表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
4章 - 《創り手の快楽》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/125

82. アリム森林地帯 - 2

 


     [2]



 【装具整合】は〈縫製職人〉もしくは〈鍛冶職人〉であれば誰でも行使可能な生産スペルで、効果は『装備品ひとつのサイズを、現在それを手に持っている人物に合わせる』というものだ。

 このスペルを使えば衣類だろうと鎧だろうと、簡単に何度でも装備品のサイズを調整できる。そのため、この世界の装備品は基本的に身長150cm程度を想定した、少し小さめのサイズの型を用いて作成するのが常識となっていた。


 理由は単純で、小さめのサイズで作るほうが、その分材料を節約できるからだ。

 【装具整合】のスペルを用いれば、本来の想定身長から0.7倍~1.4倍程度の身長にまでであれば即座に対応させることができる。

 種族によって平均身長には結構なバラ付きがあるとはいえ、大抵の掃討者の身長は105cmから210cmの中には収まるので、最初に素体を『150cm』で作成しておけば、種族の垣根を越えて使い回せるというのも理由のひとつではあるのだろう。


 衛士頭のラウゼルに指示された通り『男性用』とされている詰所のほうを借り、シグレはライブラから受け取った衣服に【装具整合】のスペルを行使する。

 さきほど女性陣に手渡した巫女装束もまた『150cm』の型で作成したものだが、あちらはあちらで〈鍛冶職人〉のカグヤがいるので【装具整合】は可能だろう。

 ―――とはいえ、もともと身長が150cm弱ぐらいのカグヤ自身にとっては、調整するまでもなく身体に適合するサイズかもしれないが。




+----------------------------------------------------------------------------------+

 □狩衣(かりぎぬ)/品質[75]


   物理防御値:6 / 魔法防御値:6

   装備に必要な[筋力]値:6

-

  | 主に東都アマハラで用いられる軽装の日常着。内着も付属する。

  | 猟衣とも呼ばれ、その名の通り狩猟にも適した作業着である。

  | 王都アーカナムの〈縫製職人〉ライブラによって作成された。


-----------+

 □指貫(さしぬき)/品質[72]


   物理防御値:4 / 魔法防御値:3

   装備に必要な[筋力]値:4

-

  | 主に東都アマハラで用いられる軽装の日常着。

  | 膝下で括る袴で、見た目通りの活動的な衣装として広く利用される。

  | 王都アーカナムの〈縫製職人〉ライブラによって作成された。


+----------------------------------------------------------------------------------+




 ライブラから受け取った衣装は、狩衣と指貫のセットだった。

 狩衣は神職用のいわゆる『浄衣』のような白無地ではなく、涼しげな空色に染められた布帛が用いられている。

 夏を迎えるこれから着るには、涼しげでちょうど良さそうに思えた。

 一方で指貫のほうは濃い葡萄染をしており、どこか落ち着いた印象を受ける。

 どちらも特別な効果は一切付いていないが、防御性能はいまシグレが着ている普段着よりも少しだけ高い。

 そのぶん[筋力]の要求値も高いが、この程度なら許容範囲だろう。


 狩衣に付属している内着も含めて、手早く着替えると。色合いから受けた印象に同じく、着てみて実際に涼しさが感じられる衣装だった。

 素材は絹のようだが、夏を想定した薄物に近い布帛が用いられているのだろう。通気性が高く、先程までよりも随分暑さが緩和したように感じられた。

 唯一、靴だけ洋装用の革靴のままなので、和装に着替えた今では少し浮きそうな気もするが。かといって履き慣れない浅沓(あさぐつ)などを用いて森林地帯を探索するわけにもいかないし、この辺は致し方無い所だろう。


 先程まで着ていた衣服に【浄化】を行使し、〈インベントリ〉に収納する。

 詰所の別部屋で寛いでいた衛士の人達に、利用させて貰ったことのお礼だけ端的に告げて外に戻ると。門前に集まっている鎧を着込んだ衛士の人達に混じり、明らかに浮いている紅白衣装の三人が既に待っていた。


