頬に傷もつ私の一生 15
事実に対する憤りが収まると、なんとかこの状況を伝えて、後悔してほしい衝動に駆られた。事実を伝え、お母様の名誉を回復したい。私は今ここで平民として幸せな日々を送っているが、お母様は違う。私にも謝ってほしいけれど、強く願ったのは、お母様への謝罪だった。
そこで祖父に手紙をしたためたのだ。
私は隣国に行き、自分の髪の意味を知ったこと、それを当時私の髪を見ていた母、父が知らなかったこと、祖母も見ていたのにお母様の不貞を疑っていたこと、祖父が私をほとんど見ずにそれを肯定したことを手紙に書き起こした。感情的にならないように、引き取るなんてことが思い浮かばないように箇条書きにして、稚拙な文章で、今とても幸せで、あなた達に近づけば自分の幸せが潰れてしまうと哀願して、その上で、お母様に謝ってほしい。苦しんだあの人の心はもう別の人に救われているけれど、それと謝罪するしないは別の話だと思う、と正直に書いた。
実は新聞に弟と妹の近況が載っていたのは、妹に婚約者ができたからだった。相手は王族らしい。遠い国の王子が妖精と結婚! という見出しが踊っていた。あの可愛くて聡明な妹のことだから、きっと幸せな婚姻であろうとは思う。だけれど万一お母様のことで誰かが足を引っ張るかもしれない。
偉い貴族の人たちなのだから、その落とし前はつけるべきだ。
手紙を送ったことを婦人に報告すると、あなたを取り返しに来る危険は考えないの、と怒られた。め! え。と固まると、さらに怒られた。ごめんなさい。
私は自分の身を守るために、今の勤め先の服屋を辞めて、王家への保護を求めることにした。事実を消されたら困るからだ。ひ孫世代の異国の血が入った奴の面倒なんか見てられんと言われたら、それはそれでいいじゃないか。服屋の主人が、いつでも帰っておいでって言ってくれるし。
案外人生というものは、足し引きゼロでうまくいくものだ。
私はこういう運を持ってる。
そう思ってたら、なぜか針子仲間に刺された。私の自室の隣の部屋の。




