胸に証もつ俺の一生 7
あの子がいなくなるだろう世界では、窮屈で、頼りのない、この俺を支えるものが何になるか予想がつかなかった。けれども騎士であれば、腕一本で自分の世界を守れるだろう。母親があの子の父親に俺を重ねて要望した道だったが、あそこから離れるにはちょうどよかった。強くなりさえすればこの身一つでどこまでもいけるか。そしてあの子を迎えに行きたい。どこまで逃げたってかまわない。あの子に嫌われていたっていい。金と名声を得て、力をもつならきっと誰も文句は言わない。
ぬくぬくと温室で、際限なく甘やかされていればいい。ただそこにあればいい。
理性が外れた頭の中では、そんな妄想が際限なく溢れ出た。会いもしない、すれ違うことすら難しい少女に抱く感情ではなかった。そんなはずではなかった。他の女でためそうにも、彼女でないというだけで何もかもが平坦になった。消えるように声も顔も薄らいで興味がなくなった。好きなものだけ見える世界。あの子がいないから、何もかもが薄い。
俺はどこかーーもしかしたら、どこもかしこもーー異常なのだ。しかたない、俺の父親も異常で、俺の母親も異常だから。
弟が、そんな家族の一面を知らないことに安堵して、あの子をそんなに知らないままであることに、薄っすらと優越感を覚えて、そんな醜い自分を自覚して、だから家には帰りたくなかった。
常識はずれな俺の立ち振舞は、大いに周囲を苛立たせはしたが、同時に開花した才能が反論を許さなかった。僻地に飛ばされようが、有象無象の編成隊に入れられようが、魔物の森で一人残されようが、一向に構わなかった。この感情を、あの子にもう一度会えたとして、一方的に向けてしまうだろう自分が嫌だった。魔物にぶつければぶつけるほど、強くなる。お前なら竜だって倒せるかもな、とこの国の王子が冗談をとばす。それに何の意味がある、と俺は返して場はしらける。
あの子が消えた。
そう知らされたのは、知ったのは、騎士として大型の魔物を討伐して、帰ってきたときだった。
消えたとは。
あの子は平民の身分証を持っているから。
あの子は好き勝手に、稼いでいた。
男の家にだって出入りしていた。
なんて性悪なの。
その悪辣さをきれいに隠して生活していたのよ、信じられる?
あんなにわがままで、何もできない子が一体どうやって生きられたか、自分でわからなかったのかしら。
あの子ったら、一人前に給料なんかもらって、工場が用意した部屋に暮らして、平民に紛れていたのよ。
夫がそれに気がついて、心配して密かに監視させていた男に恋をしたのよ。勝手に、自分の勝手でしょうに、その男の正体を知ったら、暴れて、挙句に逃げ出したのよ! 私はわかっていたわ、ええ、あの子の奔放さには気づいていましたよ。いつかこうなると思ってたわ! ほら見たこと!
勝手に傷ついて、脅して領から逃げたって、なんて自分勝手でわがままなの!
でも、困ったの、あのね、逃げた先がわからない……どうしましょう、あの人になんて説明すればいいの。報告があったのは、もう一年も前なのに見つからない。




