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魔王子  作者: デブ猫
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第十部  第一話  鉄の道

予定通り、第十部を開始します。

「……?

 ?、??

 なんだ、あの道は?」


 夕方、予定通りメルゴッツォ湖の北側目指して森の中を走り出した。

 道路工事は大方が済んでいるらしく、工事現場は例の山肌のところだけになってる。

 そこはかがり火が幾つも燃え上がり始めてる。夜も徹して工事をするつもりなのか。


 だが不審に思ったのは、その工事現場じゃない。

 湖の間や丘の斜面を縫うように走る道、それ自体だ。

 夕日の中、道の真ん中で、何か金属的なモノが光っている。赤い夕日を反射しているらしいそれは、どうやら金属の棒だ。おっそろしく長い金属の棒が二本、道の上に延々と敷かれている。


「監視は……みたところ、いないな。近寄れるか」


 慎重に斜面を下り、小道を渡り、草むらに身を隠して草原を駆け抜け、森に潜みつつ山を降りる。

 森が開けて、木々の間を抜ける道を目の前にする……確かに変な道だ。茂みに隠れながら慎重に周囲を窺う。『魔法探知』も使用、出来る限り広範囲まで探知範囲を広げる。

 大丈夫だ、この周囲に魔法反応はない。人も居ない。今なら森から出れそうだ。

 誰もいないとは思うが、それでも身を伏せ足を忍ばせ、奇妙な金属の棒へと近づく。


 それは、確かに妙な道だった。

 道自体は幅広い、そして恐ろしく長い。十万の大軍が堂々と行軍できそうな程の立派な道だ。巨大なドラゴンだって通れるだろう。

 ただ、二本の金属の棒が分からない。

 それはハシゴを地面に寝かせたようなモノだった。砂利の上に木の棒を横に敷き、その上に金属のぶっとい棒を横たわらせている。それも、果てしなく延々と。


「まさか、この金属の棒って、首都まで続いてるのか?……どんだけの量の鉄を使ってんだよ!?」


 信じがたいほどの鉄鉱石を採掘し、精錬し、全部同じ形に叩き上げる。考えただけで気が遠くなるような作業だ。しかもそれを惜しげもなく地面に敷いている。

 想像もつかないことが、それが今、目の前に存在している。

 パオラ鉄の道の話をしていなかった。鉄の棒はピカピカで錆びていない。ということは、パオラが修道院に入った後に作られた、最近の物か。

 ゴブリン達の話に、そんな道の存在は無かった。やはりそうだ。人間の世界はアベニン半島統一後から、大きく変化していたんだ。


 だが、これは何のためだ?

 何の必要があって、こんな大量の鉄を棒にして、道に敷いたんだ?


 ふと、何かの音が耳に届いた。

 人間かっ、と思って周囲を見たが、何も居ない。

 だが、確かに何かが聞こえる。鈍い振動のようなものが、どこからか……足下?

 鉄の棒が、音を立ててる??

 触れてみるが、別に異常はない。しゃがんで耳を付けてみれば、確かに音が絶え間なく響いてくる。それも、刻一刻と音が近づいてくる。


「何か……来る!」


 間違いない、道を何かが通ってるんだ。それも、何か巨大なモノが。

 慌てて近くの森に飛び込み、一番背の高そうな木を駆け上る。

 森から頭一つ抜け出た木のてっぺんから、山と湖に囲まれた周囲を見渡せば……。


 いた!


 夕日で赤く染まる森の向こう、何かが動くのが見えた。

 それは長方形の、箱の様なモノだ。それも、かなり長くて大きい。間違いなくこっちへ、 メルゴッツォ湖北側目指して道の上を移動している。

 急いで木を降り、身を隠しながら道を見渡せる茂みの中へ飛び込む。

 そして待つこと少し、鉄の棒から響く音は大きくなり続ける。

 いつしか音は鉄の棒からではなく、接近してくる巨大な箱から直接届くようになっていた。鉄の棒の上を走る、巨大なモノから。


「……見えた!

