胸に証もつ俺の一生 15
あの子に声をかけよう、だけどかけてしまってその先、もし。だったら会わずに、このまま見守るだけでもいいかもしれない。化け物になった俺には、人間が必要な、ほとんどのことが不要になった。
何度繰り返しても、俺は自分があの子に拒否される結末しか描けなかった。美しくなったあの子。分厚い化粧を外し、頬に傷を作っても人を引き付ける。男女だろうと構いはしない。惹きつけるようになったその時間、経験どこにも俺はいない。あの子の人生に、ただ関わりがあるようにみえるだけで、同じ家に暮らしていたのに、なんの接点もない自分がどうしようもなく惨めで、あの子にたいして普通に関わることのできる人たちへの憎しみを抑えきれなかった。
あきらめきれず、何日かあの子の勤めている店を外からうかがった。そのたびそのたびに、あの子はきれいだった。頬の傷に、花を描いて、うっとりと誰かが見入った。
その日、あの子は沢山の荷物を持っていた。店主らしき男に頭を下げていた。もしかして、またどこかへ言ってしまうのか。あの子にたどり着いて、まだ数日なのに、あの子は以前のように、自分を探りに来ているやつがいると思って、またいなくなるのだろうか。
「またいつでも、会いに来てね」
落ち着いたら、またお仕事させていただくかもしれません。
大歓迎だよ! 席は空けておくよ。
そういうのをきいて、この国からいなくなるのではないと知ったが、どこに行くのか疑問は消せなかった。
大丈夫なのかい、一人でいけるかい?
「私、今日婦人に会いに行くんです」
婦人が連れて行ってくれるから、とあの子は言った。
横でふらりと誰かがあの子にぶつかり、あの子は倒れた。何度か、鈍い音が聞こえた。続く、切り裂く音と悲鳴。
悲鳴とともに、取り押さえられた女――あのときの、見覚えがある、あの子に凄んでいた同じ店の女。
集まった人だかり、駆け寄った俺には目もくれず、治癒師をと叫ぶ主人。金が、と戸惑う誰かに、金ならいくらでもある、そう叫びながらあの子を引き寄せた。おまえ、さわるな、なんだってんだ。
取り押さえられた女の手は赤く赤く汚れていた。彼女の血だ。戦場で見慣れた、赤い――鮮血が、体から流れて――流れ出てしまう。失われてしまう。止血をしても、損傷が酷くて、肺から空気の漏れる音がする。よく知る死に向かう音がする。
あんたが私の客を取った、大した技術もないくせに、なんで大きな顔をして、あの人と仲良くなって!
ヒイヒイと叫んでいたけれど、抱き上げた拍子に彼女の帽子が外れ、その髪があらわになるとその表情は一変した。
怯えて、腰を抜かしてその場にしゃがみ込んだ。




