天井裏のネズミ人形
注意書き
2日おきくらいに少しずつ更新していく予定です。
反響次第でまた変動する可能性もあります。
作者は医学の素人なのでご指摘ご容赦ください。
また聖クリーチャー王国は異世界の設定ですが、フランス語の言語を参考にさせて頂きました。
以上の点を踏まえた上で本編にお願いします。
天井裏にある3畳1間のその空間は、おおよそ人が住める環境ではなかった。光が入らず埃っぽく、そしてかび臭い。
しかしミシェルはそんな異質な空間を部屋とする他なかった。
それは何故か。彼女が美しかったからか、それもあるだろう。
彼女は聖クリーチャー王国の中ではおよそ100万人に1人と言われる漆黒の瞳と髪を有していた。つやつやしい真っ白な陶器のような肌は、然るべき食事と睡眠を摂ることが出来ていたなら国宝と呼ばれていたことだろう。彼女は確かに容姿の面でみんなの羨望と嫉妬の標的だった。その人々の妬み嫉みが積み重なった結果、彼女は暗闇に押し込まれてしまったのか。
それは少々飛躍している。
ならば何故か。彼女が母を早くに亡くし、継母に育てられたからだろうか、これもまた大きな原因の一端を担っているだろう。
ミシェルの母は産後の日だちが悪く、ミシェルを産んでまもなくなくなってしまった。そしてしばらくして父が連れてきたのが継母のカエラであった。
彼女は連れ子のジュエリットと共にミシェルの屋敷にやってきて、我が物顔で振る舞った。それも父がいる間はすこし緩和されていたが、父がひとたび出かけるとミシェルは酷くこき使われた。
父が出先の事故で無くなってからミシェルへの当たりはさらに強くなった。しかし、カエラやジュリエットがミシェルに強く当たったのは、もちろん血の繋がらない他人だから、というのもあるがもっと根本的な部分に理由がある。
それはミシェルが出来損ないであったからだ。
彼女は容姿端麗、聡明叡智であったが、1つ絶対的な弱点があった。それは治癒能力、いわゆる魔法が使えない事である。
聖クリーチャー王国の女性貴族たちにとって治癒能力はそのまま本人の能力値を表している。というのもこの世界における貴族とは魔力を持って生まれたひとを指していて、親和力の高い女性は皆一様にその魔力を治癒能力として活用することができるのだ。
その能力の強弱が女性の社交界での強弱に繋がる。彼女たちにとって容姿よりも家柄よりもなによりも治癒能力は必要不可欠なものだった。
しかし彼女には治癒能力どころか魔力が1ミリたりとも存在しなかったのだ。
人々はみなミシェルは外に産ませた子なのではと揶揄し、ミシェルは生まれてすぐ落ちこぼれの烙印を押されることとなった。
ミシェルの17年の人生においてそれは覆ることの無い絶対的な評価であり、ミシェルはそれを受け止めて全てを諦め、抜け殻のように生きてきた。
そんな彼女はカエラやジュリエットにとって、ストレスの捌け口としてちょうど良かったのだ。
ミシェラは次第に感情すらも失ってしまった。
そして人々は天井裏に住むミシェルのことをこう名付けた。
「プペースリ」~ネズミの人形~
しかし彼女はこの聖クリーチャー王国を離れ、とある世界のとある島国、日本で才能を発揮し天才女医となって舞い戻って来ることになるが、それはまだ先の話である。
つづく
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