暮らしてきたんだ?」

「はぁ、昔は本当に貧乏でしたじゃ。

 他のモンスターから隠れ暮らすだけの時代ならよかったんですが。

 魔王様の城で奉公させて頂けるようになってから、ようやく楽になれまして」

「つまり、出稼ぎくらいしか仕事がねーのな」

「なぁによぉ、あんたの世話してあげてるんでしょーがぁ」

「こ、これ! リア、何て口の利き方じゃ!」


 長老に叱られるリアだけど、詫びれる様子はない。

 プイッと横を向いて頬を膨らませてる。

 俺は怒る気にはならない。そんなモノ、今はどうでもいいや。

 問題は、目の前の報告書。インターラーケンの地をどうするか、だ。


「はぁ……。とにかく、まずは見回るとするか」


 腰を浮かし、窓からの風景を見る。

 魔王十二子が一人、末弟トゥーンが魔王より拝領した地、といえば聞こえが良い。

 でも実際は、余っていた土地を押しつけられた、とも言える。

 何の利用価値もなく、だから他の兄弟達も欲しがらなかった余り物。

 城を出たかったからしょうがないけど、どうしたもんだろ。

 見た目は立派な山と見事な森が広がる綺麗な土地なのになぁ。



「で、ベルンよ。この湿地にはスライム以外は何が居るんだ?」


 湿地帯を歩く。獣道もない草むらを分けて進む。

 濡れて滑りやすいし、どこに泉が穴を開けているか分からない。注意しないと。

 後ろのベルンが首を捻る。リアは離れた所を好きに飛び回ってる。


「小魚、虫、ネズミ、ネコ、野犬や狼、鳥も」

「あーもういいもういい、普通の動物しかいないのな」

「ええ、まあ」


 ま、そりゃそうだ。

 山深くて狭い土地、湿地帯で足場も悪い。せめて水は綺麗なのが助かる。

 一番大きな泉に手を入れてみれば、飲むに丁度いい感じの綺麗な水だ。泳いでも気持ちよさそうだ。もっと大きくて深ければ、な。

 湿地の水は一番大きな泉から小川となって流れ出している。

 細い小川の左右に広がる森へ向けて歩を進める。



 森は背の高い木々が並んでる。

 さすがに高地だけあって、魔王城では見なかった木ばかり。

 木々の上には大きな巣のようなものがひっついてる。妖精族の家だ。


「ここに生えているのはモミ、トウヒなどです。マロニエは、この山々でしか生えない木でしてな」

「あたし達はこの上に住んでるのぉ。犬や狼は木を登って来れないしぃ」


 ベルンとリアの話を聞きながら獣道を歩く。

 森には鹿とかもいるだろうけど、大した数でもないだろう。

 せめて木を金に出来ないか、と考えた。けど切る奴も運ぶ道もない。

 つか家になってる木を切ったら妖精共が怒り出すか。

 地面の石ころを拾い上げてみる。けど、やっぱりただの石。


「宝玉でも出ねーかなぁ」

「そんなの出たらぁ、とっくに上位魔族に占領されてぇ、私達は追い出されてるわぁ」

「はい、まぁ、地下資源も期待出来ないと思いますぞ」


 わかっちゃいたけど……。

 溜め息と共に、山へ足を向ける。


「あ、ちょっと待ってよぉ。山へ行く気ぃ?」

「山へ行くのに、その軽装では」

「魔王一族をナメんじゃねえ。一気に山頂まで登るぜ!」


 駆けだした後ろから二人が追いかけてくる。

 いくら空を飛んでいても、どこまでついてこれるかな?

 なにしろ、足腰は全ての基本だ! とかいってベウルに散々追いかけ回されたからな。

 ハッキリ言って、スタミナなら大概の奴に負けないぜ!


 魔王の証したる青黒いライン、足の部分が輝きだす。

 風を切り、リア達をぶっちぎり、一気に加速。




「ひ、ひぃい……くる、しい……、さむいぃ!」


 凍えながら山を下りてきた俺を、呆れ果てた妖精達が出迎えた。

 リア達がたき火を起こし、毛布を掛けてくれる。

 ああ、暖かい。死ぬかと思った。


「まさか、あんな、雪と岩しかないだなんて……。おまけに、なんて息苦しさだよ!

