表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王子  作者: デブ猫
11/120

     第三話  剣舞

 俺の城、インターラーケン城。

 中には誰もいない。

 寒々しくて薄暗い、石造りの建造物。


 ホール正面の階段を登った踊り場で、俺は弓を構えている。矢には小さな宝玉をくくりつけてる。

 狙うは空きっぱなしの正面の扉。

 恐れも疲れも知らぬ狂戦士、魔族と見れば問答無用で襲いかかる化け物、正面から飛来する矢を紙一重でかわす体術。

 そうであるがゆえに、正面から堂々と入ってくるだろうと思った。


 本当に正面から、堂々と入って来やがった……バカにしやがって。

 だがヤツが足を踏み入れた瞬間、床が崩れた。

 ラーグンが開けた落とし穴、修理が間に合わなかったのでフタをしただけでおいといたのだ。


 だが、ヤツは落ちなかった。

 床が落ちるより早く宙に飛び、クルクルと華麗に身を翻してホール中央に着地。

 その瞬間を待っていた!

 矢を放つ。着地したヤツの身体へ!


  カツッ!


 ちっ、避けられた。

 着地した瞬間、さらに跳躍して矢をよけた。読まれたか。

 だが、こっちもその程度は予想してたぜ。

 矢にくくりつけていた宝玉が輝く。  


  ドゥンッ!


 宝玉が爆発。

 音と振動、破片を周囲にまき散らす。

 爆風で勇者は体勢を崩した。

 同時に二階廊下に身を隠していたクレメンタインが魔法を放つ。


「炎よっ!」


 ホールへ突きだした掌から火炎が吹き出る。

 ヤツが立っていた床を、その周囲ごと焼き尽くす。


「殺ったか!?」


 すぐにホールを確かめる。

 だが、絨毯が黒コゲになっただけ。他には何もない。


「避けてぇっ!!」


 奥からリアの悲鳴。

 瞬時に後ろへ跳ぶ。

 刹那、俺の頭があった空間を小さなナイフが切り裂いた。

 いや、頬をかすめた。兜で保護されていなかった頬に血で線が描かれる。


 炎も避けてホールに悠然と立つ勇者。

 手に持つ投げナイフを、今度はクレメンタインへ投げつけた。


「キャアッ!」


 左肩に刺さり、クレメンタインが悲鳴を上げる。背後にいたリアが慌てて『治癒』を唱える。

 俺には助け寄る余裕はない。何故なら勇者のヤツが俺に向けて駆けだしたからだ。

 身を低くかがめ、剣を手に突っ込んでくる!

 ヤツの足下に、持っていた弓を投げつける。

 軽く跳躍してかわされた。

 こっちも黒光りする剣を抜き、ヤツに向けて突く。


  キュルリリィインッ


 金属が擦れあう異音が響く。

 剣と剣がぶつかり合う音、じゃない。

 ヤツの剣が俺の剣の刃の上を滑っていった音だ。


 俺の剣は、ヤツの剣で僅かに軌道を逸らされ、外された。

 そしてヤツの剣は、俺のチェインメイルに突き立つ。


  キュウゥゥゥン……


 小さな、何かが回転するような音も響く。

 俺の鎧に付けられた宝玉が稼働している音だ。

 ヤツの剣の切っ先に当たるチェインメイルの表面を、光の波紋が広がる。その波紋より先に、剣は進めない。


 黒光りする宝玉に付与された魔力は『吸収』。

 防護フィールド機能を持つ宝玉が付属した、魔王一族専用の鎧だ。

 『吸収』の魔力が展開した鎧からエネルギーを吸収され、剣は進めない。突き刺されない。


 そして、エネルギーを吸収され進めないということは、動くこと自体が出来ないということ。

 勇者は剣を引こうとする。だが、剣は動かない。

 剣から手を離した、素手だ。

 このチャンス、逃す手はない!


  シュバッ!


 顔面ど真ん中への突きはかわされた。

  シュバガガガッッ!!

 さらに突きの連撃を繰り出す。

 ヤツの背後の、階段の手すりが削れていく、だけだ。

 すべて見事にかわされる!?

  シュパッ!

 横薙ぎに剣を払う。

 またも剣は空を切った。切り裂かれたのはヤツの後ろの手すりだけかよっ!?


