頬に傷もつ私の一生 11
翌日勤めていた店に事情を話すと、じゃあ私の知り合いがその国で商売をしているから、と紹介状を渡してくれた。もったいなくてもったいなくて、顔が真っ赤になるくらい泣いた。横で事情を一緒に聞いてくれた職場の女の子も泣いて、怒ってくれた。でも相手は貴族だし、私はクビのかたちだ。すぐに出ていかなきゃいけない。店の主人とその家族、同じ仕事をしていた女の子に頭を下げる。私は貴族の方に睨まれたので、行方は知らないと言ってください。できれば誰がきても、口は開いてほしくありませんが、それでもあなたの身が危険に晒されるのなら、私のことを教えてください。脅された、世話してやったのに恩も返さず消えた、そう言ってもらって構いません。
もうここには、戻ってこないから、この国から出ていくから、別にどう言われても平気だと思った。元々、色んな場所で、いた場所いた場所でよく言われていたことだし、いいと思った。お店のことは不安だったが、ことが公にならなくても。私の正体に行き着けば何もできないだろうと踏んだ。――お父様側お母様側、お互いに。
店の主人は怒って、私に怒りながら抱きしめてくれた。そう、いつだってそう。私を渋々見守ってくれた人たちはいつも最後には私を許してくれる。見逃してくれる。私はだから、したいことを選んで生きてこられた。
なんて、私は運がいい。
あんな変なところで育ったのに、不思議と生きてる。
笑う私に、店の主人に代わって夫人が抱きしめた。頭をなでてくれる。お金は? 大丈夫なの? お金なんてなんとかなります、ならなきゃ道行のどこかで働くわと答えた。
部屋を明け渡して、ものを売った時に、大家のおばさんが最近あんたを訪ねてきた人がいたよって警告してくれた。顔をあまり見せないようにしていたけれど、特徴からして前の町の、お父様の雇った監視役の男の子だった。わかりやすい美形だったのだ。そう、私は美形に弱い。父や弟たち、男の子は美形だった。そして本人にその自覚があまりないようだった。そういうのがツボなんだと思う。こういうところ、お母様と似ていてなんだかな、と思う。
あの男の子の紹介だとはいえ、辞めたことが都合よくわかるなんてあり得ない。追手だ。私の身分はどうなっているのか。私にどうなって欲しいのか。平民にしてもらえたと思ったのに、それすらも与えられないくらい、私ってダメな子だったのかな。
お父様の、子どもだと思うのだけれど。
お母様の子どもなんだけどな。




