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魔王子  作者: デブ猫
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第七部  第一話  身分も種族も違いますよ

第七部第一話、予定通り投稿します

 僅かな光が頬を撫でてる。

 朝日がカーテン越しに差し込んでるのか。

 珍しいな、リアが起こしに来る前に目が覚めるなんて……いや、悪夢でよくねれなかったせいだ。

 昨日の映像は酷かった。おかげで目覚めは最悪だ。


  コンコン

「トゥーン様ぁ、朝よぉ」


 リアが起こしに来た。

 ああだるい、起きたくねえな。

 あと少しだけ……。


「なに無視してんのよぉ、さっさと起きなさいよぉ!」


 あーうるせえ。

 まったく毎朝毎朝ウゼエんだ。

 魔界の王子だって疲れた朝もあんだよ、領主はふんぞり返ってるだけじゃできねーんだよ。

 朝くらい好きに寝かせてくれってんだ。


「もう、勝手に入るわよぉ!」

「お邪魔しますだ~」


 あーもー勝手に入って来やがった。

 またリアが侍従共を引き連れて、いきなりカーテン開けて、ふとん引っぺがすんだコイツは。

 いい加減、魔界の王子にしてインターラーケン領主たる俺への敬意をビシッと教えないと……え?

 いま、なんか、リアの後に変な声が続いたような。

 あの声は……。


  ぶわさっ

「きゃあっ!」

「のぉわっ!」


 いきなり掛け布団を引っぺがされた。

 目の前にはいつも通りのリア。そして、パオラのまん丸な目。

 青い眼二組が見つめる先は、ベッドに寝る俺の体。

 俺も見る、めくり上がったシャツに半分脱げたパンツ……。


「な、何すんじゃーっ!なんでパオラまで!?」


 頭に白い布を被ったパオラ、慌てて真っ赤になった顔を手で覆う。

 周りの妖精共は当然のようにパタパタとはたきを振り、部屋中掃除しだす。

 パオラ、指の間から、慌ててパンツをはき直した俺を覗く目が見えてるぞ。


「そ、そんのぉ……。やっぱ、お世話になる以上、タダ飯食うわけにはいかねーで……。

 リアさんの下で、働かせてもらうことにしただよぉ……」

「なっ!?リア、勝手に」

「当然でしょぉ、働かざる者食うべからず!」


 目の前にズズィと眉間にシワを刻んだ顔を寄せてくる。

 腰に手を当て、堂々と宣言した。


「少なくとも魔王一族で彼女の扱いが決定するまでぇ、下働きくらいしてもらうわぁ」

「つったって、コイツは俺の客として」

「無駄飯食わせるほどの余裕はぁ、インターラーケン城には無いのよぉ!」

「な、何言ってやがる!金なら兄弟からの独立祝いで」

「街道建設、どんだけの資金が必要と思ってんのぉ?」

「うぐぐ……」


 言い返せない。

 確かに目録の内容は凄いモノだった。例えばフェティダからの宝玉一個を売れば、この城くらい一年は安泰だ。

 だが同時に、いやそれ以上に、インターラーケンの開発費用もバカ高いんだ。

 ティータン率いる巨人族による大規模な土木工事、フェティダ率いるドワーフの石工達による街道整備、ハルピュイ率いるファルコン宅配便による工事現場への補給、etc。

 妖精の書いた地図とエルフの設計図をもとに、山脈の麓の街からここまでの険しい山中、長い街道を拓き橋をかけようという一大事業。俺だけじゃなく、オヤジだって現場には何度も足を運ぶほどのものだ。


 そもそも冬になれば工事は中断せざるを得ない。

 この地は雪深い。冬になれば工事なんか無理。


 オグル率いるゴブリン総合商業組合からの融資があるとしても、油断できない。

 今後の維持費も考えれば無駄遣いは無理。

 なわけで、貧乏生活は変化無し。


「く……しょうがない。パオラも構わないか?」

「へ、へぇ。こちらこそ、わだすの身の振りが決まるまで、よろすくお願いしますだ」


 ペコリと頭を下げる。

 そして、リアと一緒にクローゼットから俺の服を持ってきた……顔をもっと赤くして。


「ん、んなワケでぇ……領主様、着替えすんべ。立ち上がってけろ」

「え?あ、いや、でもよ……」


 そんな真っ赤になって、恥ずかしそうにすんじゃねーよ。

 こっちまで恥ずかしいじゃねーか。

 リアはリアで、なんかニヤニヤしてるし。


「あぁ~らぁ? トゥーン様ったらぁ、人間なんかに意識しちゃってるのぉ?」

「ん、んなワケねーだろ?」


 ヒョイッと立ち上がり、鏡の前に立つ。

 いつもの妖精達に混じって、パオラも頬を赤く染めたままで服を着替えさせる。

 う、うーむ。

 慣れないヤツが混じると、やっぱ恥ずい。


 鏡に映る自分の姿を確認していると、後ろからパオラがおずおずと尋ねてきた。


「あんの、領主様……。わだすのことで、なんか決められたことは、ありませんだか?」

「あ~、いや、オヤジ達と相談したけどよ、なんも決まらなかったな」

「そ、そだか……」


 ちょっと肩を落とす。

 そんな姿は、昨日の映像にあった人間共とは同じ種族とは思えない。

 本当に分からない。

 一体、人間の世界はどうなってんだ?



