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YUMA20→40  作者: 玉城毬
4/12

天地1

 私、岡本結麻、25歳になります。

 社会人歴を少々積み重ね、彼氏はまぁ……、うん、これから。

 初めて紹介してもらった男に懲りてから、自分のペースで細々と相手探しを継続中。

 少しがんばってメールしたりまではいくんだけど、そこからデートにまで繋がらなかった。

 草食系が増えてしまった今、やっぱりもっと自分から行った方がいいのかな……。

 そう思ったりもするんだけど、白馬の王子様的な、私に合う人が現れるはずだと、根拠のない妙な自信がまだまだあった。


 ある日の飲み会。

 私は職場でよくしてもらってる同性の先輩の、知人独身会に参加させてもらった。

 20~30代の独身で、気軽に飲んだり食べたりを楽しむ名目らしい。

 会も不定期、メンバーもいつもの人から初めての人までオーケー、行きやすく楽しそうなので先輩にお願いした。

「私の職場の後輩、いつも一生懸命な岡本ちゃんです!」

「頼りになる飯村先輩についてきました、今日はよろしくお願いします!」

 一言挨拶をさせてもらい、会は賑やかに始まった。

 みなさんおいしいお店の知識が豊富で、一番の目的はおいしい物を食べること、だった。

 私は食のことはよくわからないけど、逆にお店の情報も得られるし、悪くない会だなーーと思った。

 始めの30分くらいは飯村先輩が隣についていてくれたが、時間が経過して流動的になってきた。

 少し、食べるモードに入ってもいいかな?

 そんなこと思いながら黙々と食べていると、ふと話しかけられた。

「隣、いいですか?」

 周りを全く見ていなかったので慌てて、とりあえず「どうぞ」と言った。

「失礼します。

 おいしそうだね、それ。

 何食べてるの?」

「あ、えーーと……、ジャンボメンチです」

 彼は笑って言った。

「すごいおいしそうだね!

 俺もおんなじの、食べよっかな」

 彼は私と同じ物を食べながら、私にどんどん話しかけてきた。

 こんなにすぐの出会いを期待していなかった私は、隣に座った彼の印象が良く、飯村先輩が戻ってきてからもしばらく、二人で盛り上がっていた。


「やーー、今日もおいしかったね!

 じゃまた、うまいもん食べたくなったら、やりましょうっ」

 2時間程会食を楽しんだ知人独身会は、あっさりお開きになった。

「あ、これよかったらよろしくねっ」

 店を出る途中、隣でいっぱいおしゃべりした彼が、私にメモを手渡して去って行った。

 彼の、名前とアドレス。

 遠藤健、っていうのか……。

 その一部始終を見ていた飯村先輩が、私に言った。

「遠藤とすごいしゃべってたね」

「はい、なんか話し相手になってくれて……」

「あいつねぇ……。

 悪いやつじゃないんだけど、人たらしらしいから気をつけて」

「え……」

 話が弾んで楽しかった分、先輩の言葉が刺さる。

「先輩も、たらしこまれたんですか?」

「いや、私は知り合いの知り合いだからさ、……。

 魅力はあるけど面倒ごとはごめんだから、一応警告しとくね」

「そうなんですか、ありがとうございますーー」

 先輩とも、店を出たところで解散した。

 自分が彼のことをいいなと思った分、相手の本質を慎重に確かめていかなければと、身の引き締まる思いだった。


 知人独身会から、一ヶ月。

 先輩の情報に用心した私は返信せず、いつもと変わらない毎日を送っていた。

「今日は定時で上がれるね、みんなお疲れさん!」

 残業なく夕方陽があるうちに帰れる、それだけで気分がよかった。

「お疲れ様。

 元気だった?」

「あ……」

 会社を出て少し歩いた辺りに、遠藤が立っていた。

 まさか待ち伏せとは、標的にされてしまったか。

「先月はお世話になりました、遠藤です」

 定時上がりの混雑を避けた結果、他の人も先輩も帰ってしまい、人気がなくて逃げ場がなかった。

「……」

「あ、飯村さんに忠告されたかな?」

 私の警戒ぶりに、遠藤は肩をすくめた。

 やっぱり、噂通りヤバイ人なのか。

 遠藤は謝罪するかのように、深く頭を下げた。

「いい歳して、こんな真似してごめん!

 でもやっぱり、君にもう一度会いたくて……。

 この後よかったらご飯行きたいんだけど、ダメかな?」

 遠藤は頭を下げたまま、私の返事を待っていた。

「ーー」

 こんなとこ誰かに見られたら、会社で噂になっちゃう……。

 ーーご飯、だけなら……。

「じゃあ、今日だけ」

 私の一言で、彼は顔を上げて満面の笑みになった。

「ありがとう!!

 じゃあ、ご馳走させてね。

 名前、確かえっと……」

「……岡本です」

「そうだ、おかもっちゃん!!

 じゃあ行こうっ」

 遠藤は私の手を引いて、歩き出した。

 彼のペースに巻き込まれている、けれどなぜか憎めなくて、私は彼と一緒にご飯して確かめてみたい、と思った。


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