婚活2
「結麻ちゃん、婚活始めたんだって?
私も、絶賛婚活中なんだ~~!
今度さ、隣町の商店街主催の街コンの話があるんだけど、よかったら一緒に参加してみない??」
母からのお見合い第一弾でちょっと落ち込んでいたところ、文香からメールが届いた。
彼女とは、るりが結婚する前の友達の集いで何度か一緒になって知り合い、ここ数年は年賀状くらいのやりとりだった。
多分、るり辺りから私の近況を聞いて誘ってくれたんだろう。
そっか、文香も、貴重な婚活仲間なのかーー。
「お久しぶり!
婚活同志ですなぁ……。
私は街コン行ったことないんだけど、文香っちはある??」
「私も初めて!
友達同士で一緒に参加したら、楽しそうだな~~と思って」
……。
そうだなぁ、それなら、初めての場でも緊張が少なそう。
自分一人だったら街コンの選択肢はなかったから、いい機会だよね。
「そうだねーー!
じゃあ、是非ご一緒させてもらおうかなっ」
「本当?
ありがとう!
確か来月だったから、また詳細送るね!」
「オッケイ、よろしくお願いしまーす」
私は文香にお任せしながら、一ヶ月後を楽しみに過ごした。
申込時に確認すると、女性の参加資格は20~40歳で、参加費無料、友達同士の参加も可だった。
お見合いより気楽なのもよかった。
隣町の街コン当日。
私と文香は待ち合わせて、開催場所の古民家カフェへ向かった。
「この辺、久しぶりに来た~~。
こんなにオシャレになってたんだねぇ」
「人も街も変わるねぇ。
ちょっと見直しちゃったよ」
会場で受け付けし、二人で始まるのを待っていた。
程なくして、初老の男性が話し出した。
「えーー、今日はお忙しいなか、我が商店街主催の街コンに大勢ご参加頂きまして、ありがとうございます!
中年ではありますが、商店街の次世代を担う熱心な者ばかりです。
限られた時間ではありますが、素敵な会食の時間を過ごされますよう、手短ながら始まりの挨拶とさせて頂きます」
初老の男性が一礼すると、今度は席の流れが説明される。
参加者は男女各8人ずつの、16人。
男性と女性が2人組になって、一つのテーブル4人で会食、時間は30分1セット。
それを全部で4回、2時間で8人の異性と全て話す流れだ。
私と文香は友達同士で申し込んだので、一緒の組だった。
どうやら女性は他にも知り合い同士の人達がいるようで、なんだかすっかり安心してしまった。
自己紹介やお仕事の話、出される特産品を使ったお料理の話題なんかで、あっという間に時間が経った。
男性陣はみんな40~50代で年齢が高めだったけれど、普段接客してる分、とても話しやすかった。
総じて人柄もよく、地元と仕事に誇りを持っているようだった。
「そうなんですか~~すごーーい」
受けのいい文香のおかげで、私は一緒に相槌を打って気楽に参加できた。
「えーー、お話の途中かもしれませんが、時間になりましたので、会食はこれにて終わりになります。
ここから30分は連絡先や情報の交換になりますので、よろしかったらお願いします」
最初の初老の男性が説明した。
合コンの時もそうだけど、この時間が一番苦痛だ。
「文香さん、今日はありがとうございました!
また是非お話したいんで、連絡先交換お願いします」
「こちらこそーー、ありがとうございます」
文香はとても熱心に話を聞いていたので、次から次へと男性のリクエストが殺到した。
こういう時、モテる女友達と一緒だと、差が出るなぁ……。
私は彼女が落ち着いて終わるまで、近くでスマホをして待っていた。
文香と無事連絡先を交換した男性1号が、私の方を見て話しかけてきた。
「あの、文香さんとお友達で来てた方ですよね!
よかったら、アドレス交換したいんですが、……」
「あ、はい!」
私にも声がかかり、やることができた私は淡々と交換をしていった。
「ありがとうございます、次も是非、お二人共よろしくお願いします!」
文香、私と交換を終えた男性達の流れを観察していると、次々に他の女性達の下へ交換に行っていて、どうやら男性の方は女性全員に聞きに行っているようだった。
……。
そりゃそうか、男性が主催側だし、機会は最大限に活かさないとね!
そう考えると、文香が一番人気で、私はその友達としての立ち位置っぽい気はするけど、女性全員聞かれているようなので、やっぱり安心したのだった。
「文香っち、終わった?」
「うん。
そろそろ、行ってみる?」
先に連絡先交換の終わった私達は、会場や受付の人達に軽く一礼して、会場を後にした。
「ね、なんか思ったより楽しかったし、カフェもお料理もオシャレで、いい感じだったね!」
にこにこ、上機嫌な文香。
「そだね、人数も時間もちょうどよくって、商店街のイメージも素敵だったーー」
私も率直に、今日の感想を述べた。
「文香っち、今日一番人気だったね!」
「えーーそう?
