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ギフト  作者: ひまびと
第1部 仮面の暗殺者
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第4話 カンザ国第2王子ローティ

 時間は少しさかのぼり……



 「父上。どうしてもダーシィ国との調印は必要なのでしょうか?」


 カンザ国王を前に1人の若者が声を荒げた。カンザ国第2王子ローティであった。

 平和補完条約調印が明日と迫った日に、最後の直談判に訪れた。ローティの視線の先には優しいまなざしの父であり、国王であるロルク王がいた。

 だが、その間に入り険しい顔の男が間に入る。カンザ国第1王子であり、王位継承権を持つ2歳年上の兄、ロックである。


 「ローティ。これは決定事項だ。父上も何度も申している。シーク大陸は叔父上のおかげで、これからは平和の一途をたどる。この平和を盤石にするために、今回の調印は必要なのだ」


 「言いたいことはわかります。ですが、この調印はこのカンザが武器を持つのと同義。武器を持つことは、他国に刃を向けるのと同じです。それが分からないのですか?」


 「ローティ。父上を侮辱する気か」


 ロックがローティの胸倉をつかむ。が、その間に入る者がいた。カンザ国の完全平和主義の原案者であり、宰相であるカグラ博士である。カグラ博士は、国王直属の補佐団に入っており、カンザ国に必要なものを開発、提案をする。これまで、カンザ国の内政の整備、外交、自警団の設立、貯水池やダムなど治水など、様々なものを提案し、それを実行してきた。そして、10年前、完全平和主義思想を提唱し、これをカンザ国の方針として歩んできた。この国の功績者である。


 「ロック様。口論はこのあたりにしてください。ローティ様。ロルク王も考えあってのことです。私の顔に免じて、その怒りをお鎮めください」


 ロックは、幼いころからこのカグラ博士から厳しく教育を受けてきた。それもあり、カグラ博士の言葉は素直に従い、つかんでいた襟元を手放した。

 ローティは、ロックを一瞥した後、ロルク王の方に視線を向けた。ロルク王は、先ほどと変わらず、静かにこちらを見ているだけであった。

 それが、腹立たしかった。


「失礼する」とローティは踵を返して部屋を出て行った。




 部屋を出てすぐのところで、カグラ博士に呼び止められた。


 「何か用ですか?カグラ博士」


 カグラ博士は、ローティの鋭い視線を受け止めた。


 「ローティ様にお見せしたいことがあります。もし、よろしければ、少し私にお時間をいただけますでしょうか?」


 「何を今さら。私の考えを変えようとするのであれば無駄だ」


 「そんなつもりはございませぬ。ただ、ローティ様には、カンザ国の本質を知っていただく時期に来たと判断しました。ロルク王にも先ほど了承を頂いて参りました」


 「本質だと?」


 「ええ。ローティ様には知る必要があります。こちらへ」と言いながら、カグラ博士は歩き始めた。ローティもそれに続いた。


 カグラ博士が歩く方向。それは、カンザ国の牢獄へ続く道であった。ローティは、前を歩くカグラ博士に「私を閉じ込めようというのか?」と言った。


 カグラ博士は笑いながら「滅相もございません」と返した。そのあと、カグラ博士は言葉を続けた。


 「ローティ様。完全平和主義というものを本当に信じておられますか?」


 「それはどういう意味だ?」


 「私には、きれいごととしか思えません」


 「何を言っている。あれは、博士の発案でしょう?」


 その言葉にカグラ博士は回答せず、牢獄の門番に話しかけ、中に入れるよう手配をしてもらった。

 カグラ博士は、躊躇なく中に入っていく。ローティは、この中に入るのは初めてである。

 湿気が多く、カビ臭い通路を通る。牢屋の中から、手を伸ばしてくる者や、うずくまっている者。奇声を発する者などがおり、奥に進めば進むほど、囚人の体臭や糞尿などの臭いが充満し、顔を背けたくなる。

 だが、カグラ博士は気にせず、さらに奥に進んだ。

 そして、さらに下る階段があり、奥へと進む。

 先ほどまで、鼻を突くような異臭はなくなり、足音だけが甲高く響く。そして、大きな扉の前に守衛が立つ。

 カグラ博士の姿を見るなり、守衛は道を開け、その先の大きな扉を引いた。開けた瞬間、強い光と消毒液の臭いに包まれた。


 しばらく目が開けられなかった。だが、次第に慣れ始めると目の前に白い空間が現れた。

 天井が高く、広い真っ白のフロア。その中に何かの液体が充満されている透明の巨大な円筒が無数にあり、それぞれに人が入れられている。


 「ここは……」


 ローティの言葉に、カグラ博士が答える。


 「ここは、カンザ国の秘事にて、王と一部の幹部のみが知っている場所。研究施設です」とカグラ博士は口をゆがめて笑みを浮かべる。

 よく見ると、巨大な円筒の入っている人は、男性、女性ともに若い人間ばかり。14、5歳。いや、もっと幼い人もいるように見える。


 「研究施設……だと」


 あまりの現実離れしている光景にローティは、これ以上言葉が出てこない。


 「はい」とカグラ博士はさらに奥へと進む。


 床は少し濡れており、所々に排水溝が見える。天井には太いパイプが複雑に絡み合い、それぞれの円筒につながっている。

 奥へと進むカグラ博士をローティは追いかけた。


 カグラ博士は1つの円筒の前で足を止めた。そこには、白衣をまとった者が5人。帽子にマスクをしているため性別は判別できない。ローティは目の前の円筒を覗き込んだ。この円筒の中にも10歳位の少年があり、その少年の口には、天井に向かってつながるパイプが接続されているマスクが装着されていた。


