第六話 眠
寒い。
体が冷え切ってる。
凍えそうだ。
誰か、リア、毛布を。
暖炉に火を入れなきゃな。
いや、暖かい。
そして柔らかい。
どこか懐かしい、とても良い臭いだ。
何かが体にかかってる。
なんだ、ちゃんとベッドに入ってたか。
ちょっと重い、毛布……?
なんかヘンだな。
まぁいいや。
寒いし、疲れたし、起きたくない。
毛布にくるまって寝るとしよ。
リアが起こしに来るまで寝てよう。
ん……?
リア……リア?
何だろう、なにか、怖いことがあったような。
思い出せない。
でも、何か、凄く酷い目に遭った気がする。
こんな所でノンビリしてられないような。
なんだったろう……?
それにしても、喉が痛い。
喉が渇いてる。
水が欲しいな、水……。
?
口に何か触れた?
水だ、水が流れ込んでくる。
生暖かいけど、水だ。
口に何か柔らかいものが触れる。
そのたびに水が流れてくる。
喉が癒される。
ああ、気持ち良い。
これでまた寝れる……。
あれ?
なんか、寝てる場合じゃないような気がする。
何か、とんでもないことを忘れているような……?
ああ、ダメだ、疲れたし、痛いし、眠い。
何でもいい、動きたくない。
今は暖かいベッドで休みたい。
意識が、沈んでいく。
もっとベッドの奥へもぐろう。
布団をかぶり直して。
何だ?この布団、やたら重いな。
柔らかくて暖かいのはいいけど、あちこち固いというかなんというか。
ヘンな布団だ。
くそ、もう少し体の上に。
「あ、あん、あうぅん」
声がした。
布団がしゃべった?
何だ、この布団は!?動いてるぞ!
布団をベタベタと触ってみる。
「あぁん、う、きゃあ!やん……ん!」
何で布団が悲鳴を上げてるんだ!?しかも女の声で!??
いや違う、これは布団じゃない!
布団じゃなくて、これは……。
暖かくて柔らかい布団だと思っていたのは、まさか……。
目を開けた。
そこには、何か、ぽよぽよした白いものがあった。
視界一杯に白いモノが広がってる。
そして俺の顔、鼻から下半分が、ぽよぽよしたふくらみに挟まれてる……?
えっと……これは……。
「ちょっとぉ、トゥーン様は息出来なくて苦しがってるのよぉ」
「お、おお、そうですな、うん。あちこちくすぐられて、その、つい」
え……今の声は、リアと、えと、クレメン……?
なんだ?リアの声はともかく、クレメンタインの声、妙に近くからしたぞ。
頭のすぐ上から……?
「そろそろ交代よぉ。パオラも来るからぁ」
「もうそんな時間ですかな。では、あとを頼みますぞ」
そういって、クレメンタインは、あの、クレメンタインは……?
クレメンが体を起こすと、目の前の大きな白いぽよぽよが、先っちょにサクランボみたいのがついたのが二つ、目の前から離れていって……。
立ち上がった裸の彼女は、ほっそりとした体をウ~ンと上へ伸ばす。お尻から両の胸まで、ツンと上を向く。
そして白のズロースとキャミソールを身につけ、草色のワンピースを上から被る。長い耳がのぞく白い髪にはウィッグと麦わら帽子を載せる。
ここは……何かの小屋か。俺は左を向いて寝ていた。
体は、だるい、疲れてる、目がかすむ。
いやいやいや、寝てる場合じゃないだろ、マジ寝てる場合じゃないだろ!?
ちょっとまて、何で俺がクレメンタインと…えと、なんでこんなこと……。
頭が、動かない。思い出せない。
ダメだ、また意識が遠のく。
「と、そうそう、リアよ。水は汲んできておられるか?」
「もちろんよぉ。ちょっと待っててぇ」
リアの声は俺の後ろからする。
つか、後ろからは、なんか衣擦れの音もしてる。そして、パサ、とかいう、布が落ちるような音も。
ちゃぷん、という水がはねる音がした。
そして、左を向いて寝たままの俺の眼前に、リアの足がふわりと降りてくる。
目の前で膝をついたリアは、素足で、というか、腰から下に何も着てなくて、いあ上も着てなくて、俺の方を向いていて、その手が頬を撫でてから、俺の顔をちょっと上へ向けて、水を頬に含んでいるらしい口が、俺の唇へ……
「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
どんがらがっしゃん!
何かの農器具が倒れてくる。
枯れ草が宙を舞う。
外からは小鳥が慌てて逃げ行く羽音とさえずり。
壁に逃げた俺の目の前には、リアとクレメンタインが立っていた。
目を丸くした二人。
リアはゴックンと水を飲み干す。
俺の心臓は止まりそうだ、いや、凄い速さで打ち鳴らされてる。
リアが目の前で裸で、いや、あいつの裸なんてガキの頃に一緒に風呂とか入ったからさんざん見て、でもその頃と違って、なんか胸もちょっとあって、腰とか女らしくなって、ああいやそういう話じゃなくて!
つかさっきまで俺の目の前を覆っていたのは、クレメンタインの胸で、俺はクレメンの胸の間に顔を埋めていたわけで、しかも裸で、思いっきり抱きしめられてて、俺もあちこち触ってて
裸?
俺は、自分の体を見た。
何も着てなかった。
視線が下に行くと、やっぱり下も、何も、着てなかった……。
二人を見る。
俺をジッと見てる。
裸の、俺を……。
「き……い……や、う、え」
こ、言葉が出ない。
つか何を言えばいいんだ。
こういうときに言うべきセリフは……?
悲鳴か、悲鳴を上げればいいのか!?
いやそれは違うだろ。
「とぅ……トゥーン様ぁ!」「トゥーン殿ぉ!」
二人が抱きついてきた。
待て俺は裸のままなんだってば!リアも裸なんだってば!
わー!首に腕を巻き付けるな胸を押しつけるなー!
リアも女らしくなったけどクレメンの胸も意外と……ちがーうっ!
一体ぜんたいどうなってんだーっ!!
バタンッ!
「どうしただやっ!?」
小屋の扉が開けられた。
そこにいたのは、ボロボロで泥だらけの服を着たパオラ。
息を切らせてる彼女の目は、俺の方を見て、つか、下の方を見て、俺の、大事な所を
「ぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
今のは、パオラの悲鳴だ。
絶対にパオラの悲鳴だ。
断じて俺の悲鳴じゃねえっ!