胸に証もつ俺の一生 2
ねえ、ねえねえ。
また、あの目で見られるのか、そう思って愛想笑いを浮かべた。
あの子の目は違っていた。
猫が近寄ってきたように、その瞳にはきらめきがあった。
ねえ、ねえあなた。
ゴテゴテと着飾ったその服装に、数日風呂に入っていないのか油の匂いがした。――いや、これは化粧の匂いだ。髪を粘土のように固めて、顔は白く塗りたくり、大人の女よりもベタベタと作られた顔を、晒すことはなく黒いレースで隠していた。
母親やその友人のように、誰かのために作られたものの、気に入られようも擦り寄るためのものの匂いだった。
でもあの子の様子は違っていた。
隠して隠して、見つからないように、こっそりとあの子は俺を、自分の部屋に引き入れた。人の影に怯えて、時折隠れるから、俺もならった。
なんだろう。
この生き物はなんだろうと。
思えば思うほど、その行動と姿形の違いに戸惑った。戸惑う合間に、あの子の部屋で待ち構えていた気持ちの悪い女達が、俺の服を脱がそうと襲いかかる。その手が偶然を装って体に触れると、ビリビリと気持ち悪さに皮膚が痛くなり、吐き気がせり上がった。あの子は助けてくれない、あなたにはこれかな、とふわふわとした布を手に取って、俺の嫌がる様子に気がついた。やめて、いやだ。俺が唸る。
そうしているうちに、あの子は目を見開いた。そしてああああ、と叫び声をあげて赤面する。声も終わらないうちに続けてやめて! と叫んだ。
「やめて! 違う! その子じゃない。ちがう」
何がそうだったのか。何が違ったのか。それがわからなかった。途端に失望と混乱の眼差しを向けられて、勝手な暴力にさらされた自分がその場に放り投げ荒れるような感覚に憤りを覚えた。何が違う。呼び出して、連れてきて、周りの女にひん剥くように言ったくせに。
その手に握りしめていたのが、レースがたくさんついたドレスだなんて知らなかった。おそろいのドレスを、俺に着せようとしていたなんて知らなかった。俺とふたりであそぼうとしてたなんて、なにも、知らなかった。
俺が女の子に見えたという話を、ずっとずっとあとに知った。




