胸に証もつ俺の一生 13
竜を倒すのには時間がかかった。途中片目と片足を失った。仲間は止めるが聞かなかった。帰れと言われたが、あの子の所ではないから帰らなかった。最後の対峙は竜と俺のみを切り離した空間で、その空間にあった大地ですら削れてくぼんでいた。俺の体さえも消えかけて、力の入らない体でだけど立ちあがろうとした。竜は横たわったまま動かない。竜と俺のみの空間は次第に元の場所に繋ぎ直されていく。竜の血を受けて爛れる大地から煙が上がる。
おめでとう、お前も立派な化け物だ。
竜が唸った。その煙を吸ったことで、竜の一部を体に入れたようだった。重しのような魔力が肺を満たすのがわかった。おめでとう、と声は響いた。唸り声が言葉として理解されていく。
動けないなら私の血を飲め。無駄かもしれぬが、うまくゆけば、さらに化け物になれるぞ。溢れる魔力、欲しかろう、求めただろう。中途半端な力ならば、縛り付けられることもあるだろうが、私を見ろ、自由だったろう?
まあ何私はおいぼれただけだ。魔力に体がついていかないのだ。過ぎたる力が文字通り身を滅ぼして、お前がそれに切れ目を入れたのだ。ほんの少しの切れ目だ。それでもだがたかだか人間風情ができることではない。精霊の加護も薄皮一枚。お前が帰ると決めたからこそ引き入れた勝利だ。何が欠けてもなし得ない、これぞ運命、必然だ! なあそうだろう、そうだろう。
ならばその先の運命に、お前が私の血を飲んで、化け物に変わる行き先があってもおかしくはない。でなければすぐ死ぬだけだ。簡単だろう。
唸り声に、あたりが震撼すると、お互いの傷口から血が流れる。流れて終わればあの子に会えない。会えない。会いたいから俺はここにいる。会えなくなるならどうでもいい。体を引きずり、溢れ出るその血を啜った。眩い金色の光が自分を押し潰したかと思うと、見た目は元通りの俺がいて、骸となった竜があった。魔力とともに、胸に目の前の竜と同じ刻印が刻まれた。
化け物になった。
あの子に会えるなら、どうでもいい。




