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【前編】竜に見出された僕は竜退治に出かけ~そして俺は殺戮者になる【完結】  作者: 葛原一助
第2話  黄の国

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トゥーリアと戦場へと至る道筋に(1)

 穏やかで涼しげな風が顔を撫でる感触がある。

 続いて感じるのは耳朶を打つ、やや低音の男の声。

 重たい瞼を開けると、見下ろすように立っている温和そうな表情に似合ってない無精髭をさすっているフーマンがいた。


「おはよう。充分眠れたか?」

 まだぼんやりとしている俺に笑いかけながら、傍らに腰を下ろしてくる。

 フーマンから漂う匂いに勝手に鼻がひくつく。パンや肉の匂いからすると、食事でも済ませてきたのだろうか。


「……随分と早いな?」

「もうそこそこに陽は登ったぞ?」

 あれから大した時間は経っていないと思っていたが、現実は違ったようだ。

 だるい身体を起こして外に出ると、確かに陽射しがこの地に差し込む程の位置に太陽があった。

 状況を察した俺に対し、悟ったような表情でフーマンが笑いかける。

 どうやら、見張りやら何やら全てを任せてしまっていたようだ。


「……すまなかった」

「気にするな。朝食の残りがあるが、食うか?」

「有り難い」

 フーマンが一度奥に引っ込んで持ってきたのは、燻製した動物の肉と、表面を焼いたパン。あとはキノコを脂で炒めて具にしたスープだった。

 質素というか簡素だが空腹は最高の調味料で、多少濃いめに味付けされていても疲れた身体にはちょうどよかった。出来るだけ肉は長く噛み、しっかりと腹を満たしてスープで流し込み、一息ついたところでフーマンが声をかけてきた。


「お前はこれからどうするんだ?」

「まずは、無くした剣を探す」

「剣? そんなに大切な物なのか?」

「俺用に調整された術式補助の入った剣で、外装骨格(エクステリオッサ)にも対応している特注の物だ。金で買える物でもなければ、簡単に作り直せる物でもない。いずれにしろ、変異した《エクステリオッサ》を相手にするのに武器は必要だ」

 無手で戦えない事もないが、破損した部位の完全修復が出来ない以上、無用な避けたい。 


「フーマン達はどうするんだ?」

「加勢したいところだが、流石に子供を放っては行けん。だが、城に行く時は教えてくれ。案内役と露払いくらいは出来る」

 予想していた通りの答えに、俺は頷いて返した。


「ありがとう。上にいる仲間と状況を改善したら迎えに来よう」

 腹も満たされて身体のだるさも取れたところで俺はフーマンに別れを告げて、あてもなく風に押されるように歩き出した。

 行き先は関係ない。術式で剣を探す為だが、万が一にも敵に反応されてしまえば俺はともかくフーマン達が危険に曝される。国が乗っ取られているなら、彼らの力が必要になる以上、危険は最小限に抑えておくべきだろう。

 適当に百を数えたところで振り返り、歩いた距離を把握して足を止めた。


「これくらいでいいか」

 それなりに距離を取れ、空を見上げれば太陽の見える位置にいる事を確認すると、懐から基礎模型(オルナメンタ)を取り出した。

 右腕のパーツを外し、右手の平の上に置いて使う術式を思い浮かべる。


「天に(おわ)す目よ。失われし我が身をこの下に導け。求る名は『古き力の礎』。導きしは『竜の(かいな)』」

 術式に反応し、手の平の上にあったパーツが宙に浮かび上がる。


「――導きの手よ(デュクトゥス・マヌス)

 パーツに光が集まると、しばらくくるくると回転した後、歩くような速度で宙を進んでいく――と同時に俺は全力でパーツから離れた。

 ひとりでに進んでいくそれを見失わないよう気にしつつも、空を見上げて襲撃がないかどうか構えた。


「……向こうの反応はないな」

 こうなると、やはり襲撃を受ける可能性があるのは大型の術式だけ、という事なんだろう。

 変異化した生物は術式などの力に反応しやすいという特徴がある。故にこういう広域探査系の術式にも反応するかと思ったが、どうやらあの《エクステリオッサ》は違うらしい。

 あるいは、何者かに指示を受けて特定の術式にだけ反応するようになっているのか。

 いずれにしろ一つの答えを得たところで、俺は漂うパーツの後を追って歩き始めた。

 元来た道を戻り、俺が倒れた場所をさらに過ぎ、暖かな日差しに翳りが見え始めたところでパーツが進行方向を上に向けた。視線をむければ、柄頭に埋め込まれた青色の宝石に光が辺り、うっすらと周囲を青く染めていた。


「……こんなところにあったか……」

 さして長い間離れていたわけではなかったが、目の前に現れると安堵のため息が自然と溢れた。

 落ちるきっかけになった方とは別の崖の上にあり、登るのは一手間必要になりそうだ。俺は跳躍(リープ)を唱えて脚力以上に地面を跳ねると、幾度か崖に手をかけながら跳び上がっていく。


「よっ、と」

 崖の上に上がり、足場が崩れないよう慎重に足を乗せて剣を手に取る。

 刀身に目立った傷がない事を確かめ、剣を腰元の鞘に納める。ようやく戻ってきた重さに、思わず顔が綻んだ。


「これで後は向こうに無事を伝えるだけだな」

 まだ空は明るいし全体的に白く彩られた世界の白の国ではないが、向こうに届くだろう。


「――彩る光源カラーリング・ラックス

 手元から光の玉が放たれ、鮮やかな青の中に浮かぶ白い雲がある晴天の中、緑色の光が花となって散る。これでトゥーリアには伝わっただろう。

 しかし、向こうの状況がわからない以上は、急いで戻れるなら戻った方がいい。こちらの崖と向こうの壁面との距離を目で測りつつ、使える術式で行けるかどうかを考える。


 トゥーリア達は今、どうしているのか……。

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