憧憬2
「ーーあ、電話、ちょっとごめんね」
るりは私に軽く断って、楽しそうに話し始めた。
どうやら、男友達っぽい。
「……」
そろそろいい時間だし、お暇しよう。
「るり、今日はありがと!
私これで」
るりは片手でごめんのポーズをした。
私は手短かに荷物と上着をまとめて、彼女の部屋を後にした。
上気分で夜の空気に当たるのは、気持ちがよかった。
彼女の電話相手が少し気になり、うらやましかった。
るりは男女共に友達が多い。
恋に疎い私と違って、彼女は前向きなんだろうな。
彼女は仕事も一人暮らしもしてて、交友関係も華やかで、……。
私も恋をしたり、恋人を持つことに憧れている。
女友達とは違う楽しさ、運命を感じる特別感、ときめき……。
漠然としたものに惑わされている気もするけど、気になってしまう。
大人になって恋人や経験を持つ人が増えてきて、私も例外なくデビューしてしまったような、複雑な気持ち。
自分の中だけで恋心を始めては終わらせてきた私にも、いつか双方向になる日がくるのかな。
「結麻、男友達紹介してもいい?」
「へっ!?」
るりの突然の申し出に、私は仰天した。
「あれ、だって私、紹介お願いしてないよね……?」
「そうなんだよね、本当お節介になっちゃうんだけどーー」
るりは食い下がりながらも、スマホの画像で相手を示した。
「3つ上なんだけどさ、結麻のこと話したら、会ってみたいって言い出しちゃって……」
そこには、ほっそりとした地味顔の男が、やたら自信あり気にキメ顔で写っていた。
「うわーー、なんか自意識高めな人だね」
「うん、鳴海っていうんだけど、ナルシス系のキャラで、なるって呼ばれてる」
うーーん、全く想定外のタイプだ……。
「私のこと、どんな風に話したの??」
「えっとね、私がこの前メイクした結麻の画像見られちゃって、超ウケて、それですごい会ってみたいってプッシュされちゃってーー」
あれ、他の人に見られたのかーー!!
誕生日を抹殺したいくらい、大ショックだった。
「ちょっとごめん、ありえない……!!」
「結麻、ほんとごめん!!
あの画像、消しとくからっ」
私は怒りと悲しさで、涙が込み上げてきた。
るりは本当にすまなそうに、両手を合わせて謝った。
「迷惑かけてごめん!
お詫びに夜ご飯ご馳走するから、許して下さい」
「……」
ちょっと考えてから、聞き返した。
「二人で?」
「いや、せっかくだから3人で、謝罪と紹介の場を兼ねて!!
なるって話してみるとおもしろいし、一緒に友達の輪を広げようよ」
「うーーん……」
あの時の私を見て興味持つって、悪意じゃないのか……?
ーーでも、男の人に会ってみたいなんて言われたこと、ないからなぁ……。
私は少し考えたが、るりの提案を受けることにした。
一対一じゃないし、奢りだし、社交の練習にはなるよね。
「なる、元気だった?」
「お疲れっす!
元気元気、通常運転。
今日は俺のために、ありがとうございます」
彼が店に入ってくると、二人は親しげに挨拶をした。
「ちょっと、なるのための会じゃないんだから!
結麻の個人情報を漏らした謝罪をしなくっちゃ」
「そうだよね、友達の友達とはいえ、勝手な真似して申し訳ありませんでした」
そう言って彼は、ずっと頭を下げたままでいた。
「あの、もういいですから、普通にして下さい」
「ありがたき幸せ」
なるは頭を上げて苦笑した。
キャラが強くて、ちょっとホストっぽいと思った。
「では改めまして、お二人、自己紹介お願いします」
なるが手を伸べてレディファーストしたので、私から話した。
「るりの友達の結麻です、今日はよろしくお願いします」
「結麻ちゃんでいい?
俺、鳴海、かわいい名前っしょ?
なるでも、なるみでもいいから」
「じゃあ、なるで」
「OKーー」
3歳差を感じさせないチャラさ、るりがおもしろいって言うのも納得だった。
早速注文した料理を囲みながら、二人がお笑いの掛け合いのように会話を展開してくれるので、私はそれに合いの手を入れて飲食を楽しむことができた。
「結麻ちゃん、今日は急なお願いで本当、ごめんね?」
「いえ、るりの奢りなんで……」
「えーーそうなの??
俺も奢られたい……」
「なに言ってんのよ!
本当なら、なるに持ってもらいたいくらいなんだから」
「じゃあ、一番のお兄様ということで、結麻ちゃんの分は俺が奢りましょう」
「やったーー!!
結麻、グッジョブ」
「結麻ちゃんだけよ?
こちらの酒豪さんは、自腹でお願いしますね」
「私が仲介なのに~~。
まぁいいや、そのための飲み放題だしねっ」
二人ともしゃべりまくりながら、ワイルドに酒とつまみを放り込んでいく。
「るりと結麻ちゃんのキャラが対照的でさ、どんな子か会ってみたかったんだよね~~」
「で、実際の感想は!?」
「うん、結麻ちゃんて、健気だなって思う!!」
「……、どうも」
盛り上がる二人の側で、私は自分のペースを保ちながら合わせた。
「あーーごめん、ちょっと話してくるね」
着信の入ったるりが、席を外して二人きりになった。
「ーー」
周りがザワつくなか、静かな時間が流れる。
「結麻ちゃん、本当のところ、迷惑だったよね?」
「いや、ーー」
急にまじめな顔で言われて、動揺した。
「でも、あのメイクは黒歴史だし、それに興味あるってちょっと、意味わかんない……」
「そうだよね、勝手に見て無理なお願いして、ごめんなさい」
なるは、真剣な顔で詫びた。
「でもね、るりと違って、結麻ちゃんって本当に天然なんだろうなって思った、いい意味でだよ」
「……」
それが、私に興味を持った本心なのかな。
「ちょっと図々しいかもしんないけど、るりと一緒に俺とも仲良くしてもらえたら、うれしいです」
「ーーはい」
その時のなるは誠実に見えて、いい人に感じられて、私は返事をしていた。
「抜けちゃってごめんよう!」
通話を終えたるりが戻ってきて、またノリのいいトークが始まった。
そんな感じで、その日の友達ご飯は終わった。
「ねぇ、なる、どうだった??
意外と話しやすかったでしょ」
帰宅すると、るりからメールが入った。
「そうだね、思ったよりは」
「じゃあ、なるとは私繋がりの友達ってことで?」
「そうだね、るりとか友達みんなと遊ぶ感じで」
「ありがと、よろしく~~。
今日はお疲れ様でした!」
モヤモヤも晴れたような、少し友達の輪が広がった日だった。
それからのなるとは、るりをメインとした集まりで、何度か顔を合わせた。
何人かのなかでだし、回を重ねるごとに話しやすくなっていった。
秋の中ごろ、二人だけで話す機会があった時に、繋がりたいと言われた。
私のなかでも友愛が芽生え、メールを交わして直接の友人に進展した。
貴重な男友達と、たまに短いメールをやりとりするようになった。