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ギフト  作者: ひまびと
第1部 仮面の暗殺者
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第7話 オリド橋攻防

 全力で駆けた。オリド橋まで目前のところまできた。

 喧騒が聞こえてきた。

 林を抜ける。視界が開けると、すでに兵士が入り乱れていた。


 一塊となったローティ王子一団が、すでにオリド橋上まで、押し込んでいた。情報通り、治安維持部隊は川に沿って横に広く展開していたのだろう。広げた紙に石を押し付け破れかかっているように、人員の配置が広く薄くなっている治安維持部隊は完全に押されていた。また、展開されている治安維持部隊の兵士が集結するまでに、この橋を突破する必要があるローティ王子一団もまた、イチかバチかの特攻である。

 川の上流、下流方面より展開している治安維持部隊が少しずつ集結しつつある。それでも、ローティ王子一団の勢いを殺すことができない。


 リオはまっすぐオリド橋へと向かった。

 薄暗い中、黒装束で鳥のくちばしのように尖った黒い仮面という異形の姿をした影が5つ、オリド橋へとまっすぐ駆けていく。その異様な人影を見て、オリド橋に向かっている治安維持部隊の人間の足が止まるのが視界に入る。

混沌と化している橋に、リオは躊躇することなく突っ込んでいった。


 橋の上。そこで、治安維持部隊とローティ王子一団がひしめき合っている。切り落とされたのか邪魔になったのかは不明だが、すでに馬に乗っている者はおらず、まるで押し合いのような状態になっている。橋の上であれば、兵の数も制限される。素早く突破することが出来れば、挟撃されることも回避できる。

また、少数の戦力が大群の戦力と戦うための選ぶべき戦術として、相手と同じように部隊を展開するのではなく、一点突破を狙うという定石がある。

 ローティ王子一団は、その定石通り、仲間を広く展開せず一点突破という形を取りやすい橋の上を選んでいた。一団の中に、豪傑のマザールがいる。ローティ王子にとって、一番有効な戦場を選び、治安維持部隊の突破を目指している。

 一般的な橋よりは幅が広く距離も長い。だが、それでも戦場と化したオリド橋は、眼前で人が敷き詰められ、身動きが取りづらい状態に陥っている。


 リオは、欄干の上に飛び乗り、その上を走る。

 その姿にいち早く気づいたローティ一団の1人が、欄干の上を走るリオの足をめがけて剣を薙いだ。

リオはその男の顔を見て、記憶を巡らす。


 「元カンザ国騎士団二番隊。名前はサンザ」


 リオはその名前をつぶやきながら、その一閃を軽く飛び越えると同時に、そのサンザの顔にめがけて、回し蹴りをする。その衝撃で、サンザは橋から落ちた。

ふわりと欄干の上に着地をするリオ。その姿を見て、サンザの後ろにいた男が、剣でリオを突こうとしたが、それを軽くかわした。

 リオは他の相手を気にすることなく、さらに欄干の上を走り前線へと向かった。狙うは、ローティ王子のみ。

 リオの後ろにはミーナがついてきており、反対の欄干では、ロイドが駆けている。また、リオたち3人に比べると足の速さや身のこなしが劣る残り2人のタクトとドカベティは、リオたちに少し遅れてオリド橋に到着。2人は橋を渡らず、川に降りた。すべてはリオの指示通りである。それぞれが自分の役割を果たす。

リオが想像していた以上にローティ王子一団は押し込んでいた。橋を渡りきろうとしているところまで圧していた。最後の猛攻とばかりにローティ一団の激しさを増し、治安維持部隊と斬りあいをしていた。

リオは、ローティとマザールの姿を見つけた。

 ローティ自身は質素な服装。懸命に剣を振るっている。剣先が鋭く動き回っているが荒い。顔色も悪い。慣れていない。


 リオは欄干を強く蹴り、ローティ王子に向かって跳躍した。そのままローティに向かって足を伸ばした。が、ローティの行く手を阻むように鉄の塊が現れた。マザールが、盾を構えて間に入り、その行く手を阻んだのである。

 リオは足の裏に衝撃を覚えながらも、体勢崩すことなく、そのマザールの盾を蹴り、身体を反転させて着地した。が、その着地をする瞬間を狙い、マザールは手に持っている剣を薙いだ。

 リオは、後ろに跳んだ。が、その刃がリオの黒装束をかすめた。

 怪我はない。服を斬られただけである。だが、ここまでの剣の鋭さは、リオにとって初めての経験である。剣術の優れたロイドよりも凶悪な剣である。

 リオは腰に差している小太刀を抜き、何度か、マザールに一撃を加えようと間合いを詰めるが、すべて盾で受け止められ、その後は、勢いの鋭い刃がリオを狙ってきた。

 身を斬られることはなかったが、すべて紙一重である。その様子を見た別の兵士がリオとマザールの間に入り、リオに向かって剣を構えた。


 雑魚が目的ではない。兵士の攻撃を難なくかわすのと同時に、リオは、距離をとった。後ろに下がり、その姿を治安維持部隊の集団の中に紛れ込ませ、マザールから見えない位置へと移動した。

 リオはすぐに位置関係を確認した。マザールは部隊を前進させるため、目の前の敵のみに集中していた。次の相手を見つけは、その刃で切り伏せていた。ローティ王子も剣を振るい続けていた。


 だが、その前に至近距離で感じる視線をどうにかしないといけなかった。


 治安維持部隊の兵士の視線がリオに向いている。黒装束の人間が、治安維持部隊の中に1人いるのだ。治安維持部隊から見ると、明らかに、異質、異物である。

 周囲から敵意を持った視線。だが、「そいつは敵ではない。相手を間違えるなよ」という声が飛んできた。

 リオは、その声の出所を目で追い、その姿を確認した。


 「さすがのカンザ国秘蔵のダークダガーでも、あのマザールの相手は無理なのかな」


 自らをダークダガーと名乗ることはない。任務のほとんどが、誰にも知られずにその場で処理をすること。自分の存在を知られることは死を意味する。だが、便宜上、組織名はダークダガーとつけられていた。

