表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YUMA20→40  作者: 玉城毬
10/12

自愛1

 岡本結麻、40歳になりました。

 立派な大人の年齢です。

 会社でも、若手から中堅(?)に、新人さんからしたら立派なおばさまです。

 恋愛や結婚も考えてがんばりましたが、心折れ、自分を否定するより肯定しようとシフトして参りました。

 35から40歳にかけて結婚や妊娠の機会から遠ざかり、周囲からの声かけもどんどんなくなって消耗も減り、高齢独身女性の認定も定まってきたと思う。

 一度きり、私が主役の人生、生きやすくなってきた。

 そうそう、仲良くしていた友人達は今、どうなったかというと。

 るりは20代で子どもが2人、中高生になって手がかからなくなったためか、たまに会うようになった。

 文香は33歳で婚活終了後、35歳で一回り若い後輩と結婚、妊活を経て38歳で出産、会う機会は減った。

 飯村先輩はバツイチ子なし、知人独身会も卒業して、今は長続きするような趣味を求めて開拓中、たまに会って話す。

 私も何人かで集まるような会合はぐっと減り、女友達とも一対一で連絡を取って、ランチや夜ご飯をするくらいになった。

 みな仕事も家族も様々で、予定を調整するのが難しいということもある。

 もっと独身組の友達を増やすかもと思ってたけど、そんな余裕もないし、立場が違うからこそ話せたり発見できたりすることもあって、友達って本当不思議なもんだな、と思った。


 いつものように仕事を終えて、70を過ぎた両親と住む家へ帰る。

「親終いが済んだら、このうちはあなたの自由だけど、自分の老後の資金は準備しておいてね」

 老いてもなお親でいてくれて、人生の先輩から学ぶことはまだまだありそうだ。

「ただいまーー」

「おかえり。

 なんか、大学から葉書が来てたわよ?」

「大学?」

 確認すると、同窓会の案内だった。

 ふーーん、今年の春にやるのかぁ……。

 一回目は行かなかったっけ。

 確か28の頃だったか、あの時は二股彼との別れがあって、とても行ける気分じゃなかったな……。

 30歳の時だったらよかったのになぁ、婚活も始めた頃だったし。

 まぁ、そう都合よくはいかないか。

 年が経つ程に人生も多様になるし、華やかな人も、私みたいに変化の少ない人も、いろんな人がいるよね。

 逆算したらもう、同窓会なんてあと何回もないんだ。

 40歳の節目に、私は参加してみようと思った。


 同窓会当日。

 土曜の夕方5時、宿泊先も兼ねたホテルの大ホールで、人が集まってきていた。

 3学科で100人ずつの300人だから、企画もしやすかったかもしれない。

「こんばんは~~」

 私は受付を済ませ、自分の所属していた文学部の見覚えのある子達のところへ行って、挨拶した。

「こんばんはーー、あれ、結麻ちゃん?」

「岡本結麻、名字変わってないでーーす」

「うちらとおんなじじゃーーん!!」

 そう言って歓迎されたかと思いきや、

「待って、バツかもよ?」

「名前も戸籍も、生まれたまんまです」

「結麻ちゃん意外ーー!

 こっちおいでよ、飲み物あるよ~~?」

 文学部は女子が多く、私はあっさり懐かしい顔ぶれの中に入った。

 20年の間のいろいろな変化に驚きながら、学生時代に戻ったかのような感覚。

 始まる前の不安は消えて次々と記憶が戻って繋がっていき、めまぐるしく脳が活性化した。

 学生の時も目立たないタイプだったし、輪の中に入って軽く話に参加してるだけでも、膨大な情報量だ。

 盛り上がっていく会場から一息つくため、私はトイレ休憩した。

 ふう~~、みんな、パワフル!!

 私には熱量がすごい、時々クールダウンしよう。

 少し落ち着けて、せっかくなので新しい飲み物と料理を持っていくことにした。

 あのカクテル綺麗、飲んでみたいな~~。

 手を伸ばすと、視界の外から同時に手が伸びてきて、触れ合ってしまった。

「あ、ごめんなさい!」

 私はさっと手を引っ込めた。

 その様子に気づいた男性が、私の方を見て言った。

「こっちこそごめん。

 これ、おいしそうだよね。

 はい、どうぞ」

 彼は手に取った飲み物を、先に手渡してくれた。

「ありがとう……」

 思いがけず女子扱いされて、恥ずかしくなってしまう。

 誰だっけな、他の学部の人だよな、見たことあるようなないようなーー。

 必死に思い出そうと男性のことを観察していたが、出てこなかった。

「あんま見ないで?

 最近薄いの気になっちゃって」

 彼はおどけて、頭に手を当てた。

「そんなこと、……!!

 ごめんなさいっ」

 髪あるじゃんと思ってよく見たら、確かに軽めで慌てて謝る。

「ジョークだから」

 男性も飲み物を飲んで笑い、私の方をじっと見た。

「文学の、岡本さん?」

 彼は私のことがわかったようだ。

「えっと、社会の、ーー」

「落合です、久しぶりだね」

 社会学部は男子が多く、教育学部はほぼ半々。

 違う学部の知り合いは少ないけど、一般の共通の授業は全学部で受けることもあったから、身に覚えはある。

 グループ発表なんかは名前の順だったりしたから、「お」で始まる辺り、話したこともあるかもしれない。

「少し時間ある?

 ちょっと話そうよ」

 無縁だったナンパのような展開にドキドキしながら、ちょっとならいっかと思って、近くの席に座った。

「岡本さん、大人になったね」

 普通に褒めてくれたんだろうに、昔の自分を思い出して複雑な気持ちになった。

「私、高校生みたいじゃなかった?」

 落合くんは、うーーん、と考えて、

「でも、うちの大学の女子は、いい意味で垢抜けてなかったと思うよ?

 地方で小さいし」

 フォローしてくれたのかな、確かに、大半の子は派手じゃなかった。

「大学の時、あんま話したことなかったよね?」

「うん?

 そうだね。

 でも名前の順が近いし、実は結構近くで見てたんだよね」

 さらっと言われて、恥ずかしくなる。

「ちょっと、酒おかわりしてくる」

 彼はそう言って、席を外した。

 顔も、髪も、体つきも、大学時代の男子の平均値。

 社会って男子ばっかりだったし、本当にその中の一人って感じーー。

 ーー、あ……!!

 若かりし時の恥が蘇って、慌ててしまった。

「新しいカクテル持ってきたよ。

 あれ、酔っ払っちゃった?」

 うつむいた私を見て、彼は私の方を覗き込んだ。

「いや、あのーー。

 私グループ活動の時、男子に資料重いから持つよって言われて、意地張って拒否したら、全部バラ撒いてみんなに迷惑かけちゃったんだけど……。

 落合くんて、その時の?」

「そうそう、その男子。

 だから逆に岡本さんのこと、すごいよく覚えちゃって」

 は、恥ずかしい……!

「あの時は、本当にごめんなさい。

 落合くんにも、みんなにも手間かけちゃって」

「確かにあの時は、なんだよって思ったけど。

 おかげで、岡本さんの希少価値を見いだせたよ」

「……」

 からかわれてるのか、褒められてるのか。

「落合、来いよーー」

 その時、遠くから男の声がした。

「やべ、見つかったか?

 ーーねぇ、岡本さんて独身?」

「ーー個人情報なので」

 裏腹な気持ちで答えた。

 すると彼は、内ポケットから紙とペンを取り出して、手早く書いてテーブルに置いた。

「俺、バツイチの独身。

 よかったら友達登録、よろしくお願いします」

 そう言って、落合くんは社会の男子の集団に入って行った。

 このメモ、私が置きっぱなしにしたらどうなるんだろう、すっごい自信だな。

 私は、2、3分その場で落ち着いてから、メモを回収した。

 彼が座っていたところに残された、口をつけていない新味のカクテル。

 代わりに頂くと、蜂蜜と生姜が合わさった、甘苦さが口に残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