出会いというにはあまりにも
肩を負傷したアレクシスは救護のテントへ向かった。前線へ行っていたメンバーから言わせれば「とても安全な場所にあるテント」という事だが、安全というだけできちんとした病院に比べれば衛生面にも問題があるし、応急手当しかできない。そのため重傷者はとりあえず手当を行い、そのまま病院へ連れていかれるという状況だ。
そんな急ごしらえの救護テントでせかせかと働いていたのは山猫の獣人であるシアラだ。
「大丈夫ですか?こちらに座ってください。あぁ、貴方はこちらへ。先生、この方の方が優先度が高いです。早めに診てあげてください」
運ばれてきていた人たちは重傷者がやや多いようで、シアラを含め他の者もバタバタと走りまわっている。アレクシスはその状況を確認すると応急手当もいらないというようにテントの外へ向かおうとした。
「え!?団長どこへ行くっていうんですか!?」
引き留めたのは例の無茶をしてアレクシスに庇われた団員だ。踵を返したアレクシスを必死に引き留めようとする。ただ、アレクシスもけが人の為強く引き留める事ができずにただただアレクシスの前に立ちふさがり両腕を伸ばして静止をお願いしているだけだ。
「すみません!!団長のケガ見てもらえませんか!?俺をかばって負傷したんです!お願いします!!」
「馬鹿者!重傷者が優先だ!俺のケガはそんなにひどくない。これなら戻ってからでも」
「すみません。今日重症の方が多くいらっしゃっていて・・・ちょっと物資も心もとないので、出血している部分をこのハンカチで抑えていてもらえますか?あ、もちろん綺麗なハンカチですから安心してください」
大声を出した団員を叱責しながら自身も大きな声を出していたアレクシスの横からシアラがさっとハンカチを差し出した。忙しい中でも穏やかな笑みを浮かべハンカチを差し出すシアラを見てアレクシスはいたたまれなくなり、「すまない」と小声で言いありがたくハンカチを受け取った。そしてハンカチで肩を抑えようとした時、そのハンカチから香る匂いにアレクシスの本能が刺激された。
「は・・・・・・・・・・・」
声にならない声が出たアレクシスはハンカチを肩ではなく自身の鼻に押し当てた。そして、目一杯匂いを嗅いだ。その瞬間、天にも昇るような気持ちでうっとりと頬を染めたアレクシスに対してその奇行を目にした団員とシアラは、思わずその場から後ずさった。
「だ、団長?どうされたんですか?」
「ちょっと黙ってくれないか」
「え」
「黙れ。俺の中に取り込んだ素晴らしい香りが逃げるだろうが」
「「え」」
今度は団員とシアラの声が重なった。シアラは直感的にこの人はヤバイ人だと思った。自分のハンカチの匂いをかいで恍惚とした表情をしている。世にいう変態だ。「絶対手当したくない」とまで一瞬の内に考える。もちろんシアラがとった行動は「逃げる」だった。
「すみません、他の方の手当がありますので、こちらでお待ちくださいね」
穏やかな笑みを浮かべつつシアラはほぼ駆け足でその場を立ち去った。残された団員は逃げ去るシアラを引き留める事もできず、未だハンカチの匂いを嗅ぎ続けるアレクシスの横に立ち尽くした。
アレクシスのはその後無事?診察を受け応急手当の後王都へと戻っていった。シアラのハンカチを握りしめて。
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