だったらうれし~~!
次も絶対、行こうねっ」
彼女は本当にうれしそうに笑っていた。
「次は、どんなおいしい物が食べられるのかなーー」
「色気より、食い気かーーい!」
「やっぱり、お楽しみがないとねっ」
そんな風におもしろおかしく話しながら、私達は解散した。
それから2週間、商店街の男性からのメールは全くなかった。
もちろん、私からも発してはいないのだけど。
そこに、文香からのメールが届いた。
「結麻ちゃん、元気~~?
来月、道の駅で商店街のイベントがあるんだって!!
一緒に行って、いっぱい食べてこない??」
……。
彼女はそこそこにやり取りしてお誘いがあったんだろうな。
うーーん、行けばまぁ楽しいし、おいしい物食べられるし、そうやって回を積み重ねていけばまた、輪も広がって親しくなれるかもしれない。
友達と体験型は楽しいし、時間かけて相手を知っていけるんだけど、なんか面倒だな、……。
乗り気の文香とは反対に、婚活のペースがゆっくりになりそうだなと思って、街コンコースはちょっと外そうと思った。
「ごめん、実は結婚相談所、始めるつもりなんだーー。
初めてだから、そっちが落ち着いたら、また検討でもいいかな??」
婚活中だし、相談所の方も考えてはいたので、嘘ではなかった。
「そっかーー、残念!
相談所決めたんだね、がんばって!
進展あったら、近況報告よろしくねっ」
彼女はそう言って、了承してくれた。
……。
街コンコースを回避するための名目だったけど、実行するかーー……。
文香に恥じないよう、私の婚活道を進まなくっちゃ。
私はキーワードを入力し、数ある相談所の中から、自分に合いそうなところを検索していった。
「岡本結麻様ですね、このたびはご入会ありがとうございます。
本日から、ご成婚に向けて精一杯のお手伝いをさせて頂きます」
それから3週間後の日曜日、私は晴れて結婚相談所に入会した。
大手であること、金額的に妥当であることを踏まえて、ここに決めた。
初回の説明を受けた後、入会金5万円を支払い、その後は利用毎に5千円支払っていくシステム。
基本マッチングによるお見合いと、作法や美容のレッスン、婚活に関するカウンセリングなどが主な内容だ。
結婚が成立しても、成婚料はない。
今の私に合っていそうだなと思ったし、とりあえず今日のヒアリングを受けたら、どんどんお見合いをしてみたいと思った。
「では、あらかじめご記入頂いたアンケート用紙を基に、ヒアリングを行っていきたいと思います」
記入した時は深く考えず30分くらいで終わったけど、担当さんに一つ一つ確認してもらうと、相手方はもちろん、自分のライフスタイルや将来の計画が、これでもかっていうほど細かくあった。
改めて、結婚というライフイベントは人生の中でかなり重要で、仕事、家庭、子ども、親戚関係……と様々なものが絡んで、自分が考えていたよりも複雑な設計図になった。
あっという間に2時間が経過し、担当さんが10分の休憩を挟んでくれた。
「大丈夫ですか?
岡本様」
「はい……。
婚活って、気力体力、いりますね」
「本当に、みなさんそうおっしゃいます。
実際、初回のカウンセリングでおやめになる方も、いらっしゃいます」
まじかーー!!
2時間で、5万円の勉強料……!?
「そういう方は、初回ヒアリング料のみで、5千円になります。
婚活は大変なものですから、ご入会もきちんと納得して頂きませんと、双方のためですので」
確かに……!
「では、退会についての説明になります。
岡本様が当相談所をやめたいと思った時は、こちらも利用停止の手続きを取りますので、速やかにご連絡下さい。
また、最後のご利用日から一年が経過した場合は、自動的に退会の意思とみなされますので、ご注意下さい。
それから、利用にふさわしくないことが起きた場合、こちらから終了にさせて頂きますので、本日お渡しした冊子の確認と保管をして下さいますよう、よろしくお願いします。
なお、一番多いトラブルは婚前交渉になりますので、くれぐれもお忘れになりませんよう」
「えっ……」
長い説明の中に一点、赤面する事項が入っていたが、大事なことだと思って確認した。
「結婚するまで、ダメなんですか?」
「いえ、結婚前提の本交際か婚約中で相談所を終えた後でしたら、問題ありません。
しかしながら、お見合いから仮交際の利用期間に関しては、万が一責任を負いかねる問題事項になりますので、どうか理解とご協力をよろしくお願いします」
「そ、そうですよね……。
気をつけます」
初回のヒアリングを終えた私は、結婚相談所の厳しい現実を感じながら、震える指で、入会金5万円を支払って帰宅した。