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【前編】竜に見出された僕は竜退治に出かけ~そして俺は殺戮者になる【完結】  作者: 葛原一助
第3話  赤の国

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祭りの始まり。宴の騙り(4)

 他人の試合に興味がない俺達は会場を後にし、時間までどうするかという話になるかと思いきや、 

「アンタ、城での祝賀に出る為の礼服あんのかい?」

 とトゥーリアに聞かれ、旅に必要な物しか持っていない俺は当然、ないと答えた。


「じゃあ準備しないと!」

 明らかに楽しそうに俺を引っ張って仕立て屋に連れ込まれると、生地だ縫製だとあれこれ用意され、トゥーリアに請求された一日の酒代並の金を取られて夕方の祝賀会に間に合うよう仕立てられた服を着ることとなった。

 普段の旅装と違い白を基調とした硬めの服で、所々に金糸で刺繍が施されている。この辺は俺の外装骨格(アレクエス)を意識して見繕ってくれたのかもしれない。少し違うのは、竜に噛まれている右手を手袋で隠しているということだ。爪先まで保護された物で、保護術式を――爪に宿った力を見られると腕ごと切り落とされる可能性がある――トゥーリアが施した特注のものだ。


「うんうん、似合ってるじゃないか」

「……そう、か……?」

 頭の体毛は銀だからそれなりに目立つし、粗相しない程度には礼法を学ばされているから白でも迂闊に汚さないだろう、と言うのがトゥーリアの意見だった。


「少し派手な気もするんだが」

 着慣れないので動きにくく、卸したてで真新しい生地の無臭さ、そして白という目立つ格好にこれでいいのかと不安になるも、


「白の国の騎士代表なんだから、どこかに白を主張した方がいいさね! それに、赤の国はアンタを利用したいって思ってるなら、こっちもそれなりに利用しないと」

 そう言われてしまうと納得するしかない。


「妹さんも来るんだ。おめかししてる姿に合わせるなら、それなりの格好をした方がいいさね」

「……妹のおめかし……」

 意外とおめかししている妹の姿というのがわからない。

 服装に頓着せず――そもそも服を何着も持つという事すらない生活だったし、服を着る事にすらあまり慣れなかった生活が長かったから仕方ないのだが――着飾る事のない妹だけに、こんな公の場にどんな姿で出てくるのか想像がつかないのだ。

 ぼんやりとしている俺を、前から後ろから眺めるトゥーリアは実に楽しそうだ。


「気に入らないさね?」

「いや。そういう訳じゃない。ただ、慣れないんだ」

 すまない、と頭を下げると何故かトゥーリアに頭を撫でられた。


「まあ、一応アタシも行くさね。適当に捌いておくから、アンタは妹と話でもしてきな」

「助かる」

「モチロン、報酬は戴くさね」

 指で金を示めされたが、それは赤くなっている頬の照れ隠しなんだろう。

 それを口にする事はせず、仕立て屋の一室を借りてトゥーリアも着替えた。


「……………………」

 なんというか凄い。

 全身を雲一つない快晴を描いた青のドレスに、海の深い青を思わせる花弁の多い造花を胸元にあしらい、あらゆる色の真珠を揃えたネックレスを付けていた。いつもの海賊帽の代わりに、青の国でよく見られた南国特有の赤の花と海鳥と思われる白い羽根、そして青白赤黄と国の色を織り込んだ布を巻いた帽子を被っていた。


「どうだい?」

「……美しい、という言葉の意味は今のお前を指すんだろうな」

 素直な賛辞に、トゥーリアは得意げに笑って返した。その笑みはいつもの野性味溢れたものだけに、余計に華やかなドレスが際立った。

 仕立て屋を出て用意した自前の馬車に乗り込み、城へと向かった。


「そうそう。必要ないかもしれないけど、渡しておこうか」

 そう言ってトゥーリアが渡してきたのは、銀で作られた装飾品だった。大きさとしては指の第一関節ほどしかなく、また円柱だったが一部切り取られていて、どこかに挟んで使うものだと思えた。


「ちょっと頭を向けな?」

 言われるまま隣に移って頭を向けると、耳の先にそれが付けられた。


「少しきついかもしれないけど、我慢しな」

 そう言い、手で触れると右の耳に重みを感じてバランスが悪い。


「そいつは通話の魔術道具で、内側に術式を刻印してある。使い切りだから、使いどきは気をつけなよ?」

 対面の席に戻れば、トゥーリアも同じ物を付けていた。


「指を唾液で濡らしてカフスに触れれば、声を出さなくてもアタシと話せるようになる。ただ、話せる距離を優先したから時間も短いし使い切りだけど、その分は隠密性もあると思って割り切って欲しいさね」

「覚えておく。ありがとう」

 いざという時の備えとしては充分だろう。素直に感謝すると、何故か目を丸くして俺を見るトゥーリア。 


「今日は一段と可愛らしいわんこだねぇ。頭撫でてやろうか?」

 口元に悪い笑みを浮かべるところはいつものトゥーリアだが、俺としては本心から礼を言うしかないと思っているだけで、つまりは俺もいつも通りだ。


「一応、国の恥にならないよう作法や儀礼は身に付けたつもりだが、服や装飾というのはわからないんだ。騎士団の仲間は頓着な連中ばかりだし、俺も寒ささえ凌げれば見た目なんてどうでもよかったからな」

「アタシは女だからねぇ」

 女性だから、という理由がわからず、思わず首を傾げてしまう。


「見た目が良い方が男を釣りやすいってだけさね」

「それは男も同じじゃないのか? 俺も城に招かれる前は薄汚れていて、よく見た目を侮辱されていたが」

「そりゃ、人を惹きつける魅力としては着飾っていた方が良いからねぇ」

「だとすれば、別に女だからという理由は関係ないだろう?」

 そうなると、トゥーリアが女だからという理由がますますわからなくなる。


「……まあ、色々あるさね」

 どこか拒絶を感じさせる空気を出され、俺もそれ以降は聞けなくなってしまった。

 馬車の揺られる動きに身を委ねているうちに、いななきと共に足が止まった。

「行くか」

 外への道へ先に足をかけ、トゥーリアに声をかける。

 向き合った顔は、お互いに仕事へ赴く戦士の顔だった。

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