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【前編】竜に見出された僕は竜退治に出かけ~そして俺は殺戮者になる【完結】  作者: 葛原一助
第3話  赤の国

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旅立ちの朝。拝謁の虚しさ(3)

 俺は加速術式を起動して速度を上げ、アルタ様の振りかぶった爪の一撃をかわしてそのまま突きを入れる。金属同士の固い音を周囲に甲高く鳴らしながら、俺はその横を潜り抜けた。 


「やはりこのままでは傷つかないか!」

 腕に軽い痺れがあるほどに硬く、腕を振って感覚を戻すと、俺の方に首を回してアルタ様が口を開く。


「何故、外装骨格(エクステリオッサ)を使わねばいかんかわかるか?」

「それは大型種の魔物と戦う為だったり、巨体を生かした作業をする為だろう?」

「違う!」

 気合の入った一喝と共に口から炎のブレスが吐き出された。拡散性の高い炎を斬って道を作って潜り抜けて避ける。


「お前達からすればそうだろうが、我々には違うのだよ!」

 前足で地面を殴りつけると亀裂が俺とトゥーリアへ向かい、足元から溶岩が生まれて俺たちを飲み込もうとする。俺は加速の勢いで避け、トゥーリアは後ろに下がって短銃で溶岩を撃ち抜き、そこから熱が抜けたように固まって追撃を逃れる。


「お前達のそれは、我々と戦う為にある(・・・・・・・・・)のだ!」

 その言葉は、俺には衝撃的だった。

 竜というのは、俺たち人間を見守り、時には力を貸してくれる、いわば守護するモノ。

 俺たち人間は、そんな彼らを崇め奉り、自分たちの力が及ばない事態に対して力を希う弱きモノ。


「……そんな馬鹿な! これは我々の生活を良くする為のもので――」

「――それは《エクステリオッサ》の一面であり、本質ではない!」

 俺の否定を一喝し、背中にある翼を数度はためかせただけで風が大きく吹き荒れ、気が削がれた俺のアレクエスが飛ばされそうになる。幸い、足場の位置は把握していたから、足元の術式を一時的に解除して膝を付き、地面に身体を固定するようにして動きを抑えた。


「我は楽しみだぞ! 貴様が我を殺しに来るのが!」

「そんな気はさらさらない!」

 お国柄と言ってしまえばそれまでだが、随分と好戦的だ。

 そんなやる気に満ち満ちた姿勢のアルタ様に、ただ黙っているわけにもいかない。風の勢いが落ち着くなり前に体勢を立て直して斬りかかるが、術式による強化を施してもやはり弾かれる。