 ……な、なんだぁ?ありゃあ……馬車、か?」


 風を巻き、地面を揺らし、巨大な長細い箱が目の前を疾走する。

 馬車といいはしたけど、全く馬車には見えない。馬車のように下に車輪がついた荷台らしきシロモノだが、全く違う。荷台を牽く馬が居ないし、木じゃなくて鉄の車輪が大量についてる。だが他に表現する言葉がない。

 恐らく『馬車に近い何か』だ。


 長細い巨大な箱、その先頭にあるのは、黒光りする鉄の塊のようなモノ。

 大岩のように圧迫感をまき散らすソレは、一面に書き込まれた術式の線や図形が白く光を放っている。そして各所に宝玉が幾つも埋め込まれ、強烈な光を放ち続けてる。

 その後ろには、幾つもの箱が繋がっていた。術式や宝玉が使用されているのは先頭の鉄の塊だけらしく、後ろに牽かれているのは荷台のようなモノらしい。


 巨大な荷台が延々と後ろに続く。全ての荷台には人間の国、神聖フォルノーヴォ皇国の旗、『トリニティ』が描かれてる。

 積まれているのは……軍団だ!

 荷台の窓から外を眺めているのは、屈強そうな騎士と兵士と魔導師達。その兵装は、以前ベウルが見せた映像にあった人間の軍団と同じ。……いや、違う、違うぞ。初めて見る装備が混じってる。

 あの映像では兵達は戦闘をせずに帰って行った。だが今、目の前にいる連中は、戦わずに帰るつもりには見えない。あの引き締まった面構え、人数、見たこともない装備品の数々……本気だ、やる気だ。

 荷台の列、その後方に続いてるのは、どうやら軍馬を載せた荷台らしい。小さな窓から馬の顔が幾つものぞいてる。普通の馬に、ユニコーンに、白い翼……ペガサスか。

 そして窓の小さな荷台が最後尾に並ぶ。どうやら物資運搬用だな

 とんでもなく長く、大量の荷台。そこに満載された人間の軍団。そんな巨大な超重量物が、馬並みの速さで疾走している!?


「し、信じられねえ……どんだけの魔力があったら、そんなパワーを出せるんだよ」


 考えられるのは、魔王くらいだ。オヤジなら軽く出来るだろう。兄貴達でも可能かもしれない。俺には……ちょっと厳しい。

 つか、どんだけの魔導師をかき集めたら、あんなコトが出来るんだ?

 人間達は魔王クラスの魔力を自由に使えるってのか!?

 先頭にあった鉄の塊、恐らく、あれが全ての荷台を牽いている。

 この鉄の棒二本が敷かれた道は、あの巨大な馬車のようなものを運ぶためのものだったんだ。

 やっぱりそうだ!

 人間達はくインターラーケン山脈を越えて進軍する気だ!

 なんてこった、早く知らせなきゃ!!


 けど、変だな。

 やつらは間違いなくインターラーケン山脈に向かっている……で、その後は?

 どうやって山を越える気だ?

 歩きは無い、あんな大軍が行軍出来るような山じゃない。途中でほぼ全員死ぬ。

 空は……いくらなんでも無理だ。俺達は試作型高々度飛翔機『ソッピース』で飛び越えた。だが、あんな大軍を運ぶなんて。いくら人間の技術が進んでるといっても、さすがに無理だろ。……いや、無理だと思いたい。

 やはり例の工事現場だ。

 そこに行けば、何かが分かる。


「ちぃっ!

 やっぱりアベニン半島へ潜入して正解だったぜ。急いで行かなきゃ」


 森に飛び込み、オルタ・サン・ジュリオを大きく迂回して北へ進む。

 メルゴッツォ湖と工事現場周辺は、さっきみたいな人間の軍団が集まっているはず。

 俺は今、丸腰だ。見つかれば終わりだ。慎重に近寄らないと。

 だが慎重すぎれば人間の作戦がつかめない、出来る限り近づかないと。

 夜の闇に紛れろ、全神経を研ぎ澄ませ。

 絶対に見つかるな。





「すげえ……これ、全部、人間の軍団かよ……」


 日が暮れて闇に包まれつつある森を駆け抜け、谷を渡り、湖の近くへ来た。

 茂みに身を隠して見下ろすと、そこにあったのは予想通りの、いや、予想以上のモノだ。

 メルゴッツォ湖周辺には数々のかがり火がたかれ、森が切り開かれ、天幕が並んでいる。『トリニティ』の巨大な旗も、そこかしこにひるがえってる。大規模な野営地が築かれていた。