 クソ、勇者が素手でいる今がチャンスだ!

 階段の踊り場は広くない、いつまでも逃げ切れるものか。

 避ける間もないほどの連撃っ!


  ズガガガガガガガッ!!


 突き、薙ぎ、払い、切り上げる。

 黒剣が風を、カベを、手すりを、床を、踊り場にあるもの全てを裂いていく。

 ヤツ以外の全てを切り刻み、粉砕していく。


 それでも勇者の体に触れることすら出来ない。

 あまりにも見事な体術と反射神経と、何よりカンで避けられてしまう。

 ドワーフが鍛え上げた剣は刃こぼれ一つしないが、当たらなきゃ何の意味もない。

 それどころか、逆に間合いを詰められ組み付かれそうになる。

 信じられねえっ!!


「このぉおっ!」


  ブォンッ!

 渾身の力を込めて、ヤツの首を横一文字に斬りつける。

 だが、かわされる。空を切るだけ。

 身を伏せてかわし、しかもそのまま突っ込んでくるっ!?

 足を取る気か!


  ガッ!


 右膝蹴り。

 とうとう当たった、突っ込んでくるヤツの顔面にカウンターで膝を叩き込んだぜ!

 ヤツの体がホールに向けて吹っ飛んでいく。

 

 と思ったが、手応えが弱い。

 当たる寸前に自分から後へ跳んだのか、軽やかに身を翻してホールに降り立ちやがった。

 全く傷を与えられなかった。踊り場に立つ俺の周囲にある手すりや壁だけが落ちていく。


 強い。


 本当に、強い。

 ヤツはさっきから魔法を使ってない。全て自分の体術だけで、一人で戦っている。

 にも関わらず、俺を圧倒している。

 ヤツはさっきから、全くの無表情だ。呼吸も乱していない。

 これだけの動きをして、まだ本気じゃないとでもいうのか?

 俺が初の実戦だとしても、例え末っ子だとしても、魔王一族の一員だぞ。

 体術と肉体強化術に関しては兄弟一と言われてる。


 もちろん俺は手加減してない。

 両手両足を走る青黒い魔力のライン、さっきからずっと輝きっぱなしだ。

 だからこそ堅い木で出来た手すりが跡形も無くバラバラになって足下に落ちている。

 石のカベだってボロボロだ。

 その俺と互角以上なんて……化け物だ。


「おい、勇者とやらよ」


 ホールに立つ化け物に呼びかけてみる。

 剣劇前に一瞬『吸収』を切り、床に落ちた勇者の剣を拾い上げ、左手で握る。

 ヤツの青い目が俺を見る。


「俺は、トゥーン。

 魔王第十二子、魔界の王子……トゥーン=インターラーケン様だ。

 お前の名を教えろ」


 そいつは、ジッと俺を見た。

 相変わらず無表情。その目は冷たいままだ。

 何の感情もこもらない、氷のような目。

 氷……の、ような?


 ヤツが、口を開いた。

 若くて張りのある、男の声がホールに響く。

 だがそれは、俺の名乗りに答えたモノじゃなかった。

 しかも、しゃべり方まで感情が無いとしか思えない。

 その内容とは裏腹に、何の感情も感じられない、棒読みのセリフ。


「おお、なんということだ。

 せかいせいふくをたくらむまおうのいちぞくにであうとは。

 せかいをほろぼすあくまめ。

 せいぎのなのもとに、このゆうしゃがせいばいしてくれる。

 きよきかみのちからによってきよめられるがいい」


 クレメンタインの放った炎でホールは熱い。

 燃やした絨毯も、まだ燃えている。



 なのに、ホールの空気は凍り付いた。



 うずくまっているクレメンタインも、『治癒』をかけるリアも、両手に剣を構えたままの俺すらも。

 その勇者のセリフに、魂が抜け落ちたような言葉に凍り付いた。


 いや、違う。

 俺の名乗りに答えてないとか、棒読みだとか、会話になってないとか、そういうことじゃない。

 俺は、俺が凍り付いたのは、ヤツと目が合ってしまったからだ。


 ヤツの目は、冷たいんじゃない。

 感情がこもってないんじゃない。

 あれは、人間の目じゃない。

 いや、生物の目じゃない。



 人形だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