 カグラ博士の「やれ」の言葉に、5人の白衣が反応した。白衣の1人が円筒の足元あたりにあるスイッチを押した。すると、中に入っていた液体がゴボゴボと音をたてながら抜けていく。その水位にあわせるように、少年は体を折り曲げながらその場に崩れ落ちていった。円筒の液が抜けきったところで、円筒が上がり、その場に倒れこむ少年までの障害物がなくなった。

 白衣の2人が少年の体を起こし、1人は少し下がったところで記録をとり、1人が少年の前に立ち検診を始めた。その白衣が別の少し下がったところに立つ白衣の方に目配せをする。それに頷き、最後の1人が注射器の準備を始めた。

 検診をしていた白衣が、目の前の少年と天井につながっているマスクを取り外す。そして、少年との距離をとった。


 しばらくして、激しい咳をし始めた。その苦しさに暴れようとするが、両脇で支える白衣のせいでそれをさせてもらえない。さらに激しく咳き込み、嘔吐をする。そして、少し落ち着いたかと思うと、目をゆっくり開ける。


 ローティはその視線と目があった。

 それは普通のものではない。ローティは全身が粟立つのを感じた。


 それと同時に少年が絶叫を始めた。目つきがさらに怪しくなったかと思うと、脇を抱えていた2人を一瞬にして弾き飛ばした。その力は尋常なものではない。そして、その場に崩れ落ち、頭を抱え、再び、耳をふさぎたくなるような絶叫をした。咳き込み、嘔吐をする。

ローティは隣にいるカグラ博士の顔を見た。だが、その顔はいつもと同じような暖かい目線でその状況を見守る。


 狂気に満ちていた。


 絶叫と嘔吐を繰り返した。その場でのたうちまわる。ローティはその様子を見ていられなくなり思わず視線を外すが、それに気づいたかのようにカグラ博士は「王子。しっかり見てください」と促す。ローティはその言葉に従い、今にも震えだしそうな体を抑えながらその様子に目をやった。

少年の目の色が怪しくなり始めた。そして、悲鳴をあげる。


 カグラ博士は、白衣に「失敗か?」と尋ねる。白衣も「おそらく」とだけ返事をする。その白衣は少し後ろにいる注射器を構える白衣に向かって軽くうなずく。それを合図に、のたうちまわる少年を吹き飛ばされた2人が改めて少年を抑え込み、注射を打つ。


 少年の動きは次第に弱々しくなり、やがて、完全に動かなくなった。



 その場を離れ、研究室の控えにあるトイレで、ローティは胃の中のすべてを吐いた。目の前に起きたことが非現実的。だが、脳裏に焼き付いたあの情景が離れない。のたうちまわり悲鳴を上げる少年が、また頭の中を巡り、さらにローティは吐いた。


 トイレから出てきたローティにカグラ博士は「大丈夫ですか?」と優しく微笑む。先ほどの様子を平然と見ていたカグラ博士のその表情が今では少し恐ろしく見える。


 「あれは、何なんだ」とローティは聞く。あれと表現しただけで、また、胃から逆流しそうになる。


 「あれは完全平和主義実現のためのものです」


 「完全平和主義……」


 「はい。この部屋に入る前、私は言いました。完全平和主義はきれいごとにしか見えませんと。そうです、きれいごとです。考え方としては素晴らしい。ですが、そんなきれいごとだけでは、この国は守れません。ここはカンザ国の秘事。闇の部分。ここで生み出れた子供たちは、強靭な肉体に、聡明な知識。さらに、生まれ変わることにより特殊な技能が付加されます。今は、4世代目の新たな子供達を生み出す研究をしております」


 「闇の……部分……」


 「そうです。非人道的ではありますが、子供たちを強化することで、カンザ国を守ることが出来る特殊部隊を作ることに成功しました。今、2世代目、3世代目がこの国を影で守っています。これがロルク王に提案させていただいた完全平和主義です」





第4話までの登場人物:


<カンザ国>


ロルク王:カンザ国国王。ダーシィ国国王ハルクの兄。

ロック:ロルク王の息子。長男。第1王子。王位継承権1位

ローティ:ロルク王の息子。次男。第2王子

カグラ博士:カンザ国宰相。完全平和主義発案者


リオ:ヤサキ区の農園で働く少年。315部隊隊長。

ミーナ:315部隊

ロイド:315部隊

タクト:315部隊

黒装束5:315部隊


カズゥ:ヤサキ区の農園で働く男。商売の独立を目指す



<ダーシィ国>


ハルク王:ダーシィ国国王。カンザ国国王ロルクの弟。

シェスター:治安維持部隊ヤサキ区所属。班長



<侵入者>


オヤジ:カンザ国にて315部隊にて殺害される。青い石のついたペンダントと暗器を持つ。

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