 空気もねぇのかよ!」

「無いわぁ」「ありませんのです」


 リアと長老は、さらりと当然のように答えやがった。

 言い返したいけど、歯の根が合わなくて、上手くしゃべれない。

 山の途中、コケや草がまばらに生える辺りに来てから、呼吸が突然苦しくなった。

 気温もグングン下がる。

 結局、山頂まで行けず、途中で引き返してきた。

 このトゥーン様が命の危険を感じるとは……。


「この地はね、すっごい高地にあるのよ」

「高い土地は空気も薄くなるの。温度も一気に下がるわよ」

「危険なので助けにも行けません。だから軽装で山に登ったら、死にます」

「そーんな事も知らずに、インターラーケンの領主やる気だったの?」

「バカだわ、無知だわ」

「ま、そんな高地まで走って上がった根性と体力だけは認めてあげる」

「頭は足りないけどなー」


 奉公の妖精共が、相変わらず言いたいことをズケズケ言いやがる。

 くそ、手がかじかんで剣も握れねえ。

 凍り付いた髪、垂れ下がる氷柱から雫が落ちていく。




 日暮れ。

 城に戻って、執務室のソファーに寝そべり、ようやく一息。

 ふと外を見下ろすと、ベウルの送りつけた巨大犬も寝そべってる。

 ミュウ姉ちゃんの薦めで、結局飼うことにした。

 あんななりでも、意外と野菜や果物でも平気で食べてくれるので、別にエサには困らなかった。

 ンなこたどーでもいい。他に考えなきゃいけないことはある。


「はぁ……。さて、どうしたもんかな」

「どうにか出来るモノならぁ、何とかして欲しいわよぉ」

「魔王様の末子が来て下さると聞いて、私達も喜びましたですじゃ。この貧しい地に富を授けて下さるかと」


 晩飯を運んでくる妖精達に指示をしながら、リアと長老が答える。

 そこに並ぶモノは、魔王城では絶対見ないような貧相な食事。不味そうな野菜と申し訳程度の果物。

 肉なんか無い。そりゃそうだ、妖精共に捕まえられる動物なんてネズミ程度だろう。

 こいつらは芋虫や蜂とかも食うらしいけど、俺はゴメンだ。

 肉はウサギや鹿や鳥……自分で捕らないとな。


「こんな道も無い所に、小さいとはいえ、よく城なんか建てれたな」

「はぁ。魔王様がワイバーンでドワーフやゴブリン等を連れて来て下さって。

 私ら妖精族も建築のお手伝いをしましたじゃ。

 いやあ、さすが魔王様のお力は素晴らしく、あっという間に立派な城を建ててくださいました」


 まぁ実際、オヤジの力は凄い。

 おっそろしく強いドラゴンや、気むずかしいドワーフの職人達、金にがめついゴブリンもオヤジには逆らえない。

 本来はバラバラで、まとまるハズの無い魔族を束ねる魔王なんだから。

 兄貴達だってオヤジには頭が上がらない。

 俺の独立祝いといって、この城を用意してくれたオヤジ。あれを目指すとか超えるとかいうなら、この程度ではへこんでいられねえ。

 少なくとも、兄貴達みたいに街は作らねえとな。


「とはいえ、妖精族しか住まない不毛の土地じゃなぁ。

 敵が来ないのはいいけど、特産品の一つもありゃりない。

 全部、一から作るしか無いのかよ……」


 思わず溜め息をついてしまう。

 さすがにリアもベルンも、食事を並べる妖精達も申し訳なさそうな顔だ。


「魔王が昔話みたいな、単なる独裁者や破壊神だったら、こんな苦労はいらねえのに」

「力だけの暴君には、魔族の誰もついていきますまいて」

「つか、そんなヤツは真っ先に討伐されちゃうわよぉ」


 そう、その通り。現実は厳しい。

 俺は魔王継承者の一人として教育を受けてきた。その中に『暴政』『虐殺』『略奪』は無い。

 情報、人材収集、組織構築、資金調達、産業育成、戦術戦略、etc。

 魔王というだけあって、王だ。国を動かすのが仕事だ。

 俺達兄弟は、そのための教育を受けてきた。

 準備が終わった妖精達も話に乗ってくる。


「ほーんと魔王様の一族って、おとぎ話と全然違うのね」

