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魔法世界と闇の英雄  作者: 雪野 透
第1章 〜魔術科の英雄と鮮血の記憶〜
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8話 空白の時間

「呪文詠唱なし!?

本当に化け物ね……」


莉愛は心底感心したようだ。


しかしこれは、ウォーミングアップに飛行術を使っているといつの間にか出来るようになっていた。

そのため、誰にでも出来るはずなのだが。


「呪文詠唱なしなんて誰でも出来るよ。俺もいつの間にか出来るようになっていたから」


俺は、思ったことをそのまま伝えた。


その会話には特に深い意味はないと思っていた。


だが意外にも莉愛は話を広げてきた。


「蓮が異常なんだよ! 普通の人は出来ないんだからね!?」


莉愛が目を見開いて必死に言う。


誰にでもできると思っていたが、どうやら違ったみたいだ。


というかそんなに必死に言わないとダメなことなのか?

俺は簡単に出来るようになったんだから、それ以上でもそれ以下でもないと思うんだけどな。


「まあ俺は異常じゃないよ。うん、平凡だ」


今の状態で面倒ごとになるのはごめんだ。

対応の仕方もよくわからなくて相手を絶望させるか困らせるだけだろう。


きっと元々の人間性が面倒くさがりなわけではない。だが俺には色々な事情があるため、面倒ごとは避けるようにしているのである。


だからごく普通のどこにでもいそうな生徒と思ってもらえることが一番ありがたい。

そしてそのまま何事もなく卒業して、魔獣迷宮に挑みたい。俺の望みは今のところそれだけだ。


入試の成績が学年一位だったことで、もう既にその望みは壊れかけなんだけど。


なんで調子乗って全部に答え書いたんだよ、あのときの自分をひどく恨んだ。


「学年一位が平凡扱いは可笑しいわよ。私は蓮を尊敬してるんだよ?」


「いやありがたいんだけどな、尊敬はやめてくれ」


こいつは成績が良いだけで人を尊敬してしまうのか。

呆れた……莉愛が普通か。


本当に、何故あんな真面目に試験受けたんだよ俺。

ああ、一ヶ月前に戻りたい。


いくら望んでも、俺の不完全な超能力でそんなことは出来ないのだが。

なんだよ俺の能力、役立たずか。


「無理だよ」


莉愛はイタズラっぽく笑って、指でバッテンをつくった。


「呪文詠唱なしで魔法使えちゃうもん。やっぱり蓮は優等生だよ」


まだ僅かに残っていた桜が彼女の可憐な笑顔を際立たせるように散る。


女の子とは、なんでこんなにも美しいのだろう。

まるでガラスの宝物(つくりもの)みたいだ。


「って、蓮! 聞いてるの?」


「あぁごめんな。

呪文詠唱なしでの魔法がそんなにすごいことだったとはな、知らなかったよ」


「そうよ。学年一の成績なのに、そんなことも知らなかったの?

意味不明ね……」


莉愛は明らかに困惑した顔をして、斜め下を向いた。


ふと、俺はあの事を莉愛に相談しようと決めた。

一人で考えるより教えてもらう方が効率がいいし、誤解も防げる。

少し無知なところがあるのにはれっきとした理由があるんだ。

ただバカな子というわけではない。


「……莉愛、少しいいか?」


莉愛なら大丈夫だろう。

打ち明けてみよう、あの事を。



「で、どうしたの? 相談?」


俺たちは、近くにあったベンチに腰掛けた。


覚悟を決める。

このことを他人に伝えるのは初めてだ。信じてもらえないかもしれない。

それでも、莉愛には言っておきたいと思った。彼女なら信じてくれる気がしていた。

俺はゆっくりと息を吸ってから、静かに言う。


「俺、今までの15年間分の記憶がないんだ」


莉愛の反応は予想通りで、驚きとも困惑とも言えない微妙な顔をした。

真実なのか嘘なのか、疑っているようにも見えた。


俺としては言語能力はなくなっていないことが幸いなので正直ショックなどはなかったのだが、莉愛はショックだったようだ。


「え……? 15年間?」


************


三ヶ月くらい前。


目が覚めると、隣に見知らぬ男性が居た。


「起きたのか……!!

あぁ、生きてて良かった! これで音は悲しまない! 私も悲しまない!

生きていてくれてありがとう、蓮!!」


透きとおった柔らかい声が聞こえる。


それは、青髪が若干混ざっている黒髪に爽やかな笑顔の好印象な男だった。


両耳にピアスをしていて、不真面目感が出ていたように見える。

しかし服装はそんなにチャラくはないようで、白いカッターシャツとネックレスに黒いパンツというシンプルなものだった。


彼は一方的に身振り手振りを使って、感動を表してきた。

……好印象な雰囲気だったとはいえ、ハイテンション過ぎて正直かなり気持ち悪かった。

この人は誰なんだ?


「あの、どちら様ですか?」


まだハッキリしない頭のままで彼に訊ねてみる。


丁寧に訊ねたつもりだった。しかし、何が悲しかったのか、彼は伏せ目がちに呟く。


「想像していたより傷付くな……

まあいい、私は月夜待(つきよまち) (さく)

君の兄貴だよ!」


「はあ…………

それより、俺は何故ここにいるのですか? 俺は一体何者なのですか?」


何故だろう、頭が回らない。

自分が何者なのか、何をしていたのか、全く思い出せない。


「私への興味はゼロなのか……

そうだな、君の名は月夜待 蓮。無職。血液型はA型。誕生日は7月29日。15歳。とある呪いをかけられたせいで、過去のことを思い出せないし知ることも許されないという不幸な少年。

過去を知るには解呪魔法を使うしかないのだが、残念ながら私にも君にもそれは出来ない。

……といったところかな」


一気にまくし立てられた。


というか、


「終盤の話、意味不明なのですが」


「私も2時間前に聞いた話だからね! 意味不明なのは仕方ないよ」


彼はハハッと軽快に笑う。


「……あなたの話はにわかに信じ難いですよ」


「久しぶりに会えたのに相変わらずの毒舌だねぇ、君は。

あと、仮にも私は君の兄貴だ。あなた呼ばわりと敬語はやめてくれ」


そう言って眉を下げる。


俺は記憶を喪う前から毒舌だったようだ。


「……わかったよ。兄さんと呼ばせてもらう」


「あぁ!」


そう言うと兄さんは、爽やかで優しい笑顔を見せた。


純粋にカッコいいと思った。

顔だけでなく、内面の良さも滲み出ている感じがしたのだ。もちろん顔もカッコよかったが。

そこは悔しいから触れないことにする。


俺はなんとなく、この人の弟で良かったと思った。


「よろしく、蓮!」


************

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