未熟
きっと、この世はなんでもない事で出来ている。
その何にもない事が幸せなんて事誰が思うのだろう。
だって。思ったのはずっと後の事だから。
古いだけが取り柄な町。山と川に囲まれた閉塞感漂う町。
長閑だと人は言うがそれは、その人がここに住んでいないからだ。
ただの田舎だ。発展すわけでない。寂れていくだけ
ここの若者はやりたいことなど何一つない。ただ生きているだけこの町と同じで生きていない。生きながら死んでいる。どこか息苦しいのだ。
それは、粒屋環も同じことであった。この何も無い町に住む若者の1人だ。
夢など小さい時に何何になりたい!と語ったきり。
今や自分がなんなのか、何になりたいのかすらわからず今にいたっている。もう高校3年になる。進路など考えていない。ただ、先生にここにいけと言われた大学に行きそのまま何となく勉強して、遊んで、バイトをして何となくで決めた会社に就職してそのまま何となく付き合った人と結婚し、子供を作る
何となくの世界で何となく生きていく。なんとつまらない人生なのだろうか…でもそんな生き方しか知らないのだ。
「おい、粒屋」
ガヤガヤとうるさい教室で名前を呼ばれた。耳に付けていたヘッドホンを取る
「はい?」
「はい?じゃない。お前だけだぞ進路表出てないのはどうするんだ?」
どうすると言われても他のヤツらはこれからの生き方をもう決めてしまったのだろうか。
どうせ、成り行きなのだろう。その成り行きすら決めかねている自分はなんなのだろうか。
「まぁ…ぼちぼち決めます」
「ぼちぼちってなぁ…もう5月だぞ」
もう5月。外は青々と茂った緑が風に吹かれて揺れる。
「悩むのもいい。一生に1度のことだ。やりたいことを全力でできるのは今しかない。が、期限は守るように」
担任の高橋だ。学年が変わり担任が変わった。
40代の高身長の男性だ。落ち着いた雰囲気と物腰の柔らかさから生徒に人気であった。
「気をつけます」
少し、かすれて声が出た。
高橋は満足したのか少し笑い席から離れた
風に乗って栗の花の匂いがした。
―
放課後、環は進路を決めるために生徒相談室に来ていた。資料でも読めば少しは、道も決まるだろうと高橋に言われたのだ。
内心めんどくさくて仕方なかった。
どうせ、なりたいものなどない。
何変哲ない生活が出来ればそれだけで。
その何不自由のない生活がどれほどかけがえが無く、そして普通がどれほど難しいものかなんて学生が分かるはずもないのだ。
「職業体験?」
高校になると就職なども視野に入れこの先の真っ暗な道を探していかなくてはならない。
「警官に、自衛隊」
…はっきり言って無理だ。自衛隊や、警察官になれるだけの気合と根性があるならこんなあやふやな事でうじうじと悩んだりしない。
「はぁ…帰ろ」
イヤホンをつけ、鞄を肩にかけた。
帰り道に大きな川がある。そこにいつも寄る。
環はこの川が好きだ。透明に透き通り流れるこの美しい水が好きだった。
夏になると足だけ川の水に浸ける。それこそ昔はこの川で水遊びをしたものだ。それくらい昔からこの川が好きだった。
よく、祖母に言われた。お盆の時は川には入ってはいけない。
なんでだっけ…?
ぼんやりと記憶を手繰り寄せる。が思い出すことが出来なかった。
そろそろ日も暮れてきた。
5月と言っても朝夕はまだまだ肌寒い。
ちょっと薄着だったと後悔した。
ゆっくりと、川岸の階段を上り、橋の上を歩いていた。