「あーゆーお話の魔王ってさ、結局みんなやられキャラだわ。

 強大な魔力で全てを平伏させ、逆らう者は皆殺し。

 そのくせ最後は必ずあっけなく殺られ、宝を奪われる」

「まーねぇ、主人公を引き立て物語を面白くするためだけの存在よ。

 意味もなく世界を滅ぼそうとするとか、ワケわかんない」

「そんなの、どこのバカが考えたやら」

「つーかさ、あんな『裏切り者には死を!』とか『役立たずは要らぬ!』とかいって味方まで力任せにぶっ殺してたら、部下がいなくなるよ」

「そうなったら、家事とかどうすんだろ。トイレ掃除まで魔王がするの?」


 一瞬、オヤジがブラシ片手に便器を拭いてる姿を想像……しようとしたけど無理。オヤジの魔力ならトイレ掃除も指の一振りで終わらせそうだ。

 それ以前に、部下達がやらせてくれない。


「結局、基礎から始めなきゃダメだな」

「基礎と申しますと?」

「情報、だよ。明日っから、この土地のコトを調べまくるぜ」


 その言葉に、ふぅ……と息を吐くベルン。

 そして晩メシを運んできた妖精達に指示を飛ばす。インターラーケンの歴史をまとめるとか、地図の作製とか。

 リアもメモを書き書き。


「ま、気長にやりましょぉ。あたしも侍従長としてぇ、気長に付き合うわよぉ」

「ああ。頼むぜ」




 前回より更に分厚くなった報告書。魔王城から持ってきた文献も机の周囲に積み上がる。結局、読み終わるのに夕方までかかっちまった。

 山が高い分、日暮れも早い。太陽はすぐに山向こうへ隠れちまう。

 だるい、ああだるい。不毛な時間だったかも、と思ってしまう。


「ふぅあ~。こりゃ、楽じゃねえなぁ」


 最後まで睨めっこしていたのは地図。大きな羊皮紙を適当にポイ。

 リアはプリプリ怒りながら、床に落ちた地図を丸めてチェストにしまう。


「そんなのぉ、最初から分かってたことでしょぉ?

 それをどうにかして欲しいから、魔王様の支配下に入ったしぃ、あんたも受け入れてあげたんじゃないのぉ!」

「おめーは、主に、なんつー口の利き方だ」

「世の中はぁ、ギブ&テイクぅ!

 自分だけで何とかしようなんてぇ考えないでぇ、魔王様に掛け合ってみたらぁ?」

「オヤジに泣きつけッてのかよ。家を飛び出していきなり、出来るか」

「他に方法あるのぉ?」

「む~」


 全く、どうすりゃいいんだか。

 山深くて狭い。日当たりも良くない。農業には不向き。

 水も土も岩も、ごくありきたり。少し岩塩が出るくらいだ。良質だけど、それも量は少ない。産業になる程じゃない。

 今は春だからいいけど、冬には雪に閉ざされる。その間は何も出来ない。

 だったら、この地に暮らす妖精族が働きに山を下りるくらいしかない。それは今やってる。魔王城に働きに来てる。でも金になる傭兵とかは、どうみても無理。

 魔法は少し使えるけど、身体が貧弱。下働きがせいぜいだ。


「せめてもの救いは、こんな敵のすぐ近くな土地だけど、敵が来ないってことだな」

「あの山を越えて来るなんて無理だもん。それだけは助かってるわ」

「おかげで護衛の兵士を雇う必要もない。自由に動けて、気楽でいいぜ」

「ここには妖精しかいないからねぇ。

 こんだけ交通の便が悪いと、トゥーン様への刺客が来ることもできないし」


 リアは窓の外を見る。

 あの山の向こう、南の地には敵がいる。

 ジワジワと勢力範囲を伸ばし、魔王支配地域へも度重なる侵入を繰り返していた。

 俺のオヤジに真っ向から反逆し、魔族と見れば問答無用で襲いかかってくる、凶暴な種族。

 ゴブリンよりがめつく、サキュバスより狡猾で、オークより食い意地がはった、エルフより傲慢で、ドラゴンより話の通じない敵。

 ネズミのようにどこにでも湧き、ゴキブリのようにしぶとく、蛇のように執念深い。

 最低最悪の侵略者。


 人間。


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