天地3
それから2年。
限られた時間で、おいしい食事をして、たくさん話して、淋しさを埋めてきた。
手頃で居心地のいい関係を、疑うことなく消費してきた。
私も28歳になり、今の恋愛に満たされていた。
「久しぶりに、焼き鳥にしない?」
二人が初めて会った店だった。
「いらっしゃーーい」
なじみの店長が、元気よく迎えてくれる。
「今日は、奥の席でいい?」
いつもはそんなこと気にしないのに、今日は少しかしこまったようだった。
「うん、いいよ」
彼の提案に応じながら、いつもと違うなと感じた。
遠藤は、緊張した感じで私の方を見た。
「今日は、まじな話があって」
なんだろう、こっちまで緊張する。
まさか、プロポーズ?
それとも、……破局?
両方の事態を想定した。
手短に注文すると、彼はぼんやりと中空を眺めた。
「結麻と会って、3年目になるんだね」
彼の様子は、明らかに変だった。
ああ、潮時か……。
「結麻といて、俺本当に楽しかった、ありがとう。
だけどごめん、俺向こうと結婚することになった。
だから、今日が最後になる」
彼は目を強く閉じて、テーブルに頭をこすりつけて詫びた。
突然やってきた、感謝と謝罪による、サブかの終了宣言。
いつかはこうなるだろうとどこかで思っていたつもりだったけど、気持ちの準備が間に合わず、とてもショックだった。
もしかしたら私が本命になるかもしれない淡い期待とか、大人の関係維持してるみたいな勘違いとか、……。
「そっか、……」
物分かりがいいように答えてみたものの、内心はぐちゃぐちゃで、収拾がつかなかった。
「ひょっとして、おめでた?」
確か彼女は私より7つ上だったはず、35歳くらいなら大いにありそうだった。
「いや、違う。
彼女の親が介護になって、それでね……」
彼は真剣に、暗い表情で教えてくれた。
そうだったのか。
自由人だと思っていたけど、相手の事情が変わって、それで真剣に向き合うことにしたってわけだ。
私といる方が、身軽で気楽なはずなのに。
なんでわざわざ、苦労するのか。
丁度そこへ料理が来て、二人は無言のまま食事した。
彼は、私の言葉を待っているようだった。
彼の気持ちが変わってもう続けられないんだから、私もお別れしなくっちゃ。
「ごちそうさま。
じゃあ最後ってことで、ゴチになります」
目を合わせられない彼のことを断ち切るため、私は気力を振り絞った。
「スマホの個人情報全部消して、清算しましょう」
二人は黙々と自分の操作をして、お互いに確認し合った。
「2年半、ありがとう。
すごい勉強になった。
彼女と家族のこと、大事にして下さい」
どうにかそれだけ言うと、私は支度して店を後にした。
数歩踏み出して、涙が止まらなかった。
好意はもらえたけど、パートナーには選ばれなかった。
最初から知ったうえで、それでいいって思ってたけど。
人の気持ちって生きてる、こんなに辛くて、惨めだなんて。
幸せになりたい、苦労も共にしたい。
長い春を結果的に実らせた彼女が、妬ましかった。
2年間、すごく春気分だった。
でも、一人でいる時、不安としんどさもあった。
自分の気持ちに向き合ってきたから、後悔してない。
でもかなり疲れたから……、恋活はしばらくお休みしよう。