第1話 転生
「なるほど、つまるところ僕は死んでしまったと」
少女のように可愛らしい顔をした少年は、神様を名乗る男性にそう言い返した。
今、少年がいる場所は真っ白い空間だ。
上下左右を見渡すが何も見えない。ただ白が広がるのみ。
少年の前には、男性が立っていた。
外見年齢は20代。都心に歩いていそうな、ごく普通の容姿をしている。
「理解が早くて助かるよ。・・・・・・本来ならキミの記憶を消したうえで、別の存在へと生まれ変わらせるのだが、そういうわけにも行かなくなったんだ」
「それはどういう意味ですか?」
少年がそう言うと、神様はわずかに顔を歪ませる。
「キミはあの時、死ぬ予定ではなかったのだが・・・・・・私の部下。もとい運命を司る担当神が間違えてしまったようでね。形ばかりの謝罪と幾ばくかの詫びをするために、こうして来てもらったというわけだ」
そう言われた瞬間、少年の脳裏に死ぬ直前の記憶が蘇ってくる。
『男のくせに私より可愛いなんて・・・・・・』
『アンタさえいなければ! ユーくんは私を見てくれたはずなのに!』
ブレザーに身を包んだ少女が、目を血走らせ、包丁を僕の腹へと突き立ててくる。
何度も。何度も。
めった刺しにされ、血だまりに沈んだところで記憶は途絶えていた。
「思い出したようだね、それは結構。さぁ、これから君を地球とは異なる別の世界に転生させる。今回の一件で輪廻の環から落ちてしまった君を、もう一度同じ世界に戻すのは不可能だからね」
神を名乗る男性の話を聞いている間、少年は、自分の一生を早送りのように振り返っていた。
美少女めいた容姿のおかげか、良くも悪くも女子達と接することの多かった人生。
並の男なら、女子に囲まれる生活など願ったり叶ったりなはずだが、
少年は女子達の陰口や嫉妬等の闇の部分をたくさん見てきたせいで、全くそうは思っていなかった。
「だが我々の手違いで命を落としたんだ、少しくらいなら来世のキミに特別な力を与えてもいい」
「特別な力・・・・・・ですか?」
いきなり力をくれると言われてもピンとこない。
少年が、どう返事をするか困っていると、神様が肩をすくめる。
「どんな願いでも構わないとも。過去にキミと同じような経験をした者たちは【世界最強の剣を持って冒険したい】とか【一生遊んで暮らせるだけの金が欲しい】と願っていたね」
神様はそう言ってくるが、正直なところスケールが大きすぎて理解が追い付かない。
「願いがないのであれば、夢はどうかね? 幼き日のキミはどんな夢を抱いていた?」
子供の頃の夢。少年はふと、物心つかない頃よく女友達と話していたことを思い出した。
『――くんが女の子に生まれ変わったら、女の子の気持ちも男の子の気持ちもわかるステキな女性になりそうだよね』
この頃は、女は見た目に気を遣っていて家庭的で献身的で裏表のない存在だと思っていた。
しかし今となっては、そんな存在は二次元にしかいないのだと納得せざるを得なかった。
いや、まてよ。
「理想の女の子がいない? だったら自分が理想のヒロインになればいいのでは?」
献身的な異性が好き?
だったら自分が女性になって、男性に尽くせばいいじゃないか。
可愛くて、性格がよくて、料理が上手で、勉強ができて、気配りができて、男を立てて、
一緒にいて疲れなくていつも自然体で接してくれて、ちょっとムッツリスケベで、
それでいてハーレムを許容してくれるような【理想のヒロイン】を目指してみるのもアリじゃないか。
そんなことを考えていると、神様が呆れたような目で見てきた。
「性別の転換か・・・控えめな願いだな」
「まぁ、無欲なのが僕の長所ですからね」
「全能の神たる私が送り出す転生者にしては少し地味だな・・・追加で万能の才能も付与してやろう。それを生かすも殺すもキミ次第だ」
不意に全身から力が抜け、意識がもうろうとしてくる。
「さて、これからキミが暮らす世界は魔法文明が発達し、凶悪な魔物が存在する危険な世界だ。それと当然ではあるが、もうすでにキミは向こうの世界の輪廻の環に組み込まれている。仮に死んだとしても、地球人に生まれ変わることはない」
話すべきことは話した。神様はそう言うと満足げに頷きつつ、両手を広げて見せる。
「不幸な子よ、神々を代表してキミの来世に幸あらんことを祈っているよ」