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頬に傷ある私の望まぬ回帰  作者: うるいあ


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頬に傷もつ私の一生 13

時折私が子どもを見る目が怪しかったのか、店主が私に子ども服を作る気がないか尋ねてきたのだ。いちもにもなく頷いた。昔から絵本に出てきた登場人物をモチーフにしたり、近所の子どもに似合う服や、お母さんやお父さんんとお揃いでこの模様をつけたり、動きやすい服はどうかな、と提案した。子どもの頃、人形のようにドレスを着た経験も役に立った、というか妄想と着想の原動力はそこだったと思う。あと美しい弟と、かわいい弟と、とってもかわいい妹。理想の家族と、憧れの兄弟たち。私の愛したい欲が、服となって妄想を具現化したのだと思う。

ちくちく布に針を刺す時、つたなく魔法を込めるとき、色を選ぶとき、組み合わせを考えて、提案して、修正をするとき。いろいろな家族のその表情をみて、嬉しく思う時、私はそのことごとくに、私が求めていた家族の面影をみた。面影と言っても、自分が参加せず垣間見ていた人たちのものだから、どちらかというと願望にちかい。自分の気持ちを伝えて、受け入れてくれるという願望。望むままに感謝と、笑顔と、たくさんの評価、それに伴う賃金みかえりと期待を繰り返し、不足を言って、それに応えたり、妥協案を探す過程。突然の賞賛や唐突なプレゼントにあらわされる純粋な好意。それを仕事で、誰も自分を、自分の生まれ育ちを知らないところで一年以上も味わうことによって、私の気持ちは溶けた。

なくなりはしないけれど、私のもとの家族が遠くなった。そして自分の中のあの頃の自分が、同じように眠っていくような感覚をおぼえた。


そうか、眠るのか。そう思うと、肩の力が抜けて、飛び出すように服のアイデアが浮かんだ。

綺麗な子にはよりいっそう素敵な服を、――それ以外の、ちょっとコンプレックスがあるような子にも、それを補ったり、チャームポイントになるような服を作るようになった。

だから、仕事が楽しくて楽しくて、私の中の凝りが溶けていくのが嬉しくて、少し寂しくて不安になって、不安を覆うために動くと楽しくて、ちょっと働き過ぎてしまった。

そうして、また数ヶ月が過ぎて。

私の服が少し裕福な、もうすぐ貴族になる子どもの親の目に止まった。部屋の中だけは自由にさせたいというその言葉に、軽く、手触りの良い、弾力性があって怪我を防いでくれるけれど、ぱっと見には優雅な服を作ると、遊びに来ていた別の貴族の子が羨ましがり、ちょっとした流行ができてしまった。私は子どもにはとてもとても甘い。それを知っている店主が、ブランドを作ろうと言ってくれた。隠れ蓑に店主とその親戚の同じお針子の子がなってくれて、原案を私、改善案を3人でとしたら、それはとてもうまく回って、お金だってちゃんと入って、すごくすごく嬉しくて忙しい日々が続いた。看板にはお針子の子がなってくれた。故郷にちょっとした過去を置いてきたから、目立ちたくないとちゃんと説明した。

この時も、私は逃げることを考えていた。でも同時に多分大丈夫だとも思っていた。後もう少しで、末の弟が成人するからだった。そうしたら、私を追う理由はなくなるだろう。一番目の弟は婚外子か妾の子とされたかもしれないが、二番目の子は違うから。家を継ぐ実子がいて、行方不明の姉を――国外に出て帰らぬだろう姉を、探す理由はない。

そしてその年になって、外国の内情が載った新聞に弟のことと妹のことが掲載されているのを見つけると、その日に飲んだことのない少し上等なワインを初めて買った。もちろん家で、外で買ってきた肉を煮込んだやつと、二切れのケーキでお祝いした。おめでとう! 私があまりにはしゃぐものだから、隣の部屋にいる同じ店のお針子の女の子がうるさい! って怒ってしまった。ごめんね、言いながら笑ったのを、また怒られた。どうやら笑い上戸みたい。いい思い出だけが浮かんで、私はふわふわした世界で笑った。

小さな部屋だけど、足りないものはない世界で、少しだけの贅沢と初めてのお酒を飲んで、私はとても嬉しかった。


そして、決意した。

私は、手紙をしたためた。

実家宛に。まだ生きている――祖父に。

貴族は長生きだな、と思う。



もう私がこの一族とは関わりないこと、父がそれを認めていないかもしれないこと、でも私は受け入れていること。それとこれとは別に、お母様が私のお母様であり、祖父の息子である父が、私のお父様であること。私の髪をひとふさ切り、人を介して送った。黒から新緑の色のグラデーション。短くても長くても比率は同じ不思議な私の髪。

私のお父様は、ちゃんと血縁上もお父様だった。私は知ってる。

そして確信を得た――この国で。


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