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YUMA20→40  作者: 玉城毬
5/12

天地2

「いらっしゃーーい、お好きな席どうぞ~~」

 威勢のいい声で、店の主人が迎えてくれる。

 通の人が知ってそうな、年季の入った焼き鳥屋さん。

「ここでいい?」

 聞かれて座ったのは、カウンターの端っこだった。

 常連さんなんだろうな、独身会所属の、店に精通してる感があった。

「店長、今日のおすすめお願いします」

「あいよ!」

 とりあえずお酒で乾杯して、遠藤はどんどん話し始めた。

「おかもっちゃん、何歳?

 俺、30歳」

 会って2回目、二人では初めて、だけど彼はすごく慣れている感じだった。

 すぐに返答しない私。

「20歳?」

 わかりやすくボケてくる。

「幼いですか?

 25です」

「うん、大学生くらい、純粋」

 どっちに受け取ったらいいかわからなかった。

「遠藤さんは、貫録ありますね」

「うん、よく言われる。

 余裕で子どもいそうって」

 毒を盛ったつもりだったけど、難なく流された。

 年齢を凌ぐ経験値があるのか、本当に高いコミュ力だった。

「今日は飯村さんに聞いて来たんですか?」

「まさか、俺、危険人物だもん。

 飯村さんの知り合いに、二人の職場聞いてたから」

 先輩は当然ながら、私を売ってなかった。

 けど、ストーカーまがいのことをしてまで、私に会いに来たのか……。

「私に、気があるんですか?」

 お酒のせいもあって、私は強く出た。

「うん、そう。

 いつもはうまいもん目当てなんだけど、おかもっちゃんかわいくて、食べっぷりもよくて、絶対また会いたいなって」

「独身会で誘えばいいじゃないですか?」

「いやーー、飯村さんにガードされちゃうと思って」

「……」

 遠藤はお世辞にもかっこいいとはいえなかったが、とにかく話上手で、魅力的だった。

 こんなにアプローチされたこと、ないよ……。

 ついに彼氏、GET!?

 私は、念願の告白を予感した。

「ぶっちゃけ、おかもっちゃんのこと、好きです!

 よかったら、サブかのになって下さい」

 念願の瞬間を迎えると同時に、謎の言葉も飛び出した。

「……え?

 サブカル?」

「面倒でごめん。

 サ、ブ、か、の」

 サブの、かの。

 サブの、彼女……。

 言葉の意味を理解して、急転直下した。

「……あの、それって、本命の彼女がいて、二股ってこと?」

「ーーうん。

 俺、2コ上とつき合ってんだけど、長くつき合って結婚の話もないし。

 お互い個人主義だから、おかもっちゃんとも仲良くなりたいなって」

「え?

 それって、不誠実じゃないですか。

 彼女さんもかけもち交際をお互いに了承してるってこと?」

「基本、交友関係に口出してないかな。

 あ、おかもっちゃんも他に全然恋愛してくれていいから!」

「そんな……。

 彼女にバレたら、人間関係全て失いますよ!?」

「だったら、それでいいよ。

 そん時はおかもっちゃんか、また別の誰かといればいい」

 なんて人だ……。

 豪放?

 いや、危険人物。

 先輩が言ってくれたことは、正しかった。

「難しく考えないで。

 その気になったらメールくれれば。

 答えはおかもっちゃん次第なんだから」

 彼はそう言って、豪快に焼き鳥にかぶりついた。

 おいしい夕食を楽しむ遠藤とは反対に、私はとても楽しめる気分じゃなかった。


 あれから二ヶ月、遠藤からの接触はなかった。

 彼の思惑はわかったし、私が切り換えればいいだけの話なのに。

 すでに深みにハマっていた。

 飯村先輩には忠告受けたし、今更……。

 誰かーー。

 頭に浮かんだのは、るりだった。

 彼女は仕事と家庭で忙しいので、とりあえずメールを送った。

「私の知り合いが悩んでるんだけど」

 っていうていで。

 時間が合うと、彼女からの返信は早い。

「その子がそれでいいならアリだし。

 本人の気持ちと覚悟で、決めればいっしょ!」

 迷いの少ない、彼女らしい回答。

 はあーー。

 私は益々混迷を極めた。


 それからほどなくして、26歳の誕生日。

 あれから相変わらず引っ掛かって前に進めない私は、周りからもらう祝福のメッセージとは裏腹な気持ちでいた。

 誕生日に休める制度が、逆にしんどかった。

 ハッピーなバースデーじゃない人も、いるでしょ……。

 心の隅にはりついたままの、遠藤への気持ち。

 淋しさに耐えられなくなって、私は唐突に彼にメールした。

「彼女とうまくいってますか?」

 完全に地雷だった。

 程なくして、彼から返事が来た。

「俺は結麻とラブラブしたい。

 でも俺のラブだけで、君のラブがまだない」

 相変わらずの、彼の好意。

 特別な日に一人でいたくなかった、想い合う人と一緒にいたかった。

「会いたい。

 今日、会える?」

 続けて入ってきたメールを見て、止まらなかった。

 私のことを、好きって言ってくれた。

 不安定でもいい、今手に入るものが欲しかった。

 今の自分がよければそれでいい、私は彼のところへ走った。

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