 あの後、ようやく回復した連中も戻ってきて、一緒に相談を続けた。

 それは、パオラをどうするか、ということだ。


 ミュウ姉ちゃんは、「ル・グラン・トリアノンに招待したいわ」って、オヤジの城へ連れてきてくれって。

 ルヴァンは、セント・パンクラスで詳細なデータを取りたいと主張。

 ベウルは、敵の情報を得るため厳しく尋問すべきという。

 オグルは、見せしめに殺してやれ、なんて言いやがった。

 ラーグンはといえば、一般人が一人では政治上も軍事上も価値がないと興味無し。

 オヤジは黙って話を聞いていた。ただ、何か言いたげではあったんだが、結局何も話さなかった。

 少なくとも、「パオラを帰す」なんて話は出なかった。


 パオラを帰す、いやマジそれは無理。

 鳥もワイバーンもロクに飛べないほどの高地の向こう、敵支配地域へ人間一人を送り届ける命懸けの旅。

 届けた後、また帰って来なきゃならない。

 でも俺にはンな余裕がない。そして魔族と魔界の情報が漏れることを他の連中は許さないだろう。


 他にもアレコレと色んな意見が出た。

 で、まとまらなくてケンカになりそうになっていたところ、オヤジの「その話は、みんなよく考えてからにしようか」の一言で先送り決定。

 まぁ聞くことは聞いてあるし、田舎娘一人じゃ大した価値も無いからって、ほとんどの連中はそれ以上の主張はしなかった。



「なんか決まったら教えるから、それまでゆっくりしてな」

「へぇ、しっかり勤めさせて頂きますだ。

 んで、まずは領主様のお部屋を掃除しようと思いますだ」

「ああ」

「頑張るだすよっ!」


 小さくガッツポーズ。

 部屋を出て行く俺の背後で、勢いよくベッドのシーツが剥がされた。



 そんなワケで、パオラはリアの下で働くことになった。

 朝はリアと一緒に俺を起こしに来る。

 冷たい水で手を真っ赤にしながら、俺の服やシーツを泉でゴシゴシ洗ってる。

 執務室でクレメンタインと街道敷設予定路や街道沿いの市街建設計画を確認していると、お茶と果物を持ってくる。

 城の中を歩き回ってれば、どこかを掃除しているパオラの姿を必ず見かける。

 俺を見かけると、必ず満面の笑みで挨拶してくる。

 カルヴァに騎乗して領内の巡回をして戻ってくれば、遠くから力一杯に両手を振ってくる。


「お帰りなさいませ、ですだよ」

「お、おう」


 城の城壁、大門前。

 ペコリと頭を下げたパオラとリアと侍従の妖精達、石畳の上を城へ進むカルヴァの後についてくる。

 初夏というより、もう夏って感じの庭。

 短い夏を逃すまいと凝縮された緑が眩しく輝く。

 ちょっと陽が傾いた午後、そよ風に揺れる枝葉から木漏れ日が幾筋も降りてくる。


「ちょっとトゥーン様ぁ、聞いてよぉ。

 クレメンったらね、図書室の掃除がなってないっ!ていきなり怒鳴るのぉ」

「すまんこってす。

 わだすは羽がねーから、高い所の掃除が行きとどかねーべ」

「なに言ってるのさ。

 あんたはちゃんと下の方の掃除をしてたじゃない。あたい達は高いトコの掃除をキッチリしたし。

 コーマンチキなエルフの、タダの嫌がらせさ」

「ンなイヤなコトはいーから。

 それよりトゥーン様、今夜はパオラが故郷の料理を作ってくれたってさ」

「んだす!

 川魚をオーブンで香草と一緒に焼いてみただ。おんなず食材がみつかんなくて苦労しただども、どーにか出来上がっただよ!

 楽しみにしてくんろ」


 俺が口を挟むヒマもなく、女達はしゃべりまくる。つかよ、俺の返答なんか聞いちゃいねーだろ。

 まぁいつものこった、なんて思いつつ城の前でカルヴァから降りる。

 金がなくて修理が出来ないから、相変わらず大穴の上に板を引いただけの入り口。

 そして勇者とのチャンバラでボロボロになったままの踊り場に立つエルフの学芸員が小さく会釈した。



 執務室でデスクを挟み、クレメンタインから次の現場視察予定を聞く。

 聞きながらも、ふとパオラのコトが頭をよぎる。

 あいつ、一体どうしようかな……。


「……なら、次の現場視察もワイバーン便を使わない、ということでよろしいですな?」

「あー、ああ、ラーグンの無料券を使うほどでも……ないだろ、うん」

「承知しました。現地の飛空挺を一隻まわしてもらいましょう。

 それと、私からの提案ですが、有利子での融資を追加して下さるならゴブリンからの支援も手厚く……?

