そして僕は勇者として凱旋する
意識を失った俺が目覚めたのはあれから丸一日過ぎた頃だった。
トゥーリアの話では、街の外で待機していたマノとコンタの二人と合流して即座に黒の国を離れ、今は赤の国の領土内へと入った辺りだそうだ。このまま領土内をぎりぎり移動しつつ、黄の国との境にある港町に移動させた船で白の国へと向かう予定だそうだ。
それを聞いた俺は問題ないと返しつつ、いまだ重く感じる自身の身体を馬車に横たわらせて休む事にした。
トゥーリアはそんな俺を気遣ってか特に声をかけることもせず、仕事を黙々とこなしている。
俺も、時折に身体を起こして外へ目を向ければ、流れる風景の中にどこか見知った景色が映り込み、その国々で起きた出来事が頭をよぎる。
幾日が過ぎ、俺の身体の気怠さも抜けた頃、懐かしい帆船が見えてきた。
馬車ごと船内へと入って馬車から降りた俺たちへ、一斉にお帰りなさいと声をかけられ、俺はようやく実感した。
俺の旅は終わったのか。
下準備を手際良く終えれば天候も荒れることなく船は進み、白の国が近づくにつれて雲が広がってきた。領海内に入れば肌寒さを感じるし、空からは雨ではなく粉のような雪が降ってくる。
帰ってきたという郷愁の念が湧き上がってくると共に、俺の気が急く。
ようやく白の国にある港街に着いたとき、誰よりも先に降りてしまった。それを船員たちに微笑ましく見られた時には恥ずかしさも込み上げたが、久々の本国到着なのだ。仕方ないと思って欲しい。
本国まではまだ距離があり、国へと向かうのはいつもの四人とした。馬車は寒冷地用の物を再度用意し、コンタの趣味で商売用として偽装――城の中へ入るのは俺とトゥーリアだけだから、ここまでの経費を回収する為に適当な商売をしておきたいらしい。いつもながらまめな事だ――しながら、ゆっくりと本国へと向かう事となった。
数日の旅は、珍しく俺が案内をしつつ移動することとなった。馬には乗れるし、馬車の扱いは騎士見習いの時には覚えているし、白の国には概ね仕事で赴いてはいる。流石に何が売れるかなんて知らないが、どんな街か特徴を言えばなんとなくわかるそうだ。そういう才能は羨ましいと思いつつ、俺たちの旅は静かに進んでいく。
本来の道程より数日遅れて、俺たちは白の国に着いた。
そろそろ季節は春を過ぎて夏の盛りに入った頃だが、白の国は他国と比べて気温はさほど上がらない。それでも薄手の服を着て街を歩く人たちを見ると懐かしさを覚えるし、巡回している騎士を見かけると巡回中の思い出――ちょっとした軽食をもらったり、支障が出ないくらいのおしゃべりがあったり――が浮かんでくる。
「宿はどうする? 城に行く俺とトゥーリアはおそらく部屋が用意されると思うが」
「どっかオススメあります? 出来れば騎士用じゃないといいっすが」
それなら、と商人達が良く使う大きな宿を教えた。馬車も預かってもらえるし、商業用個室も用意されている宿だ。
「高そうっすねえ」
コンタに苦笑いされたが、そこは俺を使えばいいと伝えた。俺の鋼騎士としての特権があり、費用の半額は国が持
ってくれる。
「いやあ、目立ちません? 騎士様を全面に出すと?」
「その宿に泊まった事はないが、下の食事処は使ってる。店主とは顔馴染みでもあるから、そう目立つ事はないだろう」
コンタとマノの事情もあるだろうし別の宿もあるからとは話したが、結局はそこに決めた。
『狼の毛皮』という名のその宿に顔を出すと、俺の姿を見た店主がまず大きく目を見開き、そしてカウンターから出てきて俺の肩を掴むと引き寄せて頭を撫でてきた。
「良く無事に戻ってきたな!」
「俺もそう思う」
そんなやりとりをしつつ、飯は食べていけない分をこの二人に頼むと宿を頼むと快く引き受けてくれた。
三人に見送られながら俺とトゥーリアは城へと向かう。
涼やかな風が二人の間を流れ、街の喧騒も過ぎてゆく中、俺たちは何一つ口にせず、寄り道もなく粛々と歩を進めた。
やがて、俺の目には見慣れた城が現れた。
城門を守る門兵が俺を見るなり敬礼し、城内へと急いで駆けていく。
そんな様子をもう一人が笑って眺めつつ、俺におかえりと一言くれた。
俺は一つ頷いて返すと、トゥーリアを連れて城へと足を踏み入れた。




