【追憶①】メビウス・アークリウス
この世界には魔法がある。
魔法はどこからやってきたんだろう、と私は思う。どうして誰も疑問に思わないのだろうか。
私が使える魔法は時操魔法と亜空間魔法、それから変身魔法。
ー私はワタシを殺せない、だから勇者を生み出すことにした。
計画はこうだ。私は亜空間魔法で別世界に転移し、変身魔法でただの人間として過ごす。それから亜空間魔法でメビウスの世界へと引き込んで、何度も終わらない過去を体験させる。
二百人近くの被検体で実験していたが、成功と呼べる代物にはならなかった。
みな繰り返す世界で心を壊してしまったのだ。
時折、自分を殺すという発想に辿り着くものはいた。
しかし、自決しても終わらない世界に絶望して廃人になってしまう。
ある時、私は女教師として学校生活を謳歌していた。その時、私は見つけてしまった。この人ならきっと私の夢を叶えてくれる、そう思わせてくれる運命の人を。
「メビウスさんお願いします」
この言葉自体に意味はない。紙の輪を∞の形にする意味も。圏内でさえあれば、亜空間魔法は使用できるのだから。
秋の終わり、肌寒い風が吹いている。
ーついに私にチャンスは廻ってきた。
私の担当クラスの生徒、紗衣が風邪で休んだのだ。
当然、欠席の連絡は担任である私に回ってくる。真面目な生徒のようで、まだ朝の七時なのに私の電話に直接連絡をくれた。
この日、私は教師として欠席した。そして、
さえとして登校した。
私は知っている。明日ゆきという生徒が亡くなってしまうことを。
時操魔法があるからだ。それ故に、今日というチャンスを逃さずにいられた。
そして、運命の人。直樹にメビウスさんの呪いという嘘話を吹き込み、亜空間魔法で取り込む。
やはり、直樹は今までの被検体とは違った。何度転んでも諦めない胆力、私を生贄にするというウルトラCを出せる想像力。完璧だ、私の勇者に殊更ふさわしい。
そして私は何度も何度も試練を与えた。別の世界で死にたち向かわせたのだ。繰り返すたびに直樹は強くなり…人間の心は失われていった。
試練を与えて二千年たった。直樹はナニモノかに成っていた。もう、元の直樹じゃない。勇者として新しい名前をあげるべきだろうか、と私は思案した。
「勇者アビブ。それがあなたの新しい名前よ。」
新しい物語が始まる。全ては計画通りなのだから。