「その程度ではかすり傷にすらならん! 我を傷つけたいなら手段を講じよ!」

 炎を纏った爪による大振りの一撃を大きく飛び退けた先で、アルタ様と視線が重なる。


「考える時間は容易く与えてはやらんがなあ!」

 大きく息が吸われ、そこだけは全身の赤さとは違って淡く白に近い色合いの腹が大きく膨れた。


「ブレスが来るさね!」

 口をすぼめているのは放射状ではなく直線上に放つため。高圧力で放たれた熱線は、しかし俺の後方から放たれた一撃と相打ちになった。

 後ろを見ずとも、トゥーリアが撃ち落としたものだ。後ろから排莢する音が聞こえてきた。


「術式対処は流石に連発出来ないよ!」

 水のほとんどないこの場所では、トゥーリアの術式はそこまで強大な力にはならない。それでも一撃を受け止めてくれたのは有り難い。


「助かった! だが無理はするな!」

 術式槽に指を這わし、全身に施されている術式を強化する事で鎧の表面が淡く光る。


「熱保護だけでも良い! あとは――速度(これ)でどうにかする!」

 再び放たれた熱線を術式強化した剣速で斬り払いながら、アルタ様へと瞬時に辿り着く。

 加速で勢いのついたままに振り下ろす剣。


「剣圧だけで乗り切るのは良し! だが!」

 あれだけの巨体が、俺と遜色ない速度で瞬時に後ろへ下がってかわしてしまった。


「くっ!」

「巨体だからといって、動きが遅いとは思わない事だ!」

 裂帛の気合と共に初速の乗った一歩が、俺に突撃してきた。


「うわあああああああああっ!?」

 大胆な体当たりに動転してしまい、それでも反射的に剣で防いだが、衝撃で大きく吹き飛ばされる。


「ラストー!?」

「仲間の身だけを案じていてはいかんぞ!?」

 大きな身をかがめ、再び体当たりを敢行するアルク様。


「ちいっ!」

 俺とは違ってある程度の距離があるトゥーリアは、膝立ちから軽く跳んで身体を浮かせつつ、衝撃系の砲撃を撃って自らの位置をずらす事で避けた。


「砲撃で逸らしたか! なかなか上手いな!」

「やって来るのがわかってりゃ、この距離ならどうとでもなるさね」

 薬莢を抜き取り、次弾を準備して構えるトゥーリア。


「なら――」

 口の端を歪めると、俺とトゥーリアの目の前でその姿が消えた。


「ああんっ!?」

 荒っぽいが戸惑ったトゥーリアの声。


「くあああああっ!?」

 何もないのに、トゥーリアのベスティアークアが吹っ飛ばされた。

 その様子はさっき俺が受けた一撃と良く似ている。


「流石にあれでは防げぬだろう!?」

 ベスティアークアを足で踏みつけて姿を現すアルタ様。

 しかし、そうした理由はベスティアークアを破壊する為ではなく、吹き飛ばされて落ちそうになったのを押さえる為だろう。

 側に駆け寄ろうとするが、爪が振るわれるだけで生まれた三爪の熱線に阻まれる。


「じ、実体を元素に戻して体当たりとか……馬鹿じゃないさね」

「それはそうだろう! 《エクステリオッサ》に乗らねば自己を維持できぬ貴様らと違い、我らはただの意思ある力でしかないのだからな!」

 ベスティアークアから足をゆっくりと上げているが、立ち上がるには幅が足りない。転がって避けようとしても、その気になれば踏み潰せるような位置に維持されていた。


「貴様らにわかるような力の使い方を見せているだけで、その気になれば――!」

 アルタ様が自らの身体を白熱化している爪で切り裂くと、そこから亀裂が全身へと広がっていき、中から小さな赤き竜が無数に飛び出してきた。


「小型になった!?」

 速度はそこまででもないが、もはや竜の濁流とでもいうような数に地面にいるベスティアークアに対抗出来うる手段がない。


「トゥーリア!」

 濁流に飲み込まれたトゥーリアは、流れの勢いそのままに暴れる竜たちに(ついば)まれ、俺とは反対側の方で吐き出された。


「……くぁぁっ……」

 青空の海面を思わせる青い装甲はぼろぼろに砕かれ、隙間から光る粒子が溢れ始めていた。


「お前の力ではこれは防ぎようが無かろう!」

 このままではトゥーリアが自身の存在を保てず死んでしまう。そうでなくとも、構成する要素である粒子が減り続けることは危険な兆候だ。


「トゥーリア! まだ間に合う! 武装を解け!」

 軋んだ音を上げながら、その右腕に握られた長銃の銃口を向けようと動く。

 しかし、それは叶わなかった。

 砕かれた関節部がその重量を支えきれず折れ砕け、限界を迎えたトゥーリアの武装が解かれた。

 戻ったトゥーリアは服の各所が血に濡れていて、胴の上下で無事ではあるが、傍らに竜が集まって元の姿に戻られた。


「アルク様! 狙うなら俺だけに――」

「何を甘い事を!」

 気の込められた声に力強く地面を踏み締める音が連なり、側のトゥーリアの身体が浮き上がる。そのまま透明な膜のようなものに包まれ、アルタ様の後ろへと隠された。助けるには、どうやってもアルク様をどうにかしないといけなくなった。


「お前は仲間と共に竜殺しに挑んでいるのだろう!

 お前一人ではないのなら! 仲間を想うなら! 全てを守る戦いをするがいい!」


 アルタ様の口角に火の粉がちらちらと浮かぶ。

 構えた両の爪からも陽炎が昇る。

 地を揺るがす力強い一歩に、しかし俺は構えを解き、剣を鞘に納めた。

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― 新着の感想 ―
アルタ様との戦闘でわかったのは、ラストーたちの持っているものが、竜と戦うためのものということじゃな。仲間と共に戦うなら、全てを守ること、凄く大切なことをアルタ様は戦いながら教えてくれておるのじゃ。ラス…
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