 あの、トゥーン殿」

「……え?

 あ、ああ。なんだ?」

「ですから、ゴブリン達には利子という利益を与えた方が更なる協力を期待できるし、資金にも余裕が出る、という話ですぞ」

「え、あ、そうか、うーん……借金はなるべくしたくねーなぁ」

「残念ながら、族長のベルンに話を聞きましたが、妖精達からの税だけでは、当座の資金が厳しゅうございますな」

「そか、う~、ん~……」

「あー、トゥーン殿」


 コホン、とわざとらしく咳払い。

 そしてコツコツと部屋の中を歩き回る。

 額に手を当てたり、腕組みしたり、言いたいことがありそうなのに、なかなか言い出さない。


「……ンだよ」

「トゥーン殿!」

「だ!?だ、だから何だよ」


 いきなりコッチに向き直りやがった。おどかすな。

 しかもズズイと俺に顔を寄せてくる。


「あのパオラという人間の娘、一体どうなさるおつもりですかな?」

「あ、ああ、その事か。……ん~、今のところ、思いつかねーな」

「……では、訊き方を変えましょう。あの娘のこと、どう思っておいでですかな?」

「ど、どうって……どういう意味だよ」

「そのままの意味です」

「そ、そのままって……」


 パオラ。

 銀髪をお団子頭にして、いつも元気に働いてる。

 家事は一通り出来て料理も美味かった。

 妖精達とも上手くやってる。

 人間の世界に帰る当てもないのに、気落ちした姿はほとんど見えない。

 城に帰ってくると、いつも嬉しそうに出迎えてくれる。

 背は俺と同じくらいで、目の青さはリアより薄く、痩せて貧弱かと思ったけど体力も根性もある。

 ソバカスだけど、ニカッと笑う姿は健康で明るく元気で……。


「……ま、まぁ、良い子なんじゃね?」

「それだけ、ですかな?」

「……おめーは何が言いたいんだ?」


 またもコホンとわざとらしい咳払い。

 顔が見る見る赤く染まっていく。

 目が天井だの窓の外だのを泳いでる。

 ソワソワしながら、「あ~、その~ですな~」と淀んでばかり。

 最後に、オッホン!と特大の咳払いをして、ようやく言い出しやがった。

 ドエライ話を。


「惚れてはなりませんぞ!」

「なっ!?」


 いきなり何を言いやがんだコイツは!?

 俺が絶句してたら、さらに畳みかけてくる。


「トゥーン殿は魔王十二子が一人、魔王継承権者で御座います!

 パオラなる小娘は、単なる人間の田舎者。身分も住む世界も種族も違いすぎる、と言っておるのです!

 殿は未だ若く、その手のコトには、その、えー、いささか疎いとは思いますが、なにせインターラーケンにはトゥーン殿と良き仲になれそうな、適当な婦女子が少のうございます。

 この地に住まう妖精共では、あの、なんといいますか、そう!体が小さすぎますから。身分や種族は、その、ともかく、トゥーン殿と、あの、えと、よ、よよよ、夜の、おおおおおあおあおあ、相手が、務まりうるだけの体を持つ女は、ぱ、パオラと、えとえと、わ、私くらい?

 いえっっ!!!ご、誤解されては困りますぞっ!わ、私は単に、その、夜伽の相手を出来う、あい、いえ、そうでなくてっ!とととトゥーン殿も、そろそろ、良き伴侶と家庭を持たれることにも興味が出るお年頃かと存じまして。

 ですが!あの人間の小娘はなりませぬ!ええ成りませぬぞっ!我ら魔界の安寧を脅かす人間など言語道断っ!かような事態は有り得ませぬっ!」


 カーテンが揺れる窓から、そんな叫びが聞こえてくる。

 でも俺は、とっくに窓から飛び出して庭に降り立っていた。


 な、何を言い出すんだアイツはっ!

 聞いてらんねーよっ!

 あーこっぱずかしい、何が夜伽だよオメーはリバス姉かバカッ!

 まったく、そういう話は嫌いなんだよ、顔が真っ赤になっちまったじゃねーか何で俺がパオラとそりゃ俺だって興味がねーわけじゃねーけど俺には魔王になるという野望もインターラーケン領主としての仕事と責任もあるんだぞ第一パオラって何だよ俺が人間なんかに


「どしただ?」

「ずおわっ!」

「なんだか、顔が真っ赤よぉ?」


 すぐ後ろにパオラがいた。

 リアとか妖精達と一緒に洗濯物の山を入れたかごを担いでる。

 ぐ、ぐぐ、まともに顔が見れない。

 えーい余計なコトをいいやがって!お、俺だって興味が無いワケじゃ……しかし!俺も魔王一族としての自覚はあるわけで。

 そんなコトを考えてたら、パオラのキョトンとした顔がヒョコッと目の前に。


「領主様、なんかあっただか?」

「い、いや!なんもねーぞ!」


 ササーッとその場からも立ち去る。

 あー恥ずかしい。

 もー、どーすりゃいーんだよっ!?


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