表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺色の想い箱  作者: 春木屋 翔
3/3

~ 特錬最樹手 ~

ガウディ「ご馳走様、とても美味しかったよ」


食事を終えると少女はまた手馴れた手つきで

速やかに木の食器とスプーンを重ねて運び出す

老人が一息つく間に本日最後の家事仕事を

容易くやり遂げた。


レイア 「今日..寒いね」


祖父の口から実の母親の話を初めて耳にして

彼女は言葉とは似つかず寒さを忘れている。


物心ついた頃から祖父と2人でこの大自然に

囲まれた時計の秒針の織り成す微かな静音で

さえも必要の無い広く狭い世界で息を吐き

続けてきたのだ。


少女には母親の存在を言葉の解釈の中で

理解しようと試みたのだが、

それを家事のように手際よく納めるだけの

都合の良い引き出しは見つからないようだ。


ドンッドンドンッ

小部屋の入口の扉の向こう側から

聞き慣れない物騒な音が静寂の夜に響く。


刹那。


バンッ ‥‥ドサッ


横開きのはずの引扉が何故だか

小部屋の床に寝そべり返っていた。


膝下丈の黒いブーツに深緑の軍事服。

腰に拳銃を携えた長身細身の男が4人。


倒れた扉を踏み台にしながら

荒々しく小部屋に侵入してきたのだ。


少女は祖父以外の人間に遭遇する事が

生まれて初めての出来事。

目の前の事態に状況を飲み込むことが

出来ず声も出ない様子で一つだけ

理解できるとすれば両足が震え上がり

鉛のように固まっているということだ。


「ここに『 特錬最樹手 』がいると

聞いてるんだが‥お前がそうか?」


赤髪にオールバックの怖面の男が

一歩前に出ると円卓の椅子に腰掛ける

老人に視線を向けながら渋い声で問いかけた。


怯える少女とは対象的な老人は

穏やかな表情一つ変えることなく

ゆっくりと口を開いた。


ガウディ 「やれやれ扉が壊れてしまったね」


「今日の夜風は本当に寒いね‥‥」


「私はただの老人だよ」


赤髪はその返答に眉間に皺を寄せた。


赤髪 「お前がただの老人ならば

ガウディという名前に心当たりはないか?」


ガウディ 「はて、聞き覚えがないのお」


「部屋が寒いのお」


老人は何も素性を悟らせようとはしない。


赤髪の部下 「おい、ジジィふざけた態度して

んじゃねぇよ!」


「このお方はリーク・ベルガ大佐だぞ!」


リーク大佐 「やめろ、下がれ」


取り乱す部下を一言で冷静に黙らせると


リーク大佐 「扉を壊してしまってすまなかったな」


そう言い残し扉を壁に立て掛けた。

赤髪が蒼白髪の少女に目線を移した。


リーク大佐 「噂には聞いたことがあるが

絶滅した種族だったはず‥‥」


赤髪はその少女の美しい容姿に目惚れた。


リーク大佐 『 蒼白の佳人』

「お前を代わりにトレドへ

連れて行くとしよう」


そう言い放つと部下の3人が一斉に

少女の周りを囲んだ。


ガウディ 「何をするんだ!

私の宝に手を出すな!」


今までの穏やかな表情は一変して

老人は少女の前でこれまで一度も見せたこと

のない取り乱した姿を見れた。


少女は両足が固まり動くことができない。


レイア 「ガ・ウ・ディ‥」


少女が震え切った微かな声で

助けを求めるように老人に目を向けた。


リーク大佐 「やはりお前がガウディかっ!」


「この娘と老人を捕らえろ!」


赤髪はまるで罵声のような大声で

部下達に命令を言い放った。


老人はテーブルに掛けてある杖を手に取ると

杖の鞘を抜き杖は刀へと姿を変えた。


その様子をみて部下の2人は腰のベルトから

拳銃を手に取り構える。一人は少女の背後に

周り両手首を強く掴み拘束する。


リーク大佐 「殺すな、生け捕りにしろ!」


老人は両手で刀を握り拳銃に怯むことなく

刀身を振り回す。


バンッ

部下の一人が老人の太ももを撃ち抜いた。


両膝を床に着き刀身の杖を床に刺し

固まる老人。


部下の一人が刀を奪いに近寄る。


ガウディ 「娘には手出しはさせん!」


老人はまた力を振り絞り立ち上がると

近寄る部下の腹を渾身の一太刀で切り裂いた。


部下 「うわぁぁぁぁ‥あああぁ!!」


切られた部下は老人の足元に無防備に倒れた。


部下 「この老いぼれがぁぁ!!」


もう一人の部下が怒りの銃口を老人に向ける。


リーク大佐 「よせぇ!」


バンッバンッ


銃声は二発。老人の心臓付近に二発とも

命中した。


少女は拘束の抵抗を止めた。

この世の終焉を絶望した顔で眺めるように

その恐ろしい光景を目の当たりに立ち尽くす。


両足の震えはなぜか止まっていた。


老人は少女に横目で微笑みながら

薪暖炉の前に横に倒れ込んだ。




少女はこのとき『声命』を失ってしまった。




リーク大佐 「なぜ 殺したんだ‥‥」


銃口を下ろした部下は我に返り

床に腰から崩れ落ちそのまま数秒間あまり

沈黙の時間が流れた。


パキッパキパキッ (薪暖炉の音)‥‥

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