 遙か彼方から続く鉄の道は野営地内まで続き、そのまま山肌を削られた斜面へと続いている。


 見たところ、陣地は山の斜面を背にして、二重の半円を描いてるような構造だ。

 外側は人の出入りが激しいが、内側の柵や塀に囲まれた場所は人の動きが少ない。内側は司令部か何かだな。

 さっきの巨大な荷台の列は、陣地内に停まっていた。暗いし遠目でよく見えないが、窓に人の姿は無い。全員降りたのか。……て、待て。さっきのクソ長い荷台だけじゃないぞ。他にも荷台が並んでるじゃねーか!

 陣地の西の端には、さっきの鉄の道がいくつも枝分かれした場所がある。そしてその道上には、さらに幾つもの荷台の列が並んでいる。荷台を牽く鉄の塊も、いくつも存在してるぞ……信じられねえ。

 その他、何に使うのか分からない、巨大なドリルだかなんだかが先に付いたモノも、正体不明なモノもある。

 反対側の端、つながれている軍馬は見えるだけで百頭。騎士団だけでも立派な数だ。整列する兵団やら、荷物を運んでいる連中やら、ここだけで何千人いるんだ?

 しかも、さっきみたいな調子で軍団が次々と中央から運ばれてくるとすれば……見えるだけが、ここにいるだけが全部じゃない?


 なんてこった!

 人間が総力を挙げてインターラーケンに押し寄せるってコトか!


 いや、ちょっと待て、どういうこった?

 そもそもなんで、そんなにまでしてインターラーケンが欲しいんだ?

 自慢にならねーけど、ホントにあそこは辺境中の辺境だ。山深いド田舎だ。戦略的価値も経済的価値もなんにもねーんだぞ。その事は、勇者が偵察したから知ってるはず。

 あんな所に大軍が押し寄せたって、他にどこにも行けやしないぞ……。

 でも、こいつらはインターラーケンに行ける…ンだな?

 恐らく、いや間違いない。方法は知らねーけど、こいつらは、その力と技術がある。だとすれば、あの山を全員で登って、インターラーケンへ押し寄せるつもりだ。


「まさか……そんな、信じられねえなぁ。

 人間共は、インターラーケンを占領する気なのか?

 山脈を通って俺の城まで来るってわけか?

 あんな超技術と大魔力で固めた大軍にいきなり攻め込まれたら……ひとたまりもないわけだが……マジで、あんな辺境のド田舎を?

 パオラの話からすると、勇者だけじゃなく他の斥候隊の隊員も俺の領地を見たはずだ。だったら、何の利用価値もない土地だって分かりそうなもんだけどなぁ?」


 クソッ、わけがわからねえぜ。だが可能性は高いぞ。

 急いでこの情報を持ち帰らないと、インターラーケンがヤベえ。そうなったら、妖精達は皆殺しか、それとも全員が奴隷にされるか。

 こいつらは既に完全武装、ということは進軍を間近に控えている。勇者が斥候に来たのはそのためだ。ってことは、もう時間がない!?

 少なくとも、冬を待つはずがない。なら秋までには進軍を開始するはずだ。

 あークソ、どうやっても簡単には山を越えられない。伝える方法がない。

 一刻を争うって、こんな時に!


 いや、まてまて慌てるな。こういうときこそ落ち着くんだ。

 よく考えろ。本当にあいつらはすぐにインターラーケンへ向かうのか?

 そうだ、そもそもあいつらは、どうやって山を越える気だ。

 手段が分かれば、そしてその進行状況を確かめれば、正確にいつ頃侵攻する気か分かるはずだ。


 なんとしても、どんな手を使ってでも、奴らが山脈を越える方法を確認するんだ!

 全てはそこにかかってる。

 とはいえ、もう日が沈んじまった。遠くから観察するのは無理だ。

 よし、もっと近づこう。

 あそこで何をしているのか、見える所まで行くんだ。

 抜き足差し足、闇に紛れて森の中を移動する。軍用犬にも注意しろ、風上には立つなよ……。


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