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頬に傷もつ私の一生 9

だめ、絶対に駄目。お母様に見つかっちゃだめ。芯のない体を起こすと、一度視界が揺れた。おそらく手当をするためにかまとめていた髪がほどけていて、息を呑む。緑の毛先。見えたらだめ、気づかないで駄目。あわててそれをまとめた。服は着替えさせられてはいなかった。呼吸をしやすくするように首元をゆるめたのだろう。シーツの下の乱れた服に慌てたのは母の夫で、こちらを疑っているくせにこちらに見せた気遣いに腹が立った。身勝手な私は、結局誰にでも腹を立ててしまう。違う。いけない。そんなことに気を取られてる場合じゃない。

行かないと。

逃げないといけない。

どんな言葉で、態度で、行動で、思想で、ただ見つめるだけでも傷つけてしまう。

誰にとってもいらない私だけれど、だけれど私は私を捨てることはできなかった。

生まれてきたことを、嫌だなんて思えなかった。

家族に出逢ったことを、悔いたことなんてなかった。

私と会った誰でも、殺したいだなんて思わない。

でも、今会ってしまったら。

お母様と会ってしまったら、折り合いがつかず縮こまった子どもの頃の私が、癇癪を起こすかもしれない。そう思った。口に出さなかった不満をすべてぶつけたらきっとお母様だって気づいてしまうわ。知らないふりなんかできないわ。そして私の気が治まった頃に、また――また前のお母様になってしまうかもしれない。誰が悪いわけでも無いのに。お母様は間違っていないもの。お父様だって間違っていないもの。

でも私だって、間違ってないもの。

ちょっと、ずれてるかもしれないけど、それだっていいじゃない。

「お金が欲しいんです」

この家で、こんな大声を出したことはなかった。だからそのはっきりした音が響くと、その場にいた人たちは体を固まらせた。

「お金を頂戴。別に私だって、危ない橋を渡るつもりはなかったのよ。貴族はこれだから嫌。仕事は終えました。お金をください」

「な……」

不作法な私の、無遠慮に直視する視線に呆気に取られながら男が目を見開いて、その硬くした身につられて妹が目を覚ます。それともこの子を起こしてしまったのは、私の大声かしら。



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