胸に証もつ俺の一生 14
あの子に会ったら、あの子に会えたら、姿だけでも見つけられたら。
幸い、渡された場所にその子はいた。聞けば子ども服がとても有名らしい。その意匠を見て、名前を変えているけれど、あの子が作ったものに間違いないと思った。かつてあの子が恋しただろう男の、その弟妹たちに作ったものに似ているものがあったからだ。
俺を最初に見たときと同じように、目をキラキラさせて、あなたにはこれが似合う、あの子にはこれが似合うと、そう熱弁を振るっているのが店の外から聞こえた。でもあの子ったら、背が低くって――それがちょっと、コンプレックスになっているみたい。母親が足元に目をやるとドレスの後ろに隠れた子どもがあの子を見つめていた。ぷく、と頬を膨らませていじいじと母親のドレスの裾をつかんでいる。
まあ!とあの子は声をあげた。口を尖らせて、身振り手振りを大きく、訴えかける。
あなたは! いいのこれで! 美形には美形の、可愛い子には可愛い子の、あなたにもたっくさんいいところがあるんだから!
きっぱりと言い切るその様子が、かつてのあの子と同じだった。
好きなものは何? 追加で装飾をつけてあげる!
汚れながらも光を失わなかったあの子の、所在なさげで、それでも生きていたあの子の、生き生きとした声が聞こえる。
俺は、君と生きたい。
君に、俺を知ってほしい。知らなかった君と話したい。
そう思えば思うほど、体が動かなかった。誰が何を言うのか。何もしなかった、何も。
ありがとう、と客が言い、子どもも喜んでるわと続けると、あの子に更に近づいて、声を潜めた。
「そういえば、ご実家の反応はどうだったの」
「さあ、まだ返事が来なくって、どうとも」
それはあの子の家族の話らしかった。小さい声だったが、竜の血の力で化け物になった俺は、道を挟んで向こう側の声でも、聞き逃しはしなかった。
ごめんなさい、こんな立ち入ったことを。いえいえ、教えていただいた身です。別に私を知る人もいないので、構いません。明らかに上位貴族の婦人と、親しげに言葉を取り交わす。放置された子どもが母によりかかり、あの子のドレスの裾をつかんだ。僕も、その話聞かせてとつぶやいた。置いていかれた話題に、不満を隠そうともしない。んー、内緒にできる? とあの子はしゃがんで子どもに聞かせた。
「お母さんとお父さんの子どもじゃないかもって言われてたけど、お母さんとお父さんの子どもだったのよ。バカみたいでしょ。おじいちゃんがお父さんに何もかも話してれば、絶対防げたのに」
頭が真っ白になった。それはそうだけれど、どういうことなのか。どうして、それを知ったのか。
「できるだけ早く、国に保護を願い出たほうがいいわ。あなたは尊い身の上なのだから、本当に、さらわれないか不安で眠れないわ」
傍らの婦人はそう言って彼女の髪を撫でる。相変わらず、その髪は黒いレースで覆われていた。
「奥様! 来てくださったんですね」大きな声で三人の間に入ったのは、あの子より少し年上の女だった。もう、すぐさぼるんだから、といわれたあの子はへへへと笑った。
婦人はその様子に怒る。そんな物言いはよして頂戴、とかなり強い口調で近づいて、無遠慮に女が絡めた手を外した。ごめんなさい、また来るわ……いいえ、馬車をよこすから、どうぞ私のところへ来て頂戴。
婦人はあの子を大切に思っているらしかった。貴族ということがわかったのだろうか。しかし目上の者に接するような、そんな気配すらあった。その違和感を、その女も感じていたのだろう、申し訳ありません、と頭を下げながら、意味がわからないとあの子を睨んでいた。
あの子は、そんな様子に構いもせず、はい、と下を向いてうなずいた。




