頬に傷もつ私の一生 14
「あなた、……そう、どうりで気品があると思ったわ」
とある日の昼下がり、キラキラと舞うのは布の埃で、吐息で思わない方向に動く。むにゃむにゃと寝る子どもに布を当て、起こさないように服を調整する私に向けて、その子の母親である御婦人にそう言われた時、どく、と心臓が跳ねた。
私が貴族だと、断定して話を続ける。私のことを風の噂で知ったのか、またにげなければいけないのか。
パニックに陥って逃げようとする私を、違うのよ、その髪よ、もしかして知らないの、とその方は立て続けに私に話しかけた。黒いレースで隠した髪が、見えてしまっていた。今寝ている子のいたずらで、気づかないうちにレースが解けてしまっていたのだ。
「あなたのその髪は、精霊に愛された印です――その上、その新緑の色は、王家の縁者とお見受けいたします」
そんなわけはない、私は異国の生まれだというと、だから知らなかったのですね、と言われた。二色の髪色は精霊に愛された印。それはこの国の常識で、誰でも知っています。私の家にも理を記した書があるわ。信用ならなければ王立の図書館を利用ください。ご自身のことです、――お調べください、納得がいくまで。そしてもし庇護が必要なら、力になります。稀有な加護の証です。精霊の愛し子の印ですもの、と。
調べて気づいた。父方にひとり、降嫁したこちらの皇族がいた。王室の美術館に、肖像画があり、それをみた瞬間に悟った。
祖母だ。私とよく似た奥二重の目。父と同じ瞳の色。似ているけれど気品のある顔立ちのその人の肖像は、少女の頃のものだったからこそ余計に私との血のつながりを確信させた。
祖父の妻は、体が弱くお父様を産んですぐ儚くなった。当時の王室はそれに怒り、交流をやめた。なぜなら祖父が、すぐ妻を引き入れたから。
私はずっと、私が見ていた祖母が、お父様の母だと思っていた。髪の色が一緒だったし、ずっとお父様を気にかけていたし、一緒にいるときの様子は、とても義理の親子であるようには見えなかった。
でも、違った。
当時のことはこちらの新聞にちゃんと書かれていた。もしかしたら、あの国でも調べればわかったかもしれない。私はこういう場所に出入りできる状況じゃなかったから――思いつきもしなかった。混乱して、手当たり次第本を読んだ。修道院の時にちょっとしたイタズラの罰で書庫の古書百冊の書き写しをやって以来、本は見るのも嫌だった。でも、絵は綺麗だったとか、この一小節が素敵だったとか、挿絵の妖精が可愛かったとかを少しずつ思い出した。そうなるとそれら全てが服につながった。このこと以外にも、図書館や美術館で庶民が入れる場所には、思いもかけないアイデアが溢れていた。感情と混乱がごちゃ混ぜになった私は、アイデアを書いて描いて、服を作って作ってつくりまくった。服は私を裏切らず、子どもたちがそれを着ると混乱よりも何よりもよく知った幸せで満ちた。そうすると、訳のわからない感情は小さくなって、その後分解されてわかる言葉になって目覚めと共に口からほとばしった。
「よくもやってくれたわね!」
小さい自室に、反響する。今回もまた声が大きかったので、隣の女の子に怒られてしまった。なんか最近よく怒られちゃうなあ。ごめんね。




