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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ひらり、一葉

作者: オオトリ

 年老いた男が一人、己の曲がった腰を時折叩きながらも、重たい荷物を背負って南の村から北の村へと森の中を歩いている。

 年は取っていても、柔和な笑みをたたえたような人好きのする容貌の男だ。


 いつもと同じ道。木々の隙間から光と風とが心地よく届く、静かな森のはずである。

 今日も木々の隙間からはよく晴れた青空が見えているし、最近は雨が降ることもなく、風も湿っていない。


 それにも関わらず、今日はなにやら森のざわめくような不思議な空気を感じ、老人は空を見上げた。


 よくわからない不安にかられながらも、荷物を届ける予定を思うと引き返すこともできない。

 もともと通る人は少なく、めったにすれ違うこともない森だ。

 老人は自分を励ますように、小さな音で鼻唄を歌いながら歩みを進めていった。


 途中で休憩を取りながら。しかし、いつもよりも短めに。ソワソワと周りを見回しながらも、唄は止めない。

 もしも、何か獣がいるのならば、こちらの音に気づいて近付いてくれるなよと祈りながらも、唄は止められなかった。


 曲がった腰を伸ばし伸ばし。荷物を揺すりあげながら。

 鼻唄を唄いながらも足を進める。


 やっと森の真ん中辺りに差し掛かったようだ。

 真ん中の目印になる、少し拓けたような場所にたどり着いた。


 ここは、拓かれた土地というわけではなく、この森の主ともいえる葉の生い茂った巨木が数本立っているため、地面に日差しが届きにくく、他の植物が生えにくいようだ。

 もしかしたら、巨木に地面の養分も吸われているのかもしれない。


 折返し地点にたどり着いたと安堵の気持ちから、少し休もうと荷物を下ろしたところでふと気付いた。


 いつもなら、巨木に集っているはずの小鳥たちの声が一切聞こえない。


 いや、影も形も見えないのか。


 不思議な空気を思い出し、ひやりとしたものが背中を這う。


 ――――その時。



 広場の中心の最も大きな木の陰から、ひらり…と影が現れた。



 獣か…!と小さく息を呑んだが、瞬時に人間の形だと判断する。

 続いて、武器を構えるような様子も無い事も見て取り、すぐに息を緩めた。


 人がいたから、小鳥もいなかったのか…と緊張から解放された気安さで人影に声をかけようと近付いてしまった。


 近付いてから気付く。



 あれ?


 足元に巨木から出た蔦が絡んでいる? 


 ――――違う。


 巨木に絡んだ蔦からこのヒト型が出ている。




 気付いた時にはもう遅かった。


 老人にヒト型が絡みつく。


 ――――ああ。木の影で暗くてわからなかった――――これは全体が緑色のヒト型だ…。


 老人がそう考える頃には、どうやってか緑色のヒト型は老人のしわくちゃの首筋にぞぷりと刺した管から、ずるりずるりと老人の中身を吸い出していた。



 どれ程経っただろう。

 森の中心の広場の巨木には小鳥が戻り、巨木に絡んだ蔦もカラリと乾いて地面に萎れ落ちている。


 その頃、森の北側では大きな荷物を背負って鼻唄を唄いながらゆったりと歩く、柔和な顔の若い男が目撃されている。


 その男は、北の村に立ち寄ることなく、更に北の森へと続く大きな道を鼻唄まじりに歩んでいったそうだ…。



 今ひと度。森の中心の巨木の下に戻ってみると―――――



 そこには、まるでヒト型の枯れ木のようなモノが横たわっている。

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