 その組織名を知っている治安維持部隊の男。

 その男は剣を持ったまま、だらりと腕を下ろしている。そして、リオの横に立った。長身で金髪。そして、その自信に満ち溢れた表情で、ローティ王子やマザールの戦いぶりを眺めていた。数か月前、治安維持部隊としての兵が続々と派遣されているころ、森の中で見た男である。


 「私の名はシェスター。治安維持部隊の……班長の1人だ。あ、自己紹介は不要かな?君のその危険な雰囲気、覚えがある」


 リオはその男の顔を横目で見た。この戦場の中でシェスターは笑みを浮かべていた。

 リオは身構えたまま、返事をしなかった。その様子にシェスターは笑みを浮かべたまま「まあ、いいさ」と言った。


 「あの男は……当然知っているだろ?元カンザ国騎士団の2番隊隊長、マザール。あいつは化け物だ。記録に残っている各国の戦歴や戦況を読み漁ったことがある。カンザ国の戦い方は、特別優れているというわけではないが、カンザ国の2番隊と8番隊のおかげで、他国と引けを取らなかったことがわかる。さすがは、2番隊隊長だ。一度、ゆっくり話をしてみたいものだ」


 リオも構えを解いて、前線の方へ目を向けた。


 「ダーシィ国は軍事国家だ。兵士は、日々、鍛練はしている。私も含め、その強固さには自信があるのだが、あの男の勢いは止められないか」


 マザールは鬼の形相をしている。相手の攻撃をかわすのではなく、盾で防ぐ。そして、体当たりをして相手を吹き飛ばす、または、剣を振るい斬るという使い分けをして、同時に何人もの相手をしていた。複数人との戦い、混戦に慣れている姿であった。

 シェスターは手に持っている剣を肩に担ぎ、肩のあたりをトントンと軽くたたく。


 「仲間は大切だ。その仲間が次々とやられている。荷が重いようだ。少し私が相手をしてくるとするよ」


 シェスターに緊張も気負いも何もない。隙もなかった。そして、まるで、平和な街中を歩くように前線のマザールの方へ足を向けた。

 リオはシェスターの後ろ姿に声をかける


 「あの男を、橋の上であと5分食い止めろ」


 「5分?」とシェスターは振り返る。その表情は何か楽しそうである。


 「5分だ。それで終わる」


 その言葉を聞いてシェスターは「何をする気だ?」と聞き返すが、リオは、それ以上言葉にしなかった。


 「まあいい。カンザ国秘蔵のダークマター様の言葉だ。なにをするつもりか知らないが、5分だな。マザールを止めてみせよう」


 シェスターは、軽く手を上げ、前線へゆっくり入っていった。

 その後すぐに、シェスターがマザールの正面に立ち、交戦を始めたのをリオは確認した。確認しただけである。リオにとって2人の力量は興味がなかった。任務はローティ王子の身柄の確保。リオは、ローティの姿を確認するために、再び欄干に立ち、再度突っ込んだ。

 狭い橋の上では思うように進めないが、確実に1人ずつ殺めていった。近くでミーナが戦っている姿を確認した。ロイドの姿は確認出来ないが、別の場所でローティ王子に向かっているはずである。

 シェスターが前線に入ってから、ローティ王子一団の進行が少し遅くなったような気がする。だが、止まったわけではない。あと少しで突破できるという状況は変わりなく、優勢であるという認識から、ローティ王子一団の士気は高く、苛烈である。


 リオは、さらに歩を進めたところで、ローティの王子姿を確認した。ミーナが、リオとローティ王子を結ぶ直線状にいる兵士のところへ突っ込んでいった。

 ローティ王子へのルートが開ける。

その一瞬を見逃さなかった。

ミーナの横を通り過ぎ、ほんの少し開いたルートを全力で駆けた。人をかわしながら、リオはそのルートを一気に駆け抜け、ローティのすぐそばで立った。


 「おまえは……」


 ローティ王子は、リオのその異形な姿に目を見開いた。

 その時、突然、耳をふさぎたくなるような大きな爆裂音が鳴り響いた。それと共に、足元に大きな振動を感じた。


 喧騒がぴたりと止まった。


 人の動きも止まった。


 静寂が生まれた。


 まるで、時が止まったように。

 だが一瞬の静寂も、足元と共に崩れ落ちた。

 橋の上にいる者、すべて川へと落ちていった。敵味方もろとも。





第7話までの登場人物:


<カンザ国>


ロルク王:カンザ国国王。ダーシィ国国王ハルクの兄。

ロック:ロルク王の息子。長男。第1王子。王位継承権1位

ローティ:ロルク王の息子。次男。第2王子

カグラ博士:カンザ国宰相。完全平和主義発案者

イルス:カンザ国国立図書館司書

マザール:カンザ国食堂の料理人。元カンザ国騎士団2番隊隊長

クリオ:元カンザ国騎士団3番隊所属。死亡


リオ:ヤサキ区の農園で働く少年。315部隊隊長。

ミーナ:315部隊

ロイド:315部隊

タクト:315部隊

ドカベティ:315部隊


カズゥ:ヤサキ区の農園で働く男。商売の独立を目指す



<ダーシィ国>


ハルク王:ダーシィ国国王。カンザ国国王ロルクの弟。

シェスター:治安維持部隊ヤサキ区所属。班長



<侵入者>


オヤジ:カンザ国にて315部隊にて殺害される。青い石のついたペンダントと暗器を持つ。

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