 その中のひとりであるカグヤが、一足先にシグレの姿を見つけて、こちらの側へと駆け寄ってくる。

 短く切り揃えられた綺麗な黒髪のカグヤには、巫女の衣装がとても良く似合っていた。

 それに普段から和装を愛用しているためか、どこか衣装に『着られている』印象を受けるライブラとは違い、完全に巫女装束を着こなしている。


「わぁ……! し、シグレさん、和服似合いますね! わああ……!」

「そうですか……? 変に見えなければ良いのですが」

「変だなんて、とんでもないです! わあ……! し、シグレさんはもっと普段から和装を着るべきだと思います! すっごく似合ってます!」

「あ、ありがとうございます……」


 何だか普段より一段も二段も高いハイテンションっぷりを見せるカグヤに、少なからず驚かされながらも、シグレは感謝の言葉をにする。

 普段から和装を用いる彼女からそう評されるのは、例え世辞の言葉であっても、やはり嬉しいものだ。


「わ、シグレ、本当に似合ってますね……。もしかして普段から、こういった服を着たりされるんですか?」

「そうですね……。近いものでしたら、案外よく着ているかもしれません」


 エミルの問いに、少し考えてからシグレは答える。

 現実(リアル)の側では、昔から病棟生活で便利に使える作務衣(さむえ)を愛用している。

 簡素な服ではあるが、あれも『和装』のひとつと言えなくもないだろう。


「どうでしょう? 着心地のほうは、悪かったりしないですか?」

「ええ、大変良好です。あまり夏場に向いた涼しい衣類を持っていなかったので、素直に有難いですよ」

「そうですか! 喜んでいただけなら、ボクも嬉しいです」

「よろしければ今度、作り方を教えて頂けますか? 何着か作ってみたいので」

「はい! 工房で一緒に作りましょう!」


 現実世界では、自分の服を自分で作るなど、考えたことも無いが。折角こちらの世界ではそれができるのだから、積極的に挑戦してみるべきだろう。

 ライブラとは生産職のレベルもほぼ変わらないので、ライブラが作れる物は自分の手でも問題無く作れる可能性が高い。

 これまでは何となく洋装を着ていたが、別に拘るつもりもない。こういう涼しげな和装を自分の手で縫えるのなら、まだ暑さが本格化する前の今のうちに、一揃い作ってしまいたい所だ。


「ははっ。何だかお前ら、随分と奇妙な一団にしか見えねえなあ」


 門前に集まっているシグレ達の姿を見て、衛士頭のラウゼルがそんな風に笑ってみせる。

 結局の所、シグレの格好がどうであれ、ミニスカ巫女服という奇抜な格好が三人も(たむろ)していれば、そう言われるのは仕方の無いことだった。


「そういう事言うと、バルクァードあまり狩らずに帰ってきますが?」

「ははっ、そう言われると衛士としては困る所だなあ。よし、俺が悪かった。この通り謝るから、全力で狩ってきてくれ。今は数がさらに増えたんでなあ……」

「数が増えて……そうなのですか?」

「ああ。雨期の間にさらに個体数が増えたようだ。もともと雨期の最中には掃討者もあまり狩りに出なくなるし、レベルの低い魔物は個体数を増やしやすくてな」


 魔物は『分裂』でその個体数を増やすが、この『分裂』の頻度は魔物のレベルが低いほど高くなる傾向がある。

 バルクァードはレベルが『6』と低い魔物なので、雨期が続いた三週間だけで、それなりに数を増やしていてもおかしくはない。北門を守護する衛士頭のラウゼルが言うのだから、個体数が増えているのは間違いない事実なのだろう。


「バルクァードに限らず、雨期明けは魔物の討伐報賞金が上がっていることが多いですね。今回の主目的は採取ですが、見かけたら積極的に狩りたい所です。

 また、供給が減少して肉類の価格なども一時的に上がっていると思います」

「なるほど……。では〈魔物感知〉で捕捉したら、なるべく狩って行きましょう」


 現状特に不足してはいないが、お金はあって困ることは無い。

 カグヤの言う通り、見かけたら積極的に狩るぐらいでも良さそうだ。


「戦果を楽しみにしてる。ただ、無理はするなよ?」

「はい、必ず無事に戻って来ます」


 そう言葉を交わしてラウゼルと別れ、一行は門から伸びる街道を進む。

 先日の〈迷宮地(ダンジョン)〉探索でのこともあるし、実際安全には気をつけたい所だ。


 北門を出た先のエリア『アリム森林地帯』は、北門を出てすぐ、数百メートルも歩けば街道は森林の中へと分け入っていく。

 シグレはサンドイッチや焼菓子といった〈ストレージ〉に入っている強化(バフ)を得られるアイテムを配布し、皆でゆっくりと歩きながらそれを囓る。


 現在シグレが持っている調理レシピの強化(バフ)は、いずれも『240分』の効果時間を持っている。

 調理アイテムの強化(バフ)は、効果は小さいが持続時間が長い。

 正午までにカグヤが店に戻れるようにしなければならないので、なるべく今回の採取行では『240分』という効果時間が切れる前に、街へ戻りたい所だ。


 ―――そう、思っていたのだが。


『……主人』

「ええ。この距離まで近づけば、僕にも判ります」


 黒鉄の言葉に、シグレは頷く。隣ではエミルもまた厳しい表情をしていた。

 《魔物感知》の有効距離は、自分を中心に『半径200メートル』。森が目と鼻の先に迫ったこの距離まで来ればシグレにも判るし、黒鉄とエミルの二人はスキルのランクを伸ばしているため、より遠距離から感知できていたことだろう。


「どうされたんですか……?」


 訝しげにライブラがそう問いかける。カグヤも隣で不思議そうな顔をしていた。


「どうやら僕たちが思っている以上に、魔物は数を増やしているようです」


 すぐにシグレは自分の持つ〈マップ〉の情報をパーティ全体に共有する。

 こうすることで《魔物感知》で察知した魔物の位置をマップに投影させ、仲間に共有することができるようになるのだが。


「これは―――」


 視界内に表示させたマップ情報を見て、カグヤが言葉を失う。

 まだ森の中には入っていないというのに。シグレが感知可能な『200メートル』という範囲内だけでも、魔物の存在を示す赤いマークが、ゆうに20箇所はマップの中で点灯していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