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【前編】竜に見出された僕は竜退治に出かけ~そして俺は殺戮者になる【完結】  作者: 葛原一助
第4話  黒の国

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黒の討伐、旅の終わり(2)

 戦いは俺たちが有利と言えた。

 身体を得ての戦いに慣れていないニグレオスの動きはどこか辿々しく、おおよそは尻尾で殴る、爪で殴る、闇色のブレスを吐くの三つだけだ。

 攻撃は単調な上、動きはそれほど早くはなく、加速(アクセル)の力だけで対処出来た。


赤竜(アルタ)との戦いを得たのか」

 身体を動かしながら、ぼそりと呟いた言葉に俺の視線が微かに反応する。


「何故それを?」

「サングがそれなりに情勢を伝えてくれるのでな。そこからの推測だ」

 あの吸血鬼はかなりの仕事人なのだろう。他で会ったのは黄の国だけだが、諜報役はそれなりに放って集めているという事なんだろう。

 それは今後でありがたい話になるかもしれない。

 そう思いつつ、俺はニグレオスの外装骨格(エクステリオッサ)を斬りつける。

 動きは鈍い故に身体を攻撃するのは簡単だが、思った以上に外装の強化が高い。こちらもニグレオスの力の一部を取り込んで強化をしていてこれなら、まともに戦えたとしても傷を付けるのは容易ではないかも知れなかった。


「しかしお前達は不便だな。このような殻を用意しなければ我と戦えぬのか」

「今のお前も変わらないだろう! 力を殻としてお前の意思を乗せて動いているんだからな!」

 アルタ様は自身の姿を固定しているから斬りつけられた。しかしニグレオスが身体を分解している以上、固定化する手段が必要になる。

 これはその為の手段に過ぎない。


「そういう考え方もあるか」

 無造作に振られた爪が俺の身体を掠めた。

 話に気を取られていたわけではない。

 現に加速術式はきちんと発動しているし、ニグレオスの攻撃速度に変化はない。


「おっと」

 だが、ニグレオスへ攻撃する俺の一撃を身体を地面から浮かせたような軽い動きで後ろへ避けたり、あるいはその爪で防がれるようになってきた。

 ニグレオスの《エクステリオッサ》はあくまで外装として中身を封じる事にだけ特化させていて、それ以外の術式は組み込まれていない。もちろん、自分がそう望むように動くのは向こうには簡単だが、それでも慣れるのが早すぎる。


「なるほど――これでどうだ」

 ニグレオスから何か圧のようなものが放たれ、間近にいた俺の動きが一気に遅くなる。


「!?」

 加速術式は発動しているのに、まるで足腰の弱った老人よりもぎこちないところまで動きを鈍くされる。

 疑問はあれど、解答を見つける前に切れ味を上乗せしたとみられる黒い爪が俺の眼前に迫る。

 跳躍(リリップ)を剣に使って勢いよく押され、どうにか距離を取った。

 剣に視線を送れば、先の一撃で術式槽ごと大きく切り裂かれて使い物にならない。

 そして、距離を取ったこの位置では加速した世界の動きを取り戻していた。 


「ようやく慣れてきたぞ」

 足の爪が伸び、吼えた口から追尾式になったブレスが俺を狙う。剣を投げつけて打ち消したが、武器はこれで失ってしまった。


「ラストー!」

 後方で牽制に徹していたトゥーリアが俺へ銃弾を放つ。それを反射的に右手で受け止めると術式回路から力が溢れて止まらない。


「熱よ、光よ! 全てを原初へと戻す力よ! 集え!集え! 我が望むは御身の一部! 純然たる力の刃(プーラ・ポテンシア)よ!」

 手首から先が術式の素材として失われ、力を圧縮した剣が固定化される。

 前よりも輝きは強いのに熱を感じないのは余剰な力がもたらす障壁の恩恵だろう。


「決めな!」

 背中を押すトゥーリアの言葉に、俺は準備していた最後の術式を解放する。


光 と 成 れ(セレリタスルーチス)!」

 障壁が消え、各所の宝石が砕け、《エクステリオッサ》が光の粒子になる。

 それは原理で言えばニグレオスと変わらない、意志を持つ力の塊だ。

 考える速度で俺の身体はニグレオスに迫り、向こうの見開いた表情を目の先にしながら手の剣を振るい、その身体をとことん切り刻んだ。

 祓われた闇の中から、鎧核(アルミスヌクレイ)が姿を見せる。

 銃弾ほどの大きさだったそれから俺の頭ほどにまで成長したそれを、最後の一太刀で斬り伏せる。


「おお」

 首だけになり、斬られた勢いで宙を舞いながらもニグレオスは言葉を発す。


「見事だな。しかしこれで儂が倒れると――」

「――それだっ!」

 俺の視界に《アルミスヌクレイ》とは別の力を捉え、術式の残滓による加速を利用して一思いに突き刺した。

 ぬるりと、肉を裂く様な感触が腕に伝わる。


「なるほど。仮の核から離れた瞬間を狙ったか」

 一つため息が溢れる。

 ニグレオスの口元から、赤いものが流れた。


「見事だ。白の勇者よ」

 賛辞とともにそれから血がとめどなく溢れ、元の姿を取り戻した俺の《エクステリオッサ》が赤く染め上げられる。

 全身から白い煙を吹き上げながらも、俺は姿勢を保ったまま周囲の状況を窺う。

 黒い闇も薄れ、俺たちの影も光源に従い、声もなく、気配も失せた。

 剣の方の術式維持も辛くなり、ついに解除したところで、俺はようやく構えを解いた。


「やったじゃないかラストー!」

 トゥーリアのベスティアークアが俺を抱きしめる。

 俺は棒立ちのまま、されるがままに行為を受け止めた。


「アタシらやり遂げたんだよ!」

「そう、か?」

 いまだに自分が竜を殺した事に実感が沸かない。

 トゥーリアが離れた事で見られるようになった血で赤く濡れた自分の身体を見ても、術式で無くした右手を見ても、どうにも信じられなかった。

 しかし、俺たちの目の前からは――死体やそれに類するものはどこにもなかったが、それまであった気配は無くなっている事から――死んでいた。 


「……竜は、永遠の生き物じゃないんだな……」

「『原初』の話かい?」

 御伽話とはいえ流石に知っているようで、声にどこか懐かしさが滲んでいた。そうでなくとも、原初の竜を奉る宗教も存在するんだ。知らない方がおかしいかも知れない。


「竜の死を見た、あるいは看取った人間ってのはいないからねぇ。本当に永遠に生きるのかどうかなんて、誰も知らないさね」

 物語では語られてない以上、それはその通りかも知れない。

 そんな俺の様子にやれやれと呆れつつ、壊れた長銃を肩に担ぎ、トゥーリアは首を出口へと向けた。


「ラストー」

「ああ」

 身体がどこもかしこも重い。

 それでも俺は、一歩前に踏み出した。


「帰るぞ」

 しかし二歩、三歩と歩みを進めて行くうちに膝が折れ、支える事も出来ずに身体が倒れた。


「術式を使い過ぎた反動さね。アタシが持つから解除しなよ」

 トゥーリアの言葉に素直に従って術式を解いた。胸の基礎模型(オルナメンタ)の痛みを感じることもなく、右腕がないのにその痛みもない。出血は止まっていたが感覚はない。帰る間に腕を再生してもらおう。


「すまん。任せた」

 そろそろ起きているのすら辛くなってきた。

 それでもベスティアークアの手が抱えやすいように身体を起こすまではどうにかやれた。


「ゆっくり休みな。アンタは偉大な事を成し遂げたんだから」

 俺の指よりも繊細さを滲ませるその手が、歩きながら俺を休ませようと身体を撫でてくれた。


「……かもな……」

 ありがとう。

 その言葉を口に出せたかどうかわからない。

 また後で伝えればいいかも知れないと思いつつ、俺は穏やかに意識を閉じた。

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