憧憬1
私、岡本結麻、女子大生、今日で20歳になりました。
誕生日早い方じゃないから、友達が先に成人していくのがすごくうらやましかった。
「結麻の20歳を祝って!!
かんぱ~~い」
友達のるりが、二人きりの「結麻の20歳をリアルに祝う会」を開いてくれた。
初めての、お酒。
「どうよ??」
「……なんか、熱くなるねっ」
「いいリアクション、頂きましたーー」
るりは超絶ポジティブな性格で、ネガ寄りな私をいつも盛り上げてくれる。
「ワイングラスに入れて飲むだけで、すごいオシャレ!」
「でしょ?
結麻の初めてのお酒デビュー、スペシャル感出しますよぉ」
「るり、今日はありがとう!
でも、全部は飲めないからね、……」
るりはかなりの酒好きだからか、何種類もの酒が置いてあった。
「ま、ま、これは自分がいつも通り飲みたいだけだから、気にしないで」
そう言って、いいペースで飲み始めた。
私が飲めるようになって、一緒にお酒が飲めてうれしいみたい。
うちの家系からして飲めない見込みがあるけど、それでも大人の階段一つ上った気がして、彼女の計らいがありがたかった。
3%の軽~~い缶チューハイで、私はすぐにほろ酔い気分になった。
「あ~~、いい気分!!
幸せだなぁーー」
「結麻、もう顔ピンクだよ、かわいくなっちゃって。
とりあえず、ファーストお酒はこのくらいにしとこう」
るりは私の酔いっぷりを見て、お酒を下げて水を出してくれた。
「るり、慣れてるね~~」
「お楽しみは、まだまだあるから!」
そう言って彼女は、自分のバッグから小さな箱を取り出した。
「ファーストたばこ、いってみる?」
「ーー」
そういや、たばこも吸えるんだっけ。
「あ、無理しないでね?
100%、体に悪いから」
るりはバッグに戻そうとした。
「あ!
1本だけ、もらっていい??」
るりは目を丸くして、一瞬止まったが、
「どうぞ。
けど、その先は責任持てないからね?
私が言っても説得力ないけど」
彼女はそう言って、たばこ1本と、ライターと、灰皿を差し出した。
ーー依存症になっちゃったら、どうしようーー
ぐるぐる考えながら、ライターを点けようとした。
「あれ、点かない!
ライターってこんなに重いの!?」
「安全第一になってるからね。
カチッとライターとは、訳が違うのよ」
彼女が慣れた手つきで、火を点けてくれる。
「ありがと、じゃ、ーー」
もらったたばこに火をつけて、口に含んでみた。
「どう??」
「!!
ゲホゲホッ」
うまく吸い込めなくて咳き込んで、慌てて灰皿に置いた。
「吸うのもコツがいるからね。
大丈夫??」
「うぅーー。
おいしくなーーい、いらな~~い……!」
「それがいいよ」
彼女は笑って、灰皿を片づけた。
「とりあえず、20歳からの体験はできたね!
今の気分は、どう?」
ちょっと考えてから、私は感想を述べた。
「軽いお酒は、おいしかった!
でも、たばこはなし~~」
「うんうん、貴重な初体験だったね!
気をつけないと私みたくなるから、結麻はそんな感じでいいと思うよ」
「大人の階段、一気に上ったーー。
ねぇ、お楽しみのケーキ、食べようよっ」
「そだね、甘い物でお口直ししましょ」
彼女は冷蔵庫から小さなホールのケーキを出してくれた。
「ろうそくして、カメラ撮ろっか?」
「いい、いい、そんなの。
とにかく食べようっ」
記念の一枚より、とにかく甘いもので体を満たしたかった。
「じゃあ。
結麻、20歳おめでとう!」
「ありがとーー!
では、いただきまーーす」
それぞれがフォークを持って、甘味の塊をすごい勢いでシェアしていった。
「あーー、食べ終わっちゃった。
年に一度の、贅沢……」
「ケーキでお腹いっぱい、若さと健康に感謝!」
友達と好きなように誕生祝いができて、すごく幸せな気分だった。
「ねぇ、結麻にお願いがあるんだけど」
「えーー、なに~~?」
「私がメイクしてもいい?」
「えぇ~~」
「今日、もう帰るだけでしょ?
結麻ってナチュラルっていうか、いつもほぼすっぴんじゃない?
だから、前からやってみたかたんだ~~」
「うーーん」
はじめは気乗りしなかったけど、日頃から仲良くしてくれてる友の頼みだし、帰ってすぐ落とせばいいし、いっかーーと思った。
「じゃあ、かわいく綺麗にしてね?」
「オッケーー!!
るり姉さんに、任せなさい」
そう言って、彼女はすぐに自分のメイク道具一式を持ってきた。
「終わるまでちょっと、がんばってね」
「うん、……」
その「ちょっと」は、結局30分以上かかったんだけど、私には倍の1時間くらいに感じられた。
「じゃーーん!!
できたよ、見てみて~~」
彼女が鏡を手渡してくれた。
「ーーお、おぉーー……」
そこに映り込んだ私は、確かに目力強めでいつもより変身していたんだけれども、明らかに似合ってないなと思った。
「どう、どう??」
「うん、斬新!!
目がすっごくおっきくなった」
「でしょお?
じゃあ、記念撮影するから、笑顔下さーーい」
「アハハハ……」
苦笑気味に撮られた私の画像が、20歳最初の記念すべき